ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

クライ・マッチョ

2022-01-16 12:17:29 | か行

実にビビッドなテーマ。

91歳がたどり着いた全てがユーモアとともに込められている。

 

「クライ・マッチョ」75点★★★★

 

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アメリカ、テキサス。

かつてロデオ界のスターだったマイク(クリント・イーストウッド)。

しかしそんな彼にも老いは忍び寄り

仕事先も解雇され、孤独な暮らしを送っていた。

 

そんなとき、マイクは元雇い主から

「別れた妻に引き取られ、いまメキシコに暮らす10代の息子ラフォを

連れ帰ってほしい」と頼まれる。

要は誘拐してこい、ということ。

 

雇い主に恩義のあるマイクは断れず

メキシコにやってくる。

当のラフォ(エドゥアルド・ミネット)は母親を嫌い、

家を出てストリートで闘鶏をして暮らしていた。

 

警戒心をむき出しに、マイクに刃向かうラフォだったが――?  

 

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おもしろかった~。

ちょっと大味さもあるけれど、気持ちよい。

 

メキシコを舞台にした老カウボーイと少年のロードムービー、

民族や多様性、強い女性、次世代への継承、心地よいロマンス、そしてマッチョの再考——

91歳のイーストウッド監督がたどり着いた全てが、

悠然とした空気、プッと笑うユーモアとともに込められていて、

いいんですよ。

 

まずなんといっても

90歳にして背筋ピン、で主役を張る

イーストウッド氏のカッコよさよ。

動きは少しスローになったかもだけど、

いやいや、体幹まったくブレてない。

 

動物を愛し、女性に優しい。

 

そんな老カウボーイと旅することになる少年ラフォは

可愛がっているニワトリに

「マッチョ」と名付けて、自分もマッチョ(強い男)になりたい、と願っている。

(この鶏が、マジで強くていいキャラ!笑)

 

そんなラフォをマイクは

「マッチョはカッコいいことじゃない。くだらないぞ」と諭すんです。

そして、若者に「真のマッチョ(強さ)とはなんたるか」を自身が示し、教えていく――という展開。

 

マイクは時を経てここにたどり着いたのか。

たしかに、奧さんや子どももいたのに、いま孤独なマイクは

過去に反省も多々あるでしょう。

でもワシは

「正しきマッチョ」のありかたは

ずっとマイク(=イーストウッド氏)の心にあったのではないか――と感じる。

 

マッチョ、はともすればマチズモ(男性優位主義)思考となり

忌み嫌われるものだけれど

 

でも、マッチョの真意には

正義や公平性、女性への敬意、

弱気ものを守るべき存在として前に立つ、という精神があったはず。

 

反転すれば、そこには男性側の

「それをせねばならない」プレッシャーもあるわけで

結果、間違ったマチズモ――オラオラな態度やミソジニー――にゆきかねない。

 

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」も、そんな

強いられる男性性に飲み込まれた男性のしんどさを

描いているなあと思ったし

いろいろが微妙なこの時代に、あえてマッチョ、という言葉を使った

イーストウッド氏の心のうちを考えたり

 

と、話が逸れまして失礼。

いやいや、そんな難しいことナシに

本作は、けっこうシンプルに楽しいです。

 

動物好きで、動物の病気にも詳しいゆえ

町の人たちから、次々と具合の悪い動物を持ち込まれるイーストウッド御大が

「オレはドリトル先生か?!」(笑)と憤怒するシーンとか、めっちゃ笑えるし。

 

ぜひメキシコの風にふかれる

気持ちよい時間を過ごしてください。

 

★1/14(金)から全国で公開。

「クライ・マッチョ」公式サイト


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2 コメント

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Unknown (大阪マラソン)
2022-01-16 17:33:28
観ながらあたしゃ考えた。
イーストウッドさんが少年に静かに話す内容は、スクリーンのこっち側に向けた「遺言」ではないか?

「運び屋」の時は飄々とした姿に長く生きた余裕を感じたのですが、今回はなぜか泣けてきた作品でした。
返信する
たしかに (ぽつお番長)
2022-01-29 13:15:22
もはや、その一筆、一筆が貴重ですね。。。

でもまだまだ撮り続けてほしいし
主役張ってほしいです

病院を舞台に
ベッドに寝てる主人公でもいい!
(ほんとに考えてるかも、、、笑)
返信する

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