ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

わたしの叔父さん

2021-01-29 23:54:30 | わ行

なんでこんなに沁みるのか~♪(演歌調で)w

 

「わたしの叔父さん」80点★★★★

 

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デンマーク、ユトランド半島。

 

27歳のクリス(イェデ・スナゴー)は

叔父さん(ペーダ・ハンセン・テューセン)と暮らしている。

 

昔ながらの酪農を営む二人の日常は

淡々と、静かで、でもなんだか満たされるものだった。

 

だが、クリスはある出来事から

獣医師になる夢を諦めてもいた。

 

そんな事情を知る近所の獣医師が

クリスを助手に誘う。

かつて抱いていた夢を思い出したクリスの心に

さざ波が立ち始める――。

 

************************************

 

2019年東京国際映画祭グランプリ作品。

 

すごく、いいです。

 

冒頭から何のセリフもなく、黙々と

叔父さんとヒロイン・クリスの暮らしぶりが描かれる。

朝起きて、叔父さんの身支度を手伝い、朝食を食べ

(朝食の食卓で、マフィンを半分にして焼くトースターがかわいい。笑)

牛舎で仕事をして、夜にはカードゲームをして、寝る。

 

そんな暮らしぶりを観ているだけで

なんだか、楽しい。

 

なんのセリフもなくても自然な

二人の空気感が、心地いいのですが

実は、このヒロインと叔父さん、実の叔父と姪なんだそうで、びっくり!

 

で、そんな無言のなかで

しばらくして出てくる最初のセリフが

スーパーで叔父さんが言う「ヌテラ」だったりするのが

めちゃくちゃ笑えたりする。

 

とにかく所々に小さなユーモアがあるのがいいんですね。

 

しかし、そんななかで

次第にヒロイン・クリスの不幸な事情が明らかになっていく。

クリスはそれによって、獣医になる夢を諦めていたんですね。

 

平穏な日々のなかで、

ときにどうしようもない憤りを、叔父にぶつけるクリス。

でも、日々の穏やかなルーティンが、自然にそれを巻き込み、沈殿させていく。

それは積もる澱かもしれないが、かき回さなければ平穏だ。

 

かき回す要素は

獣医師への諦め切れない夢であり、

地元で出会った青年だったり。

 

夢を追うか、家族を選ぶか。都会に出るか、地元に残るか。

誰もがぶつかり、悩む問題が、立ち現れるんですね。

 

まあ、まずは観ていただき

さまざまに思っていただきたいのですが

 

ワシが感じたのは

常に前に進むこと、変化してゆくことだけが、人生の必須ではない、ってこと。

どうにもならなくても、人生は続いていく。

何かに縛られていると感じたり、

失われた時間を過ごしたように思えても

振り返ればいつの日かそこに至福があったと、人は気付くのかもしれない。

 

そんなことを、思いました。

 

親の介護が避けられない現状となってきたワシら世代には

特に響くかもしれない。

 

ラストもすごく好きですねえ。

 

おなじみ「AERA」の「いま観るシネマ」で

フラレ・ピーダセン監督にインタビューしております。

AEARdot.でも読めますので、ぜひご一読くださいませ。

 

そして、昨年末から『音楽の友』さまでも

映画欄の連載をさせていただいており

そちらでも本作、紹介しております。

お目に触れる機会がありましたら、ぜひ!

 

 

そしてそして、劇場用パンフレットでも

監督インタビューをさせていただいてます。

映画と併せて、ぜひお楽しみくださいませ~。

 

★1/29(金)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

「わたしの叔父さん」公式サイト

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キング・オブ・シーヴズ

2021-01-17 23:36:50 | か行

よくぞこれだけの

レジェンド俳優たちを集めた!

 

「キング・オブ・シーヴズ」69点★★★☆

 

 

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かつて「泥棒の王」(=キング・オブ・シーヴズ)と呼ばれた

ブライアン(マイケル・ケイン)。

 

いまは裏社会から引退し、

妻と平穏な日々を過ごしている。

 

が、その妻が突然亡くなってしまう。

 

葬儀に集まった“元ワル仲間たち”は

いずれも第一線を退き、ちょっとヨボってきているが

「何かやりたくてうずうず」な感じだ。

 

そんななかブライアンは

ある青年(チャーリー・コックス)から

ロンドン随一の宝飾店街「ハットンガーデン」での

窃盗計画を持ちかけられるが――?!

 

*********************************

 

 

2015年、ロンドンで実際に起き

世間を大いに騒がせた

平均年齢60歳越えの強盗集団による

金庫破り事件を描いた作品です。

 

60歳越えどころか

マイケル・ケイン87歳、

「さざなみ」のトム・コートネイ83歳、

ハリポタの校長、マイケル・ガンボン80歳と

 

主演みんな、アラ80じゃん!

いや、マジ素敵じゃん!という(笑)

レジェンド名優たちのうまみがたっぷりでございました。

 

 

そのほかのメンバーたちも

名前を知らなくても、おそらく観たことあり

「あれ、この人?!」となることうけあいで

 

って

最近ホントに主演俳優が、高齢でしかも魅力的という

映画ばっかり観てる気がしますが(笑)

 

それだけ世間的な映画需要も、

渋み俳優たちのほうが濃い、ってことなのだろうなあ。

 

で、この

現実事件をもとにしたハラハラの金庫破り劇は

スピード感こそゆるめだけど

おとぼけの笑いも混じる可笑しさ。

 

さらにシニアあるある笑いネタや

“ヨボ芸”に終わらず

本気でヤバい凄みを出すジム・ブロードベントとか

渋みのなかのホンモノ感とか

マジでヤバいです(笑)

 

ただ、全体的にピン!と来るものが薄めでもあるけど

まあ、あんまりアップダウンやドキドキがあっても

心臓に悪いしね、わしら・・・・・・w

 

★1/15からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「キング・オブ・シーヴズ」公式サイト

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43年後のアイ・ラヴ・ユー

2021-01-16 23:48:20 | や行

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(13年)

ブルース・ダーンがお茶目!(笑)

 

「43年後のアイ・ラヴ・ユー」69点★★★☆

 

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御年70歳のクロード(ブルース・ダーン)は

LA郊外に一人で住む元演劇評論家。

 

妻に先立たれ、最近は記事にもそうお呼びはかからず

近所に住む親友(ブライアン・コックス)と

飲んでる薬や病歴自慢で盛り上がるような

のんびりとした老後を過ごしている。

 

そんなある日、クロードは
昔の恋人で女優のリリィ(カロリーヌ・シロル)が

アルツハイマーを患い、施設に入った事を知る。

 

もう一度リリィに会いたいと願ったクロードは、

なんと自分もアルツハイマーのふりをして

リリィと同じ施設に入居する「芝居」を思いつくが――?!

 

*************************************

 

なんだか今年は年末年始からずっと

アラ70、いやアラ80が主人公の

”うまみな映画”を観ている気がするんですが(笑)

 

こちらは

「ネブラスカ~」で77歳にして、カンヌ主演男優賞を受賞、

アカデミー賞主演男優賞にもノミニーされた

御年84歳、ブルース・ダーンが主演。

 

――魅せてくれます(笑)。

 

 

施設に入ったかつての恋人のため

アルツハイマーのふりをして

自分も施設に潜り込む主人公。

 

いろいろ考えると「え⁈」なところは

あるにはあり

 

そこまで「深い」わけじゃないんですが

このライトな味わいこそが、この映画に

ジャストなのかもかもしれない。

 

それに

ブルース・ダーンのいたずらっぽいニヤッ顔がチャーミングで、

なんか、許してしまうんだよなあ(笑)。

 

悪友役、ブライアン・コックスの存在もよく、

さらに“元女優”という設定のヒロイン演じる71歳、

カロリーヌ・シロルの美しさは

「うわー、キレイな人!」と

誰もに思わせると思う。

 

そのオーラを

パッと画面に花が咲くかのように表現した

監督、素晴らしいです。

 

そしてなにより

上映時間89分、というところが

シニア観客をよくわかっていらっしゃる!(笑)

 

★1/15(金)から新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「43年後のアイ・ラヴ・ユー」公式サイト

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聖なる犯罪者

2021-01-15 23:36:01 | さ行

最初の数分で

なんだか引き込まれる「匂う」映画ってある。

これも、そんな映画。

 

 

「聖なる犯罪者」74点★★★★

 

 

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現代のポーランド。

20歳のダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)は

「いろいろ悪いことをしてきた」青年で

殺人の罪で少年院に入れられていた。

 

ダニエルは少年院で

カトリックの教えに目覚め

「神父になりたい」と夢を持つようになる。

 

しかし、犯罪歴のある者は

神学校に入学できず

ダニエルはその道を諦めざるを得なかった。

 

少年院を仮退所したダニエルは

ある村の教会で

偶然、新任の司祭に勘違いされる。

 

とっさに「司祭です」とウソをついた彼は

思いがけず、司祭の代理を務めることになり――?!

 

**********************************

 

 

少年院を仮釈放された青年が

司祭と偽って、村人たちの心をつかんでいく――という

実際の事件にインスパイアされた物語。

 

ちょっとバイオレンスチック?と思わせるビジュアルだけど

大丈夫です、あんまり、そういう方向ではない。

 

それに

宗教に関する想いというのは

ワシには、正直根底まではわからない

それでも

目を離させない説得力や力が、たしかにある。

 

あの「パラサイト」などと

アカデミー賞国際長編映画賞を争った作品だそうで

なるほどな、と納得しました。

 

 

宗教うんぬんよりも感じたのは

若いときに犯し、そのときにはわからなかった罪の重さを、

どの段階で気づけるのか?

そして、気づけた段階でどう修正出来るのか?ということ。

これって

坂上香監督の「プリズン・サークル」(20年)にすごく通じているんですよ。

 

若い世代の彼らに

人生やり直しの機会を、もっと広い心で与えるべきではないか?

 

いやいや、

ワシらも彼らから、教えられること、多いんじゃないか?

そんな想いが、募ります。

 

実際の事件がもとである、ということも相まって

実に心に深く、迫ってきました。

 

★1/15からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイントほかで公開。

「聖なる犯罪者」公式サイト

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パリの調香師 しあわせの香りを探して

2021-01-14 23:50:48 | は行

エマニュエル・ドゥヴォス、やっぱいいなあ。

 

「パリの調香師」73点★★★★

 

**********************************

 

現代のパリ。

運転手業をするギヨーム(グレゴリー・モンテル)は

悪いヤツじゃないけど、ちょいちょいズルをして

世の中を渡ってきた男。

 

カワイイ娘を愛しているが

実は離婚調停中で

このままでは自分より仕事も家もしっかりしている元妻から

共同親権も取ることができなさそうな

崖っぷちにいる。

 

いまの仕事を失うわけにいかないギヨームは

ある女性の運転手をすることに。

 

高級アパルトマンに住む

その女性アンヌ(エマニュエル・ドゥヴォス)を迎えに行ったが

アンヌは無愛想で、かなり「変わった」人だった。

 

アンヌは

あらゆる物を嗅ぎ分け、再現できる能力を持つ

天才的な「調香師」だったのだ。

 

最初はアンヌとさまざまにぶつかり合ったギヨームだが

しかし、アンヌの能力を知り、

お互い、少しずつ心を開いていく――。

 

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コミュ障な天才調香師と

人生崖っぷちな運転手が出会い、

思わぬバディを築いていく物語。

 

フランス映画にしてはカリッとさっぱりとした

仕事メイン&男女のバディムービーで

ラブへと行きそうで行かない男女関係に、すごく好感が持てました。

 

 

それに

「ココ・アヴァン・シャネル 」(09年)

「ヴィオレット―ある作家の肖像―」(13年)

で存在感ありありだった

実力派女優エマニュエル・ドゥヴォスが、やっぱりいい味。

 

あらゆる匂いを嗅ぎ分けて

再現できる天賦の才を持ついっぽうで

「鼻が効く以外は、けっこういろいろ抜け落ちている」ヒロインを

まあブスッと無愛想に、でもちょっとコミカルに演じていて

実に可笑しい。

 

スペインのアルタミラの洞窟のような

古代壁画のある洞窟に行き、

そこの香りを嗅いで、再現する、とか

すげーおもしろいし

 

それほど鼻が効くというのは

一種の超能力のようでもあって

それによって世界が見え過ぎるような辛さもあるんだな――と思った。

 

相棒となる運転手ギヨームの

悪人じゃないけど、口八丁なテキトーさで世を渡ってきた感を

冒頭1分で上手に見せちゃったり

この監督、なかなかに的を射たキャラクター表現がうまいなあと思いました。

 

そしてギヨームにも

意外な才能があったりするんですよ~w

ぜひ本編で、ご確認くださいませ

 

★1/15(金)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「パリの調香師 しあわせの香りを探して」公式サイト

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