ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

抵抗 死刑囚の手記より

2010-01-31 16:58:56 | た行
これは本当に圧倒されました!



「抵抗 死刑囚の手記より」90点★★★


岩波ホールがこの2月から
過去の名作を上映する
「岩波ホールセレクション」。



その第二弾として3/20から上映される
1956年制作のフランス映画です。


1943年、ドイツ占領下のフランスで
レジスタンス活動をして投獄された若き青年
慎重かつ周到な計画と、ギリギリの精神力で
脱獄を試みる、という話。


脱獄モノはいつの時代もハラハラさせられる題材ですが
いや、これほど息をのみ
心臓をバクバクになった映画もありません。


しかし
ロベール・ブレッソン監督の手法は実にシンプルで

場面はほぼ狭い独房内と
1日数分だけ彼が出られる中庭のシーンのみ。

その限られたエリアのなかで
地道に脱獄計画を実行する主人公
カメラは密着し
その様子をじっと写している。

端正な顔をした主人公の
アップを多様して緊張感を盛り上げ

無音の静けさで臨場感を盛り上げ
主人公の息づかいと、気力の限界を
そのままに映し出してきます。

そしてもうこれは
プレス資料にある映画評論家・佐藤忠男さんの解説が
“神”なので、引用させていただいちゃいますが


「(囚人の)青年が自分で知ることができるもの以外は
いっさい撮らないのである。
(中略)これが恐るべき効果を生む」


つまり青年が床をカリカリやっているときに
外で物音がする。
で、青年も、観客も固まる。

そこで、看守が歩いてくるような
カットを挟むことをせず
音がやむまで、主人公と我々を固まったままに
させておくんです。


で、音がしなくなると
青年は、おもむろにカリカリやりだし
我々もまた、ホッと胸をなでおろす。


カメラが主人公が実際に見ることができる
知ることのできる情報しか写さないことで
観客は本当に
独房にいる主人公自身になったかのような気分になり

「結果、いま体験していることの
かけがえのない貴重さが増すのである」(by.佐藤忠男)

ということです。


わずか97分を永遠に感じることが
すなわちとてつもない充足感につながる。
こういう感覚が
まさに映画の至福ではないでしょうか。

試写終了後、
隣の席の60代とおぼしき男女は
「うーむ・・・」「・・・すごかったわね・・・」と言ったきり
固まったまま
立ち上がろうとしませんでした。


ぜひ、体験してください。

★3/20~4/16まで岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「抵抗 死刑囚の手記より」公式サイト


第一弾(2/20~3/19上映)の
「海の沈黙」も
ジャン=ピエール・メルヴィル監督の伝説的な処女作。


今後、この上映ラインナップは注目ですね。
コメント (2)
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プリンセスと魔法のキス

2010-01-30 12:57:19 | は行
昔ながらの手描きアニメーションが
新鮮でチャーミングな

「プリンセスと魔法のキス」65点★★


まあ「カエルの王子さま」
アレンジしたお話ですね。

主人公ティアナは
アメリカ南部ニューオリンズに暮らす
元気な女の子。

いつか自分のレストランを持つことを夢みて
バイトをかけもちしている。

ある舞踏会の夜、プリンセスの衣装を着たティアナの前に
一匹のカエルが現れて
「自分は王子だ」という。

「キスで元に戻るから~」
懇願するカエルに
ティアナは勇気を出してキスをするが・・・?

というお話。


絵柄もストーリーも正統派ながら

主人公が自立した女の子だったり
お金持ちの親友がイジワルでもなく
いい子だったりと

いまふうのエッセンスをちゃんと加えてあります。


それに
主人公ティアナの声を演じるアニカ・ノニ・ローズは
映画「ドリーム・ガールズ」で
ビヨンセとジェニファー・ハドソンと共演したあの人。
(高音パートを歌ってるローレル役ね)

さすが歌も聞き応えがありました。

アニメーションもなめらかで美しいし
笑いどころもある。


なのに途中
うつらうつらしちゃったのは
「ちょっとくらい、目を離してても大丈夫」という
安心からではないかと・・・すんません。


★3/6から全国で公開。

「プリンセスと魔法のキス」公式サイト
コメント (2)
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バッド・ルーテナント

2010-01-29 02:17:38 | は行
やだ!これおもしろかったです!


「バッド・ルーテナント」80点★★★


だって予告編を見たときは
「すっげつまんなさそー」と思ったですよ。


闇社会とつながってる
ドラッグ中毒のワル刑事が
何かの出来事で改心し――みたいな

“いかにも”な展開の警察腐敗ドンパチ映画・・・
という宣伝だったんだもの。


しかーし!全然違う!

もっとシュールだし
宗教的訓辞が散りばめられていて
奥が深い!

あやうく見逃すとこでしたよー。
宣伝の罪!プンプン


舞台はハリケーン・カトリーナに襲われた直後の
ニューオリンズ。

テレンス刑事(ニコラス・ケイジ)は
水没する街で
逃げ遅れた囚人を助けたものの
そのことで傷を負ってしまう。

彼は勇気を称えられ、表彰されもするが
痛みを紛らわせるために
ドラッグに溺れていく。

そんな彼が
ある惨殺事件を担当することになり・・・という話。


一見、坂を転がり落ちる男のような話ですが

ここに描かれているのは
“墜ちていく正義”というような
単純なものではないんですね。

そもそもが
悪人を助けて自分が傷を負う
という業から始まっていたり

ヘビやは虫類
象徴的に使われてたりと

番長、キリスト教には詳しくないけど
存分に宗教的な示唆があるのでしょう。


それにこの刑事
やってることは無茶苦茶なんですが
彼を突き動かしているものは
実は金や欲じゃなくて、安息だったりするわけで。


正義、善悪、許容と拒絶、良心、モラルといった
人の心のあいまいな境界を

ドイツの鬼才・ヘルツォーク監督は
うすーい膜がかかったように
ねっと~りとして、かつユーモラスでシュール
独特の技で描いていくんです。


ニコラス・ケイジは苦手だけど
このヤバさは
彼じゃなかったら
手に負えなかっただろうなあ。

あ「ノーカントリー」の
ハビエル・バルデムって手もありか・・・


★2/27から恵比寿ガーデンシネマほか全国で公開。

「バッド・ルーテナント」公式サイト
コメント (6)
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フィリップ、きみを愛してる!

2010-01-28 04:48:05 | は行
フフフ、このビジュアル
いい感じじゃないですか?



2つのせちゃお。




「フィリップ、きみを愛してる!」73点★★☆



ジム・キャリーとユアン・マクレガーが
ゲイカップルを演じる
実話をもとにした作品です。

市民の頼れる警官であり
妻子持ちのスティーヴン(ジム・キャリー)
ある出来事をきっかけに
ゲイであることをカミングアウト。

さらにIQ169の頭脳を武器に
詐欺師として生きていくことに。

あるとき、彼は刑務所で
やはりゲイのフィリップ(ユアン・マクレガー)と出会い
恋に落ちる

「フィリップのためならナンでもする!」と
暴走するスティーヴンのとった行動とは・・・?というお話。


今回の点数はすべて
優しげな瞳でゲイを演じた
ユアン・マクレガーに捧げたい!

ちょっとポーッとしてて
受け身なところがまた可愛らしくって

マジ守ってあげたくなりました。

ジム・キャリー演じる詐欺師の
奇想天外な行動の動機が
このフィリップ君だという話なんですが

動機が「愛」という場合、
その多くは可視化しにくい。
「この女のどこがいいわけ?」と
思ってしまうと台無しなわけです。

でもこのユアンのためなら、
「やるかもしんない!」と思いましたよ。

これほど説得力ある相手も
そうそういないだろうなーと。


今日、番長は新宿二丁目まで出張し
伏見憲明さんに、この映画について伺ってきましたが

プロの目から見ても
やっぱりユアンはよかったそうです。

ただ伏見さんによると
動機が「愛」というのは表層的なもので
もっと深いテーマがあるとのこと。

番長もその通りと思いましたが
やはりツウ人の深い洞察と
それを言葉にする構築力は違いますね。

伏見さんのインタビューコメントは
3月初旬発売の週刊朝日で掲載予定です。お楽しみに!


★3/13から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「フィリップ、きみを愛してる!」公式サイト
コメント (3)
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アエラと週刊朝日

2010-01-27 03:12:24 | ぽつったー(ぽつおのつぶやき)

今日は映画好きのために宣伝~。


今週発売のアエラ(2/1号)に
台湾女優リン・チーリンのインタビュー記事、書いてます。



絶世の美女の“美の秘訣”を知りたいかたは
57ページを!


これまた発売中の週刊朝日(2/5号)に
公開中の映画「サロゲート」について

ロボット工学博士・石黒浩さんの
インタビューコメント、書いてます。



「ロボットより生身の人間がいいなんて
よくあるSF的展開は
現実にはあり得ないんだ」という

すっごく興味深いお話でした。


短い記事ですが興味あるかたは
56ページを!


この「ツウの一見」というページは
毎回、各界のツウ人や
その映画にまつわるプロフェッショナルのかたに
おすすめ映画を紹介していただく趣旨なのですが

「この人に、この映画」というマッチングの妙で
なかなかおもしろいんですよ。


いや、手前味噌でなく
アレンジするのは映画会社の人だし

番長はいつも「へえー」と目からウロコで
話を聞いてくるだけなので。


ここで詳しく話したい~といつも思うんですけど
そういうわけにもいかないし。


今週は
「フィリップ、きみを愛してる」で伏見憲明さんに
アイガー北壁」で石川直樹さんに
海の沈黙」で平野啓一郎さんに

お話を伺ってきます。


掲載はだいたい公開3週間前~前週なので
気になる映画があるときは
チラチラ(立ち読みでも)見ていただければ!
コメント (4)
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