ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

グリーンブック

2019-02-27 23:30:33 | か行

これは満足度高し!

アカデミー賞作品賞は納得、だと思います。

 

「グリーンブック」80点★★★★

 

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1962年のニューヨーク。

ナイトクラブの用心棒トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は

ハッタリと腕っぷしで重宝されている。

 

が、ナイトクラブの閉店で、

トニーは別の仕事を探さねばならばならなくなった。

 

そんな彼が面接に行ったのは

黒人ピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)が住む高級マンション。

ドクターは南部をまわるコンサートツアーの運転手兼用心棒として

トニーを雇おうとする。

 

黒人に偏見を持つトニーは一度は仕事を断るが

偏見のない良妻(ドロレス・バレロンガ)の後押しもあり

しぶしぶ仕事を引き受けることに。

 

こうしてツアーがはじまるが

英才教育を受け、上流社会で生きてきたドクターと

ガサツで無学なトニー。

凸凹コンビの道中は、想像以上にトラブルだらけで――?!

 

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これはおもしろい映画ですぞ。

先のアカデミー賞で作品賞含む3部門受賞。

もし観客賞あったら、たぶんこれが獲ってると思うし

納得でした

 

1962年。黒人差別がいまだ根強い米社会で

天才黒人ピアニストが、

雑〜なイタリア男と演奏旅行に行くが――⁈という話で

しかも実話が基。

 

お金持ちだけど孤独なピアニストと

ガサツで無学な用心棒。

 

出自も、教養も、品性も違えば、

モラリストかハッタリ屋か、も違う

何もかもが正反対な彼らの、凸凹っぷりがおもしろい“バディムービー”だとは想像できますが

 

これが

予想以上にコクがあり、幾重にも重なったうまみと深みがあり

さらにたっぷりの笑いがあって最高でした。

 

なにより、ヴィゴ・モーテンセンが

こんなに笑いと味ある出っ腹のおっさんになりきるなんて!

 

品格あるピアニストに扮したマハーシャラ・アリも素晴らしいし

(祝・助演男優賞!)

ケンタッキー・フライドチキンのエピソードや

ドクターがトニーの気持ちを代弁して書かせる奥さんへの手紙、など

 

実話がまれに陥りがちな、ある種の“かせ”にも収まらず、

笑ってグッとくるエピソードと、それをなすキャラを

ちゃんと映画的に輝かせている点が

とてもよいと思いました。

 

受賞ホヤホヤのタイミングでの公開も

ベストになってよかった!

 

★3/1(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか、全国で公開。

「グリーンブック」公式サイト

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翔んで埼玉

2019-02-24 01:43:31 | た行

 

笑った~(笑)

 

「翔んで埼玉」70点★★★★

 

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現代の埼玉県。

農道を走るワンボックスカーに

結納に向かう娘(島崎遥香)と父(ブラザートム)と母(麻生久美子)が乗っている。

 

結婚してダサい埼玉を出て、都内に住むことに浮かれる娘に

埼玉愛を持つ父は複雑な心境だ。

そんななか、カーラジオから、ある都市伝説が流れ始めた――。

 

19XX年。

埼玉県民が東京都民から、それはひどい扱いを受けていた時代。

名門校で学ぶ東京都知事の息子・百美(二階堂ふみ)は

埼玉県人を底辺とするヒエラルキーの頂点にいた。

 

だが、そこにアメリカ帰りの麻実麗(GACKT)がやってくる。

 

ライバル心を燃やす百美だったが

ある出来事から、麗に心を奪われてしまう。

 

そして百美は

東京を巡る、埼玉VS千葉や近隣の抗争に巻き込まれていき――?!

 

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「パタリロ!」の魔夜峰央氏が

1982年に発表した同名漫画が原作。

 

おもしろそう、とは想定してたけど、

意外にそれを上回る連打に、想像以上にウケてしまいました(笑)

 

 

現代を描くパートと、ベルばら時代のような翔んだコミック世界が

絶妙に融合しているのがミソで

 

「埼玉県民が東京に行くには、通行手形がいる」など

極端なディスりのほか

 

「都内各地の“空気”を嗅いで当てる」テイスティングとか

リアルに笑えるネタも満載だった。

 

 

さらに神奈川県が崎陽軒のシュウマイと「ひょうちゃん」で東京都知事を釣るとか

千葉VS埼玉の勢力争いとか

関東近県の争いの描写もおかしくて

 

なにより原作が30年前でも

「地域格差」の意識が変わらないという状況に苦笑。

 

最近では「月曜から夜ふかし」などで

マツコ・デラックス氏がわかりやすく、その意識を明らかにもしてるしねー。

 

誰にでも「故郷」はある。

だからこそ、地域ネタって

誰もが逃れられない宿命を持ち、ゆえに普遍なんですよね。

 

そしてどんなに自虐しても

やっぱり根底には「愛」がある。

それを前提にしているのも、この映画のよさなんだろうなあと。

 

しかし、この映画で改めて

「千葉県民の心境」を知ったというか

マツコ氏の立ち位置にある「ちょっとした余裕」にも、なんか触れた気がしたというか(笑)

とか、神奈川県出身者は思うのでありました(キャー)。

 

★2/22(土)から全国で公開。

「翔んで埼玉」公式サイト

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あなたはまだ帰ってこない

2019-02-23 22:06:17 | あ行

「かくも長き不在」より、ある意味残酷かも。

 

「あなたはまだ帰ってこない」73点★★★★

 

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1944年6月、ナチス占領下のパリ。

ジャーナリストで作家のマルグリット(メラニー・ティエリー)は

夫とともにレジスタンス活動に参加していた。

 

だが、夫がゲシュタポに連れ去られてしまう。

マルグリットは夫の消息を知ろうとパリのナチス本拠地に通うが

情報を得ることができない。

そんな彼女を、仲間のディオニス(バンジャマン・ビオレ)が支え続けていた。

 

ある日、マルグリットは

ゲシュタポの手先ラビエ(ブノワ・マジメル)に声をかけられる。

夫を逮捕したのは自分だ、というラビエは

作家であるマルグリットを知っており、尊敬していた。

そしてラビエは「夫の情報を教える」と言い、彼女をカフェに呼び出すのだが――?!

 

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小説「愛人(ラマン)」や

「かくも長き不在」(1961年)の脚本家としても知られる

マルグリット・デュラスの自伝的小説が原作。

 

文学的な語りの美しさ、妙な静けさを持った戦時下のパリの独特の空気、

そして残酷さが

観終わってもまとわりつく、印象的な作品でした。

 

1945年のパリで政治犯として捕らわれた夫の帰りを待つ

美しき妻マルグリット。

新聞社で働きながら、レジスタンス活動もし、言葉を紡ぎながら、闘っている。

 

そんな彼女は「女の武器」を使ってゲシュタポの手先に取り入り、情報をもらうのか?

常にそばにいてくれる仲間の男との関係は――?

など、いろいろ想像もできるんですが

決して、陳腐なメロドラマや悲劇にはならない。

 

さらに印象的だったのが、当時のパリの状況。

街は妙に静かで、情報もなく、ホロコーストのことも誰もよくわかっていない――

戦争中ではあるんだけれど、どこか不思議に間の抜けた平常のなかで

夫を待ち続けるマルグリッド。

 

果たして夫は帰るのか――? 

ドアベルが鳴るたび、電話がなるたび、時計が時を知らせるたび、ドキッとし

観客は「待ち続ける」時間のうろんさを体験することになる。

 

希望的観測はミリともない、いや、無理だろうと誰もが思っているなか、

話は意外な展開を迎えるんです。

しかし、ここからまた、静かに驚きの展開が待っているのだ――。

同じテーマを扱った名作「かくも長き不在」より

ある意味、残酷かもしれない――。

 

悲劇も喜びもすべてが

現実か、幻か、わからない。

その境界をさまようような、演出も巧みでした。

 

★2/22(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「あなたはまだ帰ってこない」公式サイト

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ねことじいちゃん

2019-02-22 23:38:22 | な行

ニャンニャンニャンの日、ですから!

 

「ねことじいちゃん」70点★★★★

 

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日本の、とある島に暮らす

大吉(立川志の輔)。

 

2年前に妻(田中裕子)に先立たれてからは

飼い猫のタマ(ベーコン)とふたり、のんびり、ゆったり暮らしている。

 

ある日、島に都会からやってきた美智子(柴咲コウ)が

島にカフェを開いた。

 

はじめは遠巻きにしていた島の人々だったが――?

 

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いまや世界的な「ねこ写真家」である

動物写真家・岩合光昭氏が、同名人気コミックを映画化。

 

あのイワゴーさんが、スター猫を使ってフィクション映画?!と

最初に聞いたときは「どんなになるんだろ」と思ったけど

さすが岩合さん、とにかく猫、猫、猫!(笑)で

愛に溢れた、ほっこり映画でした。

 

全シーンどこかに必ず猫がいる、のうたい文句は本当で

猫の動きを読んだカメラワークはさすが。

 

そしてお話も、

なんでもないけど、あったかく、

ちょっとだけしあわせ、という福々さがよい。

 

主演の立川志の輔師匠をはじめ、キャストのやさしさもあって

人と猫、人と人が関わり合うことの大切さが

ほーんわりと伝わります。

 

主演ネコ、ベーコンの堂々たる演技にも驚きました。

志の輔師匠の胸の上で寝たり、抱っこも大好きなお利口さんだし。

 

ただ、島での外歩きにはあまり慣れていないのか

塀の上を行く足取りの、ちょっとしたおぼつかなさが、また可愛い(笑)

 

決して深刻にならずとも

過疎化する地方、老いと猫、といった社会問題が

ふにゃっ、と含まれているのも

大事だなあと感じるのでした。

 

発売中の「AERA」にて

岩合さん×立川志の輔さん×ベーコンの対談記事を書かせていただいてます。

志の輔さんがとても気に入ってくださったそうで

すごーく嬉しい。

ちなみに、取材中もベーコン、まったく動じず(写真中央)

全員、メロメロでした(笑)

★2/22(金)から全国で公開。

「ねことじいちゃん」公式サイト

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ビール・ストリートの恋人たち

2019-02-21 21:09:12 | は行

「ムーンライト」監督の新作です。

 

「ビール・ストリートの恋人たち」71点★★★★

 

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1970年代のハーレム。

 

19歳のティッシュ(キキ・レイン)は

幼なじみのファニー(ステファン・ジェームス)と愛し合い

子どもを身ごもる。

 

幸せの只中にいた二人だが、

あることから白人警官ベル(エド・クライン)の恨みを買ったファニーは

いきなり投獄されてしまう。

その罪とは、まったく身に覚えのない強姦罪だった――。

 

収監されたファニーにティッシュは言う。

「私が、絶対にここから出してあげる」――

 

ファニーの無実を証明するために

奔走するティッシュだったが――?!

 

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1970年代、白人警官によって

無実の罪を意図的に被らされた黒人青年と、その恋人の悲劇を描いた作品。

 

1950年代にデビューし、黒人作家として活躍した

ジェームズ・ボールドウィンの原作の映像化で

「私はあなたのニグロではない」で知りました)

実は「ムーンライト」より前に進んでいた企画だったそうです。

 

テーマや背景はシビアなのですが

映画としは

なんだか、岩井俊二監督作品を思い出すというか

すごく叙情的。

 

人と人との間に生まれる情感や空気を、

粒子まで映し出すような、綿密な映像で描いてるんですね。

 

ちょっと全体的に、スローテンポ過ぎるかなとも思ったけど

 

「触感」を大事にし、エモーショナルを掻き立てる、

「ムーンライト」の世界に、やはり通じていました。

 

それに原作は1974年発表なのに

それが、いまの時代にもめちゃくちゃ刺さる、ってのが

切ないような、胸苦しいような。

 

彼らだけでなく、同じ目にあった人々がどれだけいるのだろう――!

想いをはせずにいられないのでした。

 

★2/22(金)から全国で公開。

「ビール・ストリートの恋人たち」公式サイト

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