ブルーノ・ガンツの遺作、と観に行けば間違いなし!
予想外にしみます。
「17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン」74点★★★★
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1937年、ナチスドイツとの併合に揺れるオーストリア。
自然豊かな湖のそばの田舎に暮らす
純真無垢な青年フランツ(ジーモン・モルツェ)は
母親と二人暮らし。
が、ある事情から
彼は大都会ウィーンのタバコ店に働きに出ることになる。
店主オットー(ヨハネス・クリシュ)に仕事を教わり
都会の生活になじんでいくフランツは
祭りで出会った女性(エマ・ドログノヴァ)に一目惚れ。
店の常連客であるフロイト(ブルーノ・ガンツ)に恋の悩みを相談し、
二人は不思議な絆で結ばれていく。
だが、ナチスの侵攻は
じわじわと、ウィーンの人々の心を蝕んでいく。
やがて、オットーの店にも
いやがらせがはじまり――――?!
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正直、邦題がいまいちかもですが(笑)
いや、この映画は丁寧で、高潔で、美しい!
多くの人に知ってほしいなあと思いました。
オーストリアの湖畔の田舎で
自然と、動物(といっても死体に。笑)に親和している17歳のフランツ。
ちょっと障害があるんだろうか?くらいの素朴さが際立つ青年なのですが
(「山の焚火」(85年)を彷彿とさせるのだ!)
そんな彼が、ある事情で母の知り合いを頼り、
都会ウィーンに出て、タバコ屋で働くことになる。
女の子に妄想する純朴な青年の恋の悩み、
そしてフランツはそれを常連客のフロイトに相談し、
二人のあいだに、交流が始まったりする。
しかし、彼の微笑ましい青春の日々が
ナチスの影響で、少しずつシビアになっていく。
街が、人が、少しずつおかしくなっていく。
世の中が、何かに侵され、人々が流されていく。
いま、この現実を映すような、リアルな不穏の空気に、
ゾクっとさせられるし
そんな状況に抵抗する数少ない市民の
小さくも心を鼓舞するエピソードに揺さぶられました。
ユトリロの絵画のような町の雰囲気や
主人公が見る夢のシュールさも、味わい深い。
そしてフランツ青年をさりげなく指南する
フロイト教授役、ブルーノ・ガンツがまたいいんです。
「恋がわからない!」と悩むフランツに
「恋なんてわからないものだ。水に飛び込むときに水を理解しているか?」とか
うーん、名ゼリフなり!
不穏に覆われてしまった街で
フランツが、ある意思をかかげるラスト。
その後をあえて描かずに、湖に沈む破片で表した、
そんな哀しみの余韻が、すごく好き。
過ちを、繰り返すことなかれ、と
歴史は、映画は静かに伝えているのだと感じました。
★7/24(金・祝)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。