ヤバめのロシア富豪から、かの国の王子まで取材してるのが
なかなかやるなぁ、と。
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「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」68点★★★☆
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2005年、ごく普通の民家での遺品整理で出てきた
1枚の絵画。
美術商が13万円で買い取ったその絵が
レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の作品にしてイエス・キリストを描いたとされる
「サルバトール・ムンディ」(ラテン語で『世界の救世主』の意味)の
“本物”だとされ
2017年に史上最高額510億円で競り落とされた――!という
驚きの騒動を描いたドキュメンタリーです。
いや、ドキュメンタリーというかこれは
“ノンフィクションムービー”と宣伝文句にもあるので
そっちのほうが近いかも。
実際、純粋なドキュメンタリーと思って観ると
あちこちに違和感があるんですよね。
例えば、取材されている識者や関係者が
その時々に起こった出来事を、そのときに話しているようにみえて、
いやいや服装が同じだし
「いや、これ1回しか取材してないんじゃね?」とか。
資料にないので、推測なのですが
ジャーナリストでもあるアントワーヌ・ヴィトキーヌ監督(1977年生まれ)は
おそらく、この問題を最初からずっと追いかけたわけでなく
2017年前後に、この絵の落札が話題になってから
追ったのかなと思うんです。
で、取材対象者の話に合わせて
出来事が起こった年代を入れ、再現フィルムのようなテイストも含み、
観ている我々に、リアルタイムで問題を追っている感覚にさせる、という
巧妙な演出法で作られている。
禁じ手とかではないし、ありな方法だと思うのですが
その微妙なフェイク感、とでもいうのだろうか
どこかひっかかる違和感が
そのまんま、この奇妙な絵画をめぐる話そのものを表している感じ。
それも監督の意図なんだと思いますが。
2005年に、民家で見つかった絵画が
専門家の鑑定をへて「本物」とされ
2017年にオークションにかけられて、史上最高額で落札される。
13万円が510億円になった!
じゃあ、誰が儲けたのか?
誰がこの絵を買ったのか?
――を、映画は追っていき
で、結局「この絵、本物なの?」となり
国際問題にも発展していく。
絵画の真偽をめぐるドキュメントとしては
由緒正しき家柄に生まれた若き美術商の成長物語でもある
「レンブラントは誰の手に」(19年)と似ているところもあるのですが
決定的に違うのは、そこにある「品」の有無。
失礼ながら、この絵画に関わる人々には
一貫して、品が欠けているんですよ(苦笑)。
絵を発見した美術商、鑑定をした人、
絵を売る仲介業者、オークションを操作する人、
さらに、絵を買ったとされる人――
誰にも
芸術を純粋に「愛している」こころが感じられない。
結局、マネーゲームなのかよ!っていうね。
まあ第一に、ワシ自身が
この絵画に魅力を感じない、ということが大きいと思うのですが。
ただ、そうしたアート業界の裏側を見せ、
絵画の購入者と噂されるロシアのヤバい富豪や、砂漠の王子まで追っかけていく
フットワークと心臓は
さすがジャーナリスト、と思う。
果たして、この絵は本物なのか?
虚実とは、真偽とはなにか?
――そのオチは、これはこれでなかなか爽快だったりもするのでした。
★11/26(金)から全国で公開。