ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ヘルプ~心がつなぐストーリー~

2012-03-31 20:29:14 | は行

黒人メイド役のオクタヴィア・スペンサーが
アカデミー賞助演女優賞に輝いております。

「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」71点★★★★

1960年代前半、アメリカ南部。

大学を卒業したスキーター(エマ・ストーン)が
故郷のミシシッピ州に戻ってくる。

同級生たちがみな結婚してるなか、
彼女は一人浮いた存在だが、まったく気にもせず、
「とにかく仕事がしたい!」と地元の新聞社へ。

家事コラムを書く仕事をゲットした彼女は
黒人メイドのエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)にアドバイスを求める。

エイビリーンと接するうちに
スキーターは黒人メイドたちの現状を伝える本を
書きたいと思い始めるが――?!


1960年代。
白人と黒人の「人権分離法」のもと
あからさまな差別を受けている黒人メイドたちの現状を、
インタビューして本にしようとする新米ライターの話。

白人と同じトイレを使わせてもらえなかったり、
たかだか50年前の出来事がまるでSFのようですが


歴史を振り返ると
こうした時代の価値観というものの怖さを感じます。

そうしたものに流されず
あなたは自分の規範や価値観で動いているか?と問いかける、間違いなくいい映画。

いい映画、なんだけど
う~ん、もひとつ噛みごたえがないというか、
もう少しスパイシーだったり、クリスピーだったりの
変化が欲しかったというのが正直な感想。

出てくる南部料理の印象そのものですね。
どれも柔らかくて、ちょっと大味?みたいな。


シビアなテーマながら、実話でないことが
重苦しさがなくユーモアたっぷりというプラス面と
逆に“お話”っぽさが鼻につく
マイナス面の両方を持ちあわせているというのかな。

あくまでも話が
“女たち”のなかで進み、完結しているところが
特徴でもあり、弱さでもあるというか。

差別主義のヤな女に、同調しちゃう仲間たち、とか
いかにも“女子社会”な印象でね。

うまくできた映画ですが
ま、そんなふうに感じるところもあった、と。

そのヤな女演じるブライス・ダラス・ハワードが
見事に最高にヤな感じですけど(笑)


★3/31から全国で公開。

「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」公式サイト
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ルート・アイリッシュ

2012-03-30 17:49:28 | ら行

ケン・ローチ風「ハート・ロッカー」?

「ルート・アイリッシュ」73点★★★★


2007年、イギリス・リバプール。

ファーガス(マーク・ウォーマック)と
フランキー(ジョン・ビショップ)は幼なじみの親友。

二人は国の兵士ではなく
民間兵としてイラク戦争に参加していた。

しかしファーガスがイギリスに帰国した後、
フランキーが現地で亡くなってしまう。

フランキーがテロの標的にされやすく
もっとも危険な道「ルート・アイシッリュ」で死んだと聞かされたファーガスは
その死に疑問を抱き、真相を調べ始める。

そこには驚くべき事実が隠されていて――?!


精力的に良作を送り出している75歳、ケン・ローチ監督。
今回はけっこうストレートなサスペンスでした。

背景にある社会性はいつも通りですが、

冒頭、粗野な振る舞いをする主人公が実は切れ者だったり、
市井派のローチにしては、彼がリッチで小綺麗なマンションに住んでいたり、
アクション要素もあったり、

ところどころに
「あれ?」という戸惑いがあるんですが
すべて計算ずく。

そんな一つ一つの驚きを積み、
「民間兵」という影の存在に光をあて、
静かな問題提起へとつなげる手腕はさすが。

ドラマとしても十分おもしろいんですが

ただイラクネタは
近年の映画でけっこう使われた素材であり、
やはり新味に欠ける部分はあります。

「ハート・ロッカー」もイメージされますが
一番印象近いのは
トミー・リー・ジョーンズ主演の「告発のとき」かな。


息子ジム・ローチの
「太陽とオレンジ」(4/14公開)もあるので
父ローチと息子ローチの相違点を見るのも
おもしろいかもしれません。

意外に父のほうが、トンガってたりしてねコレが(笑)

★3/31から銀座テアトルシネマで公開。ほか全国順次公開。

「ルート・アイリッシュ」公式サイト
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スーパー・チューズデー ~正義を売った日~

2012-03-28 22:51:31 | さ行

二重三重に裏を読んだんですが、ハズレました。
やられた!(笑)

映画「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~」80点★★★★

ジョージ・クルーニーが監督&出演の
米大統領予備選を題材にしたドラマです。


民主党予備選に出馬した
ペンシルベニア州知事のモリス(ジョージ・クルーニー)。

ハンサムでクリーンなイメージで優位に立つ彼は、
ライバルの共和党候補を打ち破ろうとしていた。

彼の選挙参謀となった
若き広報官スティーヴン(ライアン・ゴズリング)もまた
モリスの人柄に魅了され、彼に政治への希望を託した一人。

だが、選挙活動に関わるうちに
スティーヴンは
ある衝撃的な事実を知ることになり――?!


いや~これはマジで見応えありました。
本当に映画の醍醐味をよくわかっている人が作っているなあと。


G・クルーニーがまるで自らにダブるような
誠実でクリーンな大統領候補を演じるのがまず巧妙(笑)

エコエネルギーをプッシュし、中絶も賛成、
同性婚もOKというリベラルぶりの、理想に燃えるリーダータイプ。

しかし、そんな彼が票集めのために、
あるダメ議員と手を組まねばならんという状況になる。

そして、まさかの出来事が発覚。

え?そんな単純にはいくまい……?と、頭脳戦に参加するうち
俳優に騙され、演出に騙され、そしてイメージに騙されと
二重に三重に、騙される(笑)

それが快感ですハイ。

米選挙の仕組みは本当に複雑で、
この映画ですべてがわかるわけじゃないんですが
見ててわかんないことはないので、大丈夫。

それに根っこにある問題はたぶん
日米もさほど変わらないはず。

期待した政治家がこういう理由で身動きとれなくなるんだぁとか
おもんばかれる感覚になりました。

フィリップ・シーモア・ホフマン、ポール・ジアマッティと、
曲者たちの活躍も期待どおりだしね。

冒頭、希望に燃えてこの世界に入ってくるスティーヴンに
ベテラン政治記者が
「ホントに1人に世界が変えられると思うの?」とクールに言うんですが

その言葉が、最後に響いてきます。

それでも、我々はそういう世界で
決断をしていかなきゃならねえんだ!と

厭世的にならず、政治に向き合わねばらなんと
思いました。


★3/31(土)から全国で公開。

「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~」公式サイト
コメント (2)
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ドライヴ

2012-03-27 23:39:20 | た行

一言でいうと「心憎いねぇ」という映画。


「ドライヴ」80点★★★★

第64回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作です。


天才的なドライビングテクニックを持つ
“ドライバー”(ライアン・ゴズリング)。

依頼を受ければヤバい仕事の逃走も請け負い、
パトカーをも巻いてしまう。

ある日、彼は同じアパートに住む
子連れのアイリーン(キャリー・マリガン)に出会う。

互いに惹かれあい、少しずつ距離を縮めていく二人だが、
アイリーンには服役中の夫がいた――。


いや~これはカッコイイ映画す。

久々に演出と絵、音楽とムードでグイグイ乗せてくタイプで
マジ魅了されました。

特に主人公たちの触れそうでなかなか触れ合わない男女の刹那に、
もう
指先がジ~ン(笑)

言葉なんかいらない俳優の体温と、映像の光と影、
クールな距離感、そして音楽使いでグッと観客をつかみ

さらに甘めに持っていって
「アッ」とさせる後半も
心憎いねえ。

ただ、これクライム・ムービーであり
後半けっこうグロくなったりもするので
少々心の準備はしといてくださいね。


なにかのテレビで見たんですが
「女が男に萌える瞬間」に
「シートに手をかけながら、片手で車をバックさせるとき」とかいうのがあった。

そう、
女ってなんでドライブテクに弱いのか(笑)

かつ冷静沈着で寡黙な男なんて
ライアン・ゴズリング、これはオイシイ役としかいいようがありません。

さらにキャリー・マリガンも
デニーズ(たぶん)の制服姿が
めっちゃキュートす。

★3/31(土)から全国で公開。

「ドライヴ」公式サイト
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少年と自転車

2012-03-26 23:04:53 | さ行

ダルデンヌ兄弟の新作にして
カンヌ映画祭史上初の5作品連続主要賞を受賞。

そんな離れ業も納得でした。

「少年と自転車」78点★★★★


12歳のシリル(トマ・ドレ)
父親に児童養護施設に預けられる。

シリルは父に会いたい一身で
施設を飛び出し、反抗を繰り返す。

そんなシリルと偶然出会った美容師のサマンサ(セシル・ドゥ・フランス)は
父(ジェレミー・レニエ)を探し出し、会わせてやる。

だが父はシリルに
「もう会いにくるな」と言うのだった――。


父に捨てられた少年のハリネズミのような抵抗と
彼に手を差し伸べる女性の邂逅を描く作品。

重めのテーマではありますが
ダルデンヌ作品のなかではハッとするほど明るい色調で
話も非常にわかりやすく、スッと爽やかな風が吹きぬける印象があります。


父を求めてホームを飛び出し、
拒絶されても受け入れられたいと願い
動物のように逃げ、走り、攻撃する少年の姿は
名作「冬の小鳥」のジニにかぶります。

しかしジニは女の子だったけど、男の子の場合より抵抗が動的で
より「扱いが大変だよなあ」という印象。

すべてはそのか細い心と体に
インプットされた防御本能なんですけどね。

見てると、まあ扱いにくいこと(笑)。

しかし、抵抗されてもあきらめず
少年を受け入れようとするサマンサの粘り強さと
その自然なふるまいがとてもステキ。

ともすれば悪いほうにも流れてしまう
「子ども」という未完成の器にどう愛情を注ぐべきなのか?

サマンサの存在と対応に、学ぶものは非常に多いです。

さらに、
なんとこの話、日本で監督が聞いた
ある話が基になっているそう。

来週4/3発売の週刊朝日「ツウの一見」で
その基となるお話を監督にした
弁護士の石井小夜子さんにお話を伺ってます。

少年犯罪を専門とする石井さんがシリル少年によせるまなざしは
とても深く興味深いものでした。

新レイアウトで文字数も若干増えていますので
ぜひご一読を☆


★3/31(土)からBunkamuraル・シネマで公開。ほか全国順次公開。

「少年と自転車」公式サイト
コメント (2)
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