実にビビッドなテーマ。
91歳がたどり着いた全てがユーモアとともに込められている。
「クライ・マッチョ」75点★★★★
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アメリカ、テキサス。
かつてロデオ界のスターだったマイク(クリント・イーストウッド)。
しかしそんな彼にも老いは忍び寄り
仕事先も解雇され、孤独な暮らしを送っていた。
そんなとき、マイクは元雇い主から
「別れた妻に引き取られ、いまメキシコに暮らす10代の息子ラフォを
連れ帰ってほしい」と頼まれる。
要は誘拐してこい、ということ。
雇い主に恩義のあるマイクは断れず
メキシコにやってくる。
当のラフォ(エドゥアルド・ミネット)は母親を嫌い、
家を出てストリートで闘鶏をして暮らしていた。
警戒心をむき出しに、マイクに刃向かうラフォだったが――?
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おもしろかった~。
ちょっと大味さもあるけれど、気持ちよい。
メキシコを舞台にした老カウボーイと少年のロードムービー、
民族や多様性、強い女性、次世代への継承、心地よいロマンス、そしてマッチョの再考——
91歳のイーストウッド監督がたどり着いた全てが、
悠然とした空気、プッと笑うユーモアとともに込められていて、
いいんですよ。
まずなんといっても
90歳にして背筋ピン、で主役を張る
イーストウッド氏のカッコよさよ。
動きは少しスローになったかもだけど、
いやいや、体幹まったくブレてない。
動物を愛し、女性に優しい。
そんな老カウボーイと旅することになる少年ラフォは
可愛がっているニワトリに
「マッチョ」と名付けて、自分もマッチョ(強い男)になりたい、と願っている。
(この鶏が、マジで強くていいキャラ!笑)
そんなラフォをマイクは
「マッチョはカッコいいことじゃない。くだらないぞ」と諭すんです。
そして、若者に「真のマッチョ(強さ)とはなんたるか」を自身が示し、教えていく――という展開。
マイクは時を経てここにたどり着いたのか。
たしかに、奧さんや子どももいたのに、いま孤独なマイクは
過去に反省も多々あるでしょう。
でもワシは
「正しきマッチョ」のありかたは
ずっとマイク(=イーストウッド氏)の心にあったのではないか――と感じる。
マッチョ、はともすればマチズモ(男性優位主義)思考となり
忌み嫌われるものだけれど
でも、マッチョの真意には
正義や公平性、女性への敬意、
弱気ものを守るべき存在として前に立つ、という精神があったはず。
反転すれば、そこには男性側の
「それをせねばならない」プレッシャーもあるわけで
結果、間違ったマチズモ――オラオラな態度やミソジニー――にゆきかねない。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」も、そんな
強いられる男性性に飲み込まれた男性のしんどさを
描いているなあと思ったし
いろいろが微妙なこの時代に、あえてマッチョ、という言葉を使った
イーストウッド氏の心のうちを考えたり
と、話が逸れまして失礼。
いやいや、そんな難しいことナシに
本作は、けっこうシンプルに楽しいです。
動物好きで、動物の病気にも詳しいゆえ
町の人たちから、次々と具合の悪い動物を持ち込まれるイーストウッド御大が
「オレはドリトル先生か?!」(笑)と憤怒するシーンとか、めっちゃ笑えるし。
ぜひメキシコの風にふかれる
気持ちよい時間を過ごしてください。
★1/14(金)から全国で公開。
イーストウッドさんが少年に静かに話す内容は、スクリーンのこっち側に向けた「遺言」ではないか?
「運び屋」の時は飄々とした姿に長く生きた余裕を感じたのですが、今回はなぜか泣けてきた作品でした。
でもまだまだ撮り続けてほしいし
主役張ってほしいです
病院を舞台に
ベッドに寝てる主人公でもいい!
(ほんとに考えてるかも、、、笑)