ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

国境の夜想曲

2022-02-13 14:15:02 | か行

絵画的な美しさの後ろに

機関銃のタタタタ音が鳴る。

 

*****************************************

 

「国境の夜想曲」78点★★★★

 

*****************************************

 

「海は燃えている」(16年)のジャンフランコ・ロージ監督が

イラク、クルディスタン、シリア、レバノンの国境地帯を

静かに捉えたドキュメンタリー。

題材からして、戦闘や暴力のシーンをイメージするかもですが

きれいに裏切られます。

 

インタビューやナレーションもなく

どこで、何を撮っているかの説明もなく

監督が目にしたものが、淡々と写される。

 

その切り取り方が、実に絵画的で美しく

目を奪われます。

 

さらに

だんだん写るものが謎をかけるようになってくる。

 

例えば暮れてゆく湖に小さな舟を出す男性。

銃かついでるし、カモを狙う猟師なのかな、と思うけど

やがて彼は葦のかげに身を潜めて、銃をかまえる。

 

もしかして、彼も国境を守る兵士なのか?

 

 

例えば、夜の漁船で働く少年。

明け方家に帰ると、幼子がいる。

え?若いパパなのか?

 

こうしたいくつかのエピソード(場面)が

パズルのように組み込まれ、

そこに見えるものにじっと目を凝らすと、

次第に「え、そういうことか?」理解できる感じで

それを謎解きのように読み解いていくおもしろさがあるんです。

 

しかも、ワンシーンが不必要に長くなく、

割とキリよく切り替わるので

眠くなったりしない(笑)

 

例の小舟の男性も、結局、釣り人なのか猟師なのか兵士なのか

ワシにはわからなかったけど

それでも「考える」ことがおもしろい。

(しかも、のちに周りにいたカモはデコイとわかったり(汗笑))

 

どの国境でも、そこにあるのが「境界」であり、

その銃口が、侵入者たる同じ人間に向けられていることが共通している。

その悲しみが、静かに漂うけれど

でもこれは決して、暗い映画じゃない。

 

そこに暮らす人々の営みには、

たしかな力強さがあり、観ていて気持ちは暗くならないんです。

 

特に漁をしていた少年と、その家族の様子は

とても心に残った。(彼はパパではなく、炭治郎でしたw)

 

それに本当に映像の切り取り方が見事。

鮮やかな朱色の囚人服を着た囚人たちが

運動場に放たれる様子など、

まるで水槽に放たれた金魚のようで、ずーっと見入ってしまう。

 

告発や非難ではなく

社会問題を独自に切り取り、映し出す

監督の視点、その「みたて」のおもしろさや芸術性の高さに

感じ入りました。

 

★2/11(金・祝)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次公開。

「国境の夜想曲」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

355

2022-02-05 16:04:38 | さ行

ジェシカ・チャステイン推しなのでw

 

「355」70点★★★★

 

*********************************

 

はじまりは、南米の麻薬王の息子が開発した

デジタル・デバイスだった。

それはあらゆるセキュリティをくぐり抜け、

世界中のシステムを攻撃可能な危険なもの。

それを使えばテロも第三次世界大戦も可能になってしまう――

 

CIAは悪組織からデバイスを奪取するため

敏腕エージェント、メイス(ジェシカ・チャステイン)をパリに送り込む。

が、突如現れた女性によって邪魔が入り、

任務は失敗。

しかも相棒が殺されてしまう。

 

この女性はドイツ版のCIA(BND)でやはりデバイスを追う

マリー(ダイアン・クルーガー)だった。

 

メイスはMI6所属の友人ハディージャ(ルピタ・ニョンゴ)に協力を依頼し、

世界を守ろうと動き出すが――?!

 

*********************************

 

豪華キャストが揃った女性スパイチームアクション。

 

タイトルの「355(スリー・ファイブ・ファイブ)」は

謎につつまれた実在する女性スパイのコードネームだそうです。

 

で、映画は

予想よりハードでアクションもがっつり。

ド派手に暴れ、容赦なく殺すし

たぶんに「甘くないよ」を意識したんだろうなと思います。

 

企画のはじまりは

ジェシカ・チャステインの

「ミッション:インポッシブル」や「007」シリーズのような

本格スパイアクションの女性版を作りたい!という熱意だったそう。

 

監督は「デッド・プール」シリーズのプロデューサーを務め

「X-MEN:ダーク・フェニックス」で監督デビューしたサイモン・キンバーグ。

(これ観たかな・・・すみません憶えてないぞ。汗笑)

 

イメージとしては

そこまで笑えない「オーシャンズ8」×も少しハードな「チャーリーズ・エンジェル」

そこに既婚、未婚、子なし、子持ち、パートナーあり、孤高のぼっち――と

「女の生き方」や「家庭と仕事」のモチーフを

リアル&共感度高めに入れ込んだ、という風合い。

 

女子同士が決してつるんだ感なく

でも「プロフェッショナル 仕事の流儀」な部分でつながってるような感覚も

なかなかサッパリしてていい。

 

特に精神科医(ドクター)なペネロペ・クルスがお姉さん的キャラで、

失敗を嘆く仲間を

「女はすぐに自分が悪い、と言う。でもあなたは悪くない。悪いのは騙した男よ」と

励ましてくれる様子にシスターフッドが香りました。

しかしペネロペ、変わらず異様にキレイだなあ。

 

ただ

けっこう何度もターゲットを取り逃がしたり、

ちょいちょい脚本には強引さもあるので

余裕あるときに楽しんでほしい、という感じです。

 

★2/4(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。

「355」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする