ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

スーパーノヴァ

2021-06-30 22:06:12 | さ行

スタンリー・トゥッチも素晴らしいが

コリン・ファースが最高に素敵だ。

 

「スーパーノヴァ」77点★★★★

 

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イギリスの田園地帯を走る、古びたキャンピングカー。

ハンドルを握るのはサム(コリン・ファース)。

助手席にはタスカー(スタンリー・トゥッチ)。

 

けっこうひねくれ者っぽいタスカーの繰り出す皮肉や軽口を

サムは自然にさばきつつ、

旅をしている。

 

二人はこんなやりとりをしながら

20年来をともにしてきたパートナーなのだ。

 

が、実はタスカーはだんだんと記憶と体力を失っていく

病と闘っている。

 

サムは「ちょっと混乱しただけだよ」とタスカーをはげますが

タスカーには、この旅においての、ある覚悟があったーー。

 

*******************************

 

最近「人生の終わりを、自分で選択する」テーマの映画がめっちゃ多い。

 

「やすらぎの森」しかり、「海辺の家族たち」しかり、

「椿の庭」しかり、

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」もそう。

いままでに、ワシに最もそれを考えさせたのは

「母の身終い」(13年)だった。

 

全てにおいて、ワシはその選択に肯定派だし

「自分もそのときは、そうしたい」と

いまもそう思ってるんですが

でも、この「スーパーノヴァ」ほど、共振したのは初めてだと思う。

 

だって、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチ。

二人の演技が最高なんだもん。

 

病を抱える側・タスカーを演じるトゥッチももちろんいいけれど、

さまざまな思いを胸に秘め、相手を包み込む

相方・サム役のコリン・ファースが最高に素敵なんですよ。

(もうね、男性のカップルだとか、そんなところは

映画も飛ばしてるし、

ワシも飛ばしてるんですみません。笑)

 

こんな人に見守られながら、「ごめん、お先に!」といきたいけど

いや、違うだろ?

こんな人だからこそ、別れるのイヤじゃん!? (泣)って

タスカーの揺れる気持ちが、痛いほどわかる。

でも、それを超えて、タスカーは言うんですね。

「君が好きだった私を憶えていて欲しいんだ。”私じゃなくなった”私じゃなくて」

 

――いままで、いろんな映画や小説などで

同じ意味合いの言葉を聞いてきた。

でも、トゥッチの発するこの言葉は

これまでになく深いところにグサッと突き刺さって

めちゃくちゃ、腑に落ちたんですよ。

 

だからこそ、そのとき「そんなの絶対にイヤだ!ダメだ!」と抵抗していたサムも

気づくんだよね。

 

それを実行しようとする、タスカーのほうが

どれだけつらく、恐怖であることか、と。

 

そして、お互いを思いやるからこその、この結末。

 

悲しいだけじゃなく

全編をとおして

二人の穏やかで深い愛が伝わってくる。

そのぬくもり、不思議なやすらぎが残像のように残って

どこか、安らかな気持ちにもなる

ホントにいい映画っす(思い出すだけで、泣けてくるさ)。

 

これを観てから

「自分がもしものときに、その決断をできるか」じゃなく

「それを相手が望んだときに、自分はしてあげられるだろうか?」に

視点が変わってます。

映画ってすごいよね。

 

★7/1(木)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「スーパーノヴァ」公式サイト

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いとみち

2021-06-26 23:10:25 | あ行

うん、これは快作!

 

「いとみち」76点★★★★

 

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青森県弘前市の高校生いと(駒井蓮)は

この世代には珍しい「ド・津軽弁」を話す女子。

 

密かにクラスメイトの早苗(ジョナゴールド)と

話してみたいと思っているが

人見知りゆえ、なかなかきっかけがつかめない。

 

いとの父(豊川悦司)は津軽弁を研究する学者で

いとが幼いころ亡くなった母は、津軽三味線の名手でもあった。

いともまた、祖母(西川洋子)の手ほどきで

三味線コンクールで入賞する腕前だが

最近は、三味線にも身が入らない。

 

「自分は何がしたいんだろう」――

 

悶々としていたある日、

いとがスマホで見つけたのは

「メイドカフェ」の求人。

 

え?いっちょ、やってみる?と

面接に向かうのだが――?!

 

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おもしろかった!予想外によかった!

正直な感想す(笑)

 

1978年、青森県青森市生まれの

横浜聡子監督作品。

 

自身のルーツたる青森を舞台に

そこに暮らす高校生の「自分探し」を描き、

 

テーマはオーソドックスながらも

新しい「ローカル」への視点を持つ

快作だと感じました。

 

冒頭からして

津軽三味線が得意なヒロイン・いとが話すのが

集中して聞いていないとまったく理解できない津軽弁ってとこが衝撃。

 

でも全然おかまいなしに、

いや、むしろ理解を振り切って

ドカドカと話が進むところが好きだ(笑)

 

それはつまり

「地方< 都会」という、なんとなくの固定観念の方程式を

パスッと蹴っ飛ばし、

「標準」におもねらない視線を

ごく自然に、提示してくれているんだと思うんですよね。

(方言でSiriできるんだ!というシーンもびっくらこいた。いいねえ。笑)

 

 

若くして亡くなった妻の実家で暮らす

父と娘、妻側の祖母というやや複雑な環境も

サラッと自然に、居心地よさそうだし

 

そもそも

いとが「ピン!」とくるバイトが

なんでメイドカフェ?(笑)とかあるんですが

そこもフツーに納得させられてしまう。

 

で、

バイト先となるメイドカフェには

シングルマザーとしてがんばる先輩とか

漫画家デビューと東京行きを目指す同僚とか

東京からUターンした店長とか

それぞれの人生を背負ってきた人々がいて

 

いとは

そこでの出会いや、人との関わりを経て、

自身の家族と向き合い、

成長していくんです。

 

シングルマザーやジェンダー問題、格差や貧困――

あらゆる現代を背景にしつつ、

しかし

押しつけがましい「いい話」にするわけでなく、

 

狭い世界にいた高校生が、一歩を踏み出し

社会との接点=バイト先でさまざまを知る過程、

 

それが

10代にとって得難い宝になってく様子が

気取らない筆致でユーモアを交えて描かれていて

いいなあと。

 

 

青森県平川市出身で

雑誌『ニコラ』の専属モデルを経て、俳優デビューしたという

いと役、駒井蓮さんも光ってるし

父親役・豊川悦司さんが抜群の存在感。

 

いろいろを考えさせれながら、

ヒロイン、そして若い世代を応援したくなるのでした。

 

――けっぱれ!

 

★6/18(金)から青森先行公開、6/25(金)から全国公開。

「いとみち」公式サイト

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ブラックバード 家族が家族であるうちに

2021-06-12 22:32:56 | は行

ケイト・ウィンスレット、ミア・ワシコウスカはじめ、

俳優力の妙を存分に楽しめます。

 

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」71点★★★★

 

************************************

 

ある週末。

ポール(サム・ニール)と妻リリー(スーザン・サランドン)が暮らす瀟洒な海辺の家に

娘たちが集まってくる。

 

四角四面な長女(ケイト・ウィンスレット)と

彼女の夫(レイン・ウィルソン)、

そして二人の15歳の息子(アンソン・ブーン)。

 

長女とは正反対で、気ままな次女アナ(ミア・ワシコウスカ)は

恋人クリス(ベックス・テイラー=クラウス)と

久々に顔を見せる。

 

さらに、リリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)も参加して

賑やかな集いがはじまる。

 

だが、これは単なる週末の一家の集いではない。

 

リリーのある決意のもと、彼らは集められたのだ。

 

彼女の決意をどう受け止めるのか、

家族の想いは散り散りに乱れ、

そして家族の秘密が明らかになることに――?!

 

************************************

 


しょっぱな、

超クールでオシャレな海辺の邸宅とインテリアに

やや鼻白んでしまったんですが

あ、そうね、家主の職業が医者なら仕方ないわね、と納得いたしました(笑)

 

しかも

「ノッティングヒルの恋人」(99年)ロジャー・ミッシェル監督ですから

センスいいのは、仕方あるまい。

 

で、そんな家に暮らすシニア夫妻のもとに集まってきたのは

夫婦の娘たちと、その家族。

 

四角四面で融通が利かなそうな

長女(ケイト・ウィンスレット)とその夫、

姉とはまったく違うタイプで

ちょっと不安定そうな次女(ミア・ワシコウスカ)と、そのガールフレンド。

 

この会合は、単なる週末の集いではなく

母リリー(スーザン・サランドン)がある病に冒され、

自分の最期を自分で決め

「その前に、みんなに会いたい」という

実はシビアな会なんですね。

 

その事情は最初から明かされるし

そのうえで、家族は

王道にラグジュアリーに、週末のひとときを過ごそうとする。

 

昼間からワイン片手にだべり、海岸を散歩し、

リリーの望みで、

クリスマスのごちそうを作り、それを祝ったり。

 

それらはすべて、彼女との「最期のとき」のためだと

全員がわかっているのだけれど

 

しかし、そこで姉妹の考えの違いとか、

夫婦の問題とか

いろいろが勃発していく――という展開。

 

母の病気や決意はそれはそれで重く大きいのですが

全然、別なところで事を起こしそうな

凸凹姉妹にハラハラさせられるという(笑)

 

シビアな状況に

長女夫婦のドタバタが入る加減とか

ややビミョーに感じるところもあれど

 

まあ全員が芸達者な役者たちなので

さすがの演技力で

家族アンサンブルの妙を楽しめるし、

こうした問題を、この感覚で描き、示すことが

目的だったのかな、とも思う。

 

スーザン・サランドンの決意とその方法もけっこうリアルで

「あ、そうやるんだ」と

この手に肯定的なワシは、思わず調べてしまった。

 

――という映画なのですが

それにしても、いま思うのは

「自分の最期を自分で選ぶ」話が、すごく多いな、ってこと。

 

 

公開中の

「やすらぎの森」もそうだし

「海辺の家族たち」にも印象的なそのくだりがあったし、

 

日本の「椿の庭」もそう。

 

公開待たれる

「スーパーノヴァ」(7/1公開)もそうだしね。

 

これまでも、たしかに描かれてはきたけど

いま、多い。

なんでしょうね。考えちゃいますね。

 

★6/11(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」公式サイト

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ベル・エポックでもう一度

2021-06-11 00:45:35 | は行

スマホや動画配信の時代に馴染めない中年主人公――ってとこに

共感できたら、観るしかないす!(ワシじゃ!笑)

 

 

「ベル・エポックでもう一度」72点★★★★

 

 

**************************************

 

主人公ヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)は60代。

かつては売れっ子イラストレーターだったが、

デジタル化についていけず

同年代の妻のマリアンヌ(ファニー・アルダン)にも見放されている。

 

そんな父に息子が友人(ギョーム・カネ)が始めた

〈タイムトラベルサービス〉をプレゼントする。

 

それは映画のセットや役者を使って

客の戻りたい過去を再現してくれる

体験型のエンターテイメントサービスだった。

 

ヴィクトルは

「運命の女性と出会った1974年のリヨンに戻りたい」とリクエスト。

 

当日、指定された場所に赴くと

そこには、あの日、あのときのすべてが再現されていた――!

 

**************************************

 

しょっぱな中世貴族の晩餐シーンからはじまり

「あれ?現代劇じゃなかったっけ?」と

意表をついてくる本作。

 

もろもろを理解し没入するまでに少々、時間はかかりますが、

なかなかにおもしろい後味を残してくれます。

 

主人公のヴィクトルは60代。

かつては売れっ子イラストレーターだったけど

スマホや配信動画など新しいものに馴染めず

いまや

完全に時代から取り残され(うっ・・・共感)

半・隠居生活を送ってる。

 

いっぽう、同世代の妻は

VRまで使いこなすアグレッシブな女性。

 

彼女は時代の変化を受け入れずに思考停止し、

あげく会食中に居眠りをする夫に

ウンザリしている(うわあ、うちのおとんとおかんみたいだ!

 

 

この夫婦描写が実にリアルなんですが

さて、映画は、そんなしょぼしょぼな夫ヴィクトルが

息子の勧めで<タイムトラベルサービス>なるものを

試すことになるところから動き出すんです。

 

<タイムトラベルサービス>とは

映画のセットや役者を使って、

客が望む過去を体験させてくれる、というアトラクション。

 

言うなれば

「昭和を再現したテーマパークで、自分が主人公になって

”忘れられない、あの1日”を過ごす」イメージかなあ。

 

で、その体験にハマったヴィクトルは

けっこうな額の追加料金を払って体験の延長をし、

さらに運命の女性を“演じている”女優に恋をしてしまう――という展開。

 

映画やドラマが作り出す「虚構」が大きなテーマでもあり

そこで

完璧に造られた「嘘」を演出する

スムーズでなめらかなカメラワークが、実に気持ちよい。

 

過去に戻る感覚はSFのようでもあるし、

サービスを提供する舞台裏のドタバタも可笑しい(笑)

 

手の込んだ入れ子構造のようで、

実は周りくどすぎる熟年夫婦のラブストーリーだったりもして

けっこう深いんです。

 

過去を体験することを

「あのころはよかったなぁ」とかの

単なる「ノスタルジー」にせず

 

主人公ヴィクトルが、過去を再体験することで

どう変化していくのか――が

見どころですね。

 

主人公の状況に思い当たるふしある方には

ぜひともオススメしたいし

 

てか、実際にこのサービスないの?

本気で思ってしまうのでありました(笑)

 

★6/12(土)からシネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「ベル・エポックでもう一度」公式サイト

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幸せの答え合わせ

2021-06-09 23:36:13 | さ行

アネット・ベニング×ビル・ナイ。

こりゃ、見たくなる夫婦なんですが――。

 

「幸せの答え合わせ」69点★★★☆

 

********************************

 

イギリス南部の海辺の町シーフォード。

美しい景色のこの街で暮らす

妻グレース(アネット・ベニング)と、夫エドワード(ビル・ナイ)。

 

妻グレースは、芸術家肌でややエキセントリック。

そんな妻の要求に

夫エドワードは常に静かに応え、

夫婦はもうすぐ結婚29周年を迎えようとしていた。  

 

が、独立した一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)が

久し振りに帰郷したある日。

 

夫エドワードは突然、

「家を出て行く」と言い出した。


その理由を聞いて耳を疑う妻と息子だったが――?!

 

********************************

 

 

結婚29年め夫婦の終わりとその先を描いた作品。

アネット・ベニングが妻でビル・ナイが夫、と

いや~、これだけで観るでしょ!って

役者は最高です。

 

夫婦のじわじわとした破綻もリアルなんだけど

――う~~~む、これはどうにも気が滅入る。

 

29年の結婚生活を「好きな人が出来た」と、終わらせようとする夫。

マジ?酷い!と思いたいところですが

うーむ、そうではないところが複雑で。

 

どんな夫婦にも型にはまらないイロイロがあるのは承知ですが

このカップルはけっこう、映画で描かれてきたなかでも

珍しいかもしれない。

 

というのは、

夫はすごーく”いい人”なんですよ。

妻に献身的にお茶を淹れ、

妻の言うことになんでもYES、でやってきた。

 

妻のほうがややエキセントリックで

そんな夫を引っ叩いたり、テーブルをひっくり返したり――

DVまではいかないと思うんだけど、ある種のモラハラが蓄積されていたと思われる。

 

で、そんな妻にさすがに愛想をつかした夫が

好きな人を作って出て行ってしまう、という話なんです。

 

女性に非がある、という点を

ちょっと意外に思ってしまうあたりが

ワシもまだある種、固定観念にとらわれているのか――とか

いろいろ考えさせるんですが

 

気が滅入る、というのは

あまり話にスカッと!な展開がないから。

 

夫が29年間、我慢していた、というのは

理解できる。

 

でもねー

そんな状況で夫に去られた妻が

いつまで経っても立ち直らずグズグズするのが

観ていてかなりモヤッとする。

それに

夫婦の間に立つ一人息子も、出来すぎってほどに

いいヤツ過ぎるんだよね――。

 

それでも映画の端々に、

演技派ふたりの厚みと、それを生かした演出は光ります。

 

例えば、夫が紅茶を入れるとき

毎回ティーバックを潰して「絞り出す」ようにする、ちょっとセコい感じとか。

彼に捨てられて一気に抜け殻になる

妻=アネット・ベニングの老けっぷりの凄まじさとか。

 

そして、観る誰もが思うと思うけど

夫と、新しい相手とのヤサを探し出した妻が

その家を急襲するシーン。

 

修羅場を想定した、そのときの

夫のカノジョの応対が

見事すぎて笑える(笑)。

 

いわく

「不幸な人間が3人いた。でも今は1人になった」――

暗に、いやズバリ突き刺す、この冷静な反撃がたまらん(笑)

 

失意の妻の、その後の乗り越え方も

時間はかかったけど、納得はできるもので

 

欧米人の「詩」好きの理由が

初めて、腑に落ちたりもしたのでした。

 

★6/4(金)からキノシネマほか全国順次公開中

「幸せの答え合わせ」公式サイト

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