切なく、張り詰めた余韻が
いつまでも響いてとまらない。
「水を抱く女」77点★★★★
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現代のベルリン。
早朝のカフェで向かい合う男と女。
どうやら男は女に別れ話をしているようだ。
やがて、思い詰めた表情の女(パウラ・ベーア)が言う。
「――殺すはめになる。知ってるでしょ?」
――なにやらヤバい雰囲気だが、バイオレンスが始まるわけでなく
女は仕事に戻り、ごく普通の日々がはじまる。
彼女の名はウンディーネ。
歴史家で、普段は博物館でガイドとして働いているのだ。
その日、彼女はガイド中に別の男性クリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会い、
新たな恋が始まる。
幸せなカップルの日々――
だが、ある日、街でウンディーネが元カレとすれ違ったとき
運命の歯車が回り出す――。
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「東ベルリンから来た女」(12年)、「あの日のように抱きしめて」(14年)、
ドイツの悲しい歴史を背景に
心きしませる男女の愛を描いてきた
クリスティアン・ペッツォルト監督の新作です。
冒頭のカフェのシーンからはじまり、
一見、フツーの恋愛映画のようにみえるんですが
いや、どこかに、違和感がある。
「未来を乗り換えた男」でも共演した
パウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキ(「希望の灯り」も超よかった!)の愛は
すごくロマンチック・・・・・・なはずなのに、
なぜか終始、緊迫感と不安がまとわりつくんですよ。
ヒロインの名前がウンディーネ、という点で
文学好きやクラシックファン方には
ピンとくるみたいなのですが
ウンディーネ、というのは
ギリシャ神話に登場し、あの「人魚姫」のモチーフにもなった
水の精の名前なのですね。
オペラの題材にもなったりしてる。
その物語は
「愛する男が裏切ったとき、その男は命を奪われ、
ウンディーネは水に還らなければならない」というストーリーになっていて
本作は、そんな運命を背負ったウンディーネの物語を
現代に置き換えて、描かれたものなんです。
そうと知ると
ウンディーネとクリストフの水中でのシーンとか、
なぜ、元カレとすれ違ったウンディーネがそんなに動揺したのか?とか
普通に観てると「ん?」と思うようなシーンも
「なるほどなあ」と納得できて、
場面を思い返しては、その余韻を噛みしめられるという
なかなか後を引く作品なのです。
エヴァシリーズみたいですな(あ、違う?笑)
「東ベルリン~」を筆頭に
クリスティアン監督の描く男女って
めちゃくちゃエモーショナルなのに、甘くなく
いつも張り詰めているんですよね。
そこが、スキなんだけどw
これまではその背景に
ドイツの歴史や悲劇などがあったわけですが
今回はそうではなく、神話題材、ってところが
新境地だなあと。
劇中に流れるマルチェッロ(J.S.バッハ編)の「アダージョ」、
その絞り出されるような旋律が、
恋人たちの行く末とともに、めちゃくちゃ耳に残りました。
くっ、――切ない!
★3/26(金)から新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。