すべて身近にある悲劇だからこそ、重く、染みる。

「日本の悲劇」69点★★★☆




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2011年の晩秋。
東京にある木造平屋の家に

不二男(仲代達矢)が
息子の義男(北村一輝)に付き添われて帰ってくる。


不二男は最近妻を亡くし、
肺がんをわずらい、
しかし手術を拒んで、病院を勝手に退院してきたのだ。

義男の説得に耳を貸さず、自室にこもった不二男は

家族との過去を次々と思い出していく――。
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「春との旅」小林政広監督×仲代達矢コンビの第2弾。

全編ほぼモノクロで、
舞台は古い木造家屋の室内のみ。

ワンシーンずっと芝居が続く、舞台劇のような長回しを基本に
ほぼ仲代氏と息子役・北村一輝の二人芝居という、
かなり実験的な映画です。

ワシには「春との旅」より
心に入ってきました。


描かれるのはどこにでもある家庭の、どこにでもありそうな悲劇。
40代の息子はリストラされ、うつ病を患い、妻子とも別れ

父の年金で生活している。

その父親は
妻に先立たれ、いま自分も病におかされ

そこに震災の不幸も重なってくる。

不況、解雇、貧困、病気、介護、孤独、死、そして震災――
すべてが日本社会が抱える不幸であり、悲劇であり、
他人ごとではない。

自室にこもって死を待つ“即身仏”のごとき父親は、
暗い部屋のなかで、様々な家族の思い出を振り返るんですが、
最後に、もっとも幸せだったであろうときの記憶が
カラーで描かれるのが切ない。

動きが少なく、終始暗い画面ゆえ
カクッと眠気に襲われる瞬間はあったけど
終わって、充実感が残りました。

特に「遠くで鳴る電話をなかなか取れない」という
シーンが印象的。

自分の死の間際って、こんな感じな気がしますわ。マジで。

★8/31からユーロスペース、新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。
「日本の悲劇」公式サイト