廃墟好きを自認するワシですが
この映画で、少し、気持ちの持ちようが変わりました。
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「人類遺産」70点★★★★
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「いのちの食べかた」「眠れぬ夜の仕事図鑑」など
常に黙って、固定カメラで
現実を切り取るニコラウス・ゲイハルター監督が
人に打ち捨てられた
世界の廃墟や建造物をじっと見つめた作品。
まるで宇宙空母のような
ブルガリアの共産党ホールに圧倒され
海のなかに置き去りにされた
ニュージャージー州のローラーコースターに感動し
日本の軍艦島の不思議な郷愁に打たれる。
まるで
人類亡き後のSFの世界のような
朽ちてゆくものが醸し出すカタストロフィ、
フォトジェニックな美しさ――に魅了されます。
まさに「生きているものはいないのか」な世界で
雨や風が唯一、動きあるものとして目を引きますが
ここでは監督、送風機で風を送るなど
演出もしているそうです。
なので、監督の作品のなかでも
けっこうフィクションに近い面持ちがある。
それは別にいいと思うんです。
ただ、
ワシも1990年代、いやそれ以前から
廃墟好きを自認しているんですが
この映画でかなり、気持ちの持ちようが変わりました。
なぜかというと
福島が出てくるから、なんですよ。
誰もいなくなった無人の街、
時の止まったコンビニやマクドナルドを見ながら
胸が潰れそうに痛んだんです。
そうすると
そのあとに軍艦島を見ても
「ここに住んでいた人は、これをどう見るのだろう」と
いままで感じたことのない思いがわき出るようになった。
いままで、自分がこうした場所に抱いていた思いと
そこにいた、当事者の思いには温度差があるのでは――?!ということに
あらためて思い至った、というか。
これ、自分としては
かなりショックな出来事であり
視点の変わる経験でした。
監督はプレスのインタビューで
「撮影するうちに、ただの廃墟では意味がないことがわかった。
その場所に『物語』があることが、重要だった」と答えていますが
それらの場所に、どんな思いでカメラを向けたんだろう――と
聞いてみたくなりました。
★3/4(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
「人類遺産」公式サイト