ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

パラダイス・キス

2011-05-31 00:40:54 | は行

漫画より、いいとこもありましたが。

「パラダイス・キス」34点★★


累計600万部(!)の
矢沢あい人気コミックの映画化です。



都内の進学校に通う
高校3年の紫(北川景子)は、

原宿で嵐(賀来賢人)にナンパされる。

が、ナンパ……と思ったのは
実はファッションモデルのスカウト。

嵐は芸術系学校“ヤザガク”の生徒で
学園祭のショーのために
モデルを探していたのだ。

そこに
リーダー格の男ジョージ(向井理)が現れる。

一見して危険な香りプンプンな
ジョージを前に

紫は
「あんたたちの遊びに
付き合ってるヒマはない!」と出て行く。


だが翌日、紫の学校に
ジョージがやってきて……?!



目標のぼやけた受験生が
自分と違う世界でがんばる同世代に刺激され、
人生を切り開いてく……というお話。


ファッションモデル、スカウト、
カッコイイ年上の男との恋……など
少女の憧れアイテム満載の裏に

臨場感ある若者の葛藤や成長があるのが
矢沢あい氏が支持される理由と思う。


原作には進路や人生に対する若者の葛藤もあるし
まあ、そこそこエロいし(笑)
割と好きなんですが


今回の映画化は
ほぼすべて「学校のファッションショー開催」までの話で
裏に恋も進路の悩みも
見えてこなかった。


あと
マンガでもちょっと弱いなあと感じてた部分だけど
主人公がモデルを引き受ける動機が
やっぱり弱かったなあ……。


ここをちゃんと肉付けないと
イヤだイヤだと言っても
結局、華やかな世界に憧れるミーハーかあ、ってことに
なってしまわないか。



それに
せっかくのキメどころ、

ファッションショーのシーンや、
キラキラなオープニングなどが
なんかもひとつ、野暮ったい……。

もっと「SATC」ばりに
弾けちゃってもよかったんじゃ?とか。
まあ世代とリッチさが違うか…。


と、いろいろ言ってますが
まあ、キャストは
向井理でよかったと私は思います。


やっぱ身長と旬なオーラという
役者本人の素質が
演出に数段、相乗されている。


本人もけっこう
マンガを意識して痩せたそうで、

足組んで座ったときの
鋭角な膝の感じとか

シャツをインしたときの
身体のラインとか

けっこうマンガっぽい。

見た目の話ばっかですが(笑)
いや、それでいんじゃないでしょうか。


あと、ラストが原作と違ってて、
こっちのほうが好きでした。


マジメな話、この映画は
震災で気持ちが落ちそうになっている
10代、20代に、いいんでないかと番長は思う。

被災した人たちに
出張ヘアメイクをしてあげてるニュースを見たけれど、

ほんっとに、そういうことって大事。

ちょっとのカワイイやキラキラ
気持ちってあがりますもんね。


ええ、こんなオヤジの番長でも
そういうことありますけど、なにか?


★6/4から公開。

「パラダイス・キス」公式サイト
コメント (5)
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愛の勝利を ムッソリーニを愛した女

2011-05-29 00:07:14 | あ行

「肉体の悪魔」の
マルコ・ベロッキオ監督作品です。


「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」51点★★☆


20世紀初頭のイタリア。

政治活動をしたことで
官憲から追われていた一人の男が
路上で一人の女に匿われる。

男の名はムッソリーニ。
女の名はイーダ。

イーダはムッソリーニに恋をし、
彼の政治活動を全面的に支援する。

やがて彼女は妊娠し、
男の子を出産する。


一時は息子を認知したムッソリーニだが
実は正妻のいる身。

さらに統帥として
イタリアに君臨するようになった彼は
息子の存在を認めようとせず


さらにイーダを排除しようと
ある手段に出る――。



まあなんとも悲劇すぎる話でした。

悪名高きファシストとして
ヒトラーに並ぶとされるムッソリーニ。


数百人も愛人がいたとも言われ、
このイーダもそんな一人だったらしい。


それでも泣き寝入りなどせず、

「私は彼の子どもを産んだ!」と声高に叫び、
その矜恃を生きる糧とし、

どうにかして「息子だ」と
認めさせようとした彼女の行動は

いま見ればまっこと正当なんだけど、

この時代にあっては
「うるせー女」として
存在した痕跡すらも消され、

完全に歴史から葬り去られようとしていたそうです。


が、彼女の手紙などをおさめた本が
イタリアで出版され、
監督がこうして蘇らせた、というわけです。


いいことだなあと思う。


しかしそうはいっても

見ていても彼女の闘いは、
あまりに勝ち目ナシで気の毒だし、


史実は史実なのだろうけど、
見る側はどこか
「虐げられた女が、逆転してギャッフン!」みたいな
カタルシスを求めてしまうので、

あまりに悲劇のまま進む内容に、
さほど感慨を持てなかった。


本当のところは
わかんないんだから、
解釈にしちゃえばいいのになーとか。
勝手なこといってスミマセン。


でもそう思いたくなるほど
どうも釈然としないっつうか。


せめてムッソリーニがその後、
どんな運命を辿ったかまで
描いちゃう、とかさ。


さらに
芸術的というのか、相当変わった演出方法なので
ちょっと面食らう部分もあった。


「未来派」とか「ダダイズム」っぽい
コラージュとか映像が取り入れられていて、

おもしろいし
実際に未来派は当時の流行だったんだろうけど

どこか唐突でもあり……。


厚みはありますが
ちょっと不思議な映画、かな。


★5/28からシネマート新宿ほか全国順次公開。

「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」公式サイト
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手塚治虫のブッダ―赤い砂漠よ!美しく―

2011-05-27 22:17:29 | た行

『火の鳥』は幼少から刻み込まれてるんですが、
『ブッダ』は読んでなかったんですよねえ。

何かの陰謀だったのか……?


「手塚治虫のブッダ―赤い砂漠よ!美しく―」33点★☆


手塚治虫先生が、10年を費やして書き上げたという
『ブッダ』の映画化です。


今から2500年前のインド一帯。

緑豊かなシャカ国で、
待望の王子が誕生した。

シッダールタ(目的を遂げるもの)と
名付けられた王子(声・吉岡秀隆)は
偉大な聖者に
「この子は世界の王になるであろう」と言われる。

彼がのちのブッダになるとは
まだ誰も知らなかった――。


同じころ
奴隷として貶められていた少年チャプラ(声・堺雅人)は
シャカ国の敵、コーサラ国の将軍の命を救い
彼の養子になる。


そして10年後――。


シッダールタは
友愛の心を持つ少年に成長し、

人間を身分で差別する現制度に疑問を抱くが、
何も出来ずにいた。

そんなとき、チャプラ率いるコーサラ軍が
シャカ国に攻め入ってきて――。



うーん、これ続くのか!が
見終わっての第一声。


なんと3部作の予定らしく、
シッダールタが修行に出るところで
終わってる!


ってことは
完全にこれ、プロローグじゃん!



最近ブッダネタをよく耳するので
より仏教世界のことが知りたくて
観に行ったのですが、
まさかその前段階の話に終始するとは……

と、想定外の事態にガックリしました。



動物がわらわら集まってくるようなシーンは
手塚先生らしいけど
けっこう残酷な描写もありますね。


それにやっぱ絵が、自分にはダメだった。

もろ昔の東映アニメというか
子どもっぽくて……すいません。

ま、絵は好みの問題としても

「首をちょん切られるよ!」とかって
時代感覚ゼロのセリフ回しはどうなんだろう?


もうちょっといまの時代に即して
自然に見られるようなアレンジを加えても
よかったんじゃないか……。


大まじめで観に行ったので、
ちょっとガッカリ度が高すぎました。


ただ
原作マンガは絶対読もうと思いましたね。
(ハマりそうなので、まだ我慢してるけどさ)


あと、本作を見た後で
『聖☆おにいさん』を読み返したら、
かなり面白さがアップした。

映画の冒頭にある
ウサギのエピソードとか
「これか!」って(笑)


と、いう感じで。
続編、見るかなあ……(微妙)


★5/28から全国で公開。

「手塚治虫のブッダ―赤い砂漠よ!美しく―」公式サイト
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マイ・バック・ページ

2011-05-26 19:13:32 | ま行

おもしろかったです、素直に。

「マイ・バック・ページ」80点★★★★

評論家・川本三郎さんの
朝日新聞社勤務時代の実話がもとです。


1971年。

学生たちによる全共闘運動が下火になり
一部、残った活動家が、
過激な武力闘争へと突き進んでいた時代。


新聞社の週刊誌記者・沢田(妻夫木聡)は、
ある組織幹部を名乗る男から
タレコミを受ける。

その男、梅山(松山ケンイチ)は
「銃を奪取して、行動を起こす」と言う。

同行した先輩記者は
「あいつは偽物だ」と断じるが、

沢田は梅山に興味を持ち、
接触を続ける。

「なにか事を起こすときは、
自分に独占取材をさせて欲しい」

だが、その約束が
思わぬ事態を引き起こし――。



始まって10分、先輩記者役の役者
古館寛治が出てきた瞬間、
「これは本物だ」と思いました。


デスク役のあがた森魚といい、
クセのありそうな記者たちと、週刊誌編集部の空気が
まあリアルなこと。


それに不肖にも原作未読、
ずっと席を借りてた朝日での話なのに、
事件を詳しく知らなかったこともあって

ガンガン引き込まれました。


特に
ジャーナリストとしては優しすぎる、という
主人公の人となりに
ものすごく共感してしまった。


取材対象に対しても、読者に対しても
誠実であろうとするがゆえに
身動きが取れなくなったり、


自分自身に迷いがあるゆえに、
見抜けない嘘もある。


映画が好きで、文学が好きで、
猛者うごめく記者社会で
柔和な佇まいを持っている――


そんな沢田役に
妻夫木氏がピッタリはまった。

ラストの演技には
自分でも意外なほど
ホロッときちゃいました。


しかもその役が
実在している川本三郎さんであり、

その人となりが
彼が書いているものに
そのままつながるわけですから、

おもしろいですねえ。


しかし、若き日のこんなにも苦い記憶を
さらけ出せるなんて……
すごすぎる。


やはり物書きとは、
自分を振り返り、向き合ってこそなのか。

表現者として
自らをさらけだせるかがキーなのか、と
深く深く、感じ入るものがありました。

ジャーナリズムや創作に関わる人は
特に必見す。


★5/28から公開。

「マイ・バック・ページ」公式サイト
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ヤバい経済学

2011-05-24 21:44:57 | や行

興味深いドキュメンタリーが
続きますよ。

「ヤバい経済学」70点★★★



アメリカで400万部のベストセラーになった
同名の本を書いたシカゴ大の経済学者とジャーナリストが
ナビゲートするドキュメンタリーです。


経済学、といっても難しい話ではなく


「名前は人の人生を左右するか?」

「高校生の成績を『報酬を払う』ことで上げられるか?」

はたまた
「相撲の八百長は本当にあるのか?」
といったハテナを

4つの項目に分けて、
真面目に実験したり、分析したりしつつ
わかりやすく映像にしてくれている。


むしろ身近な雑学系なので、
ラクな感じで見られます。


テーマによっては
未消化なものもありますが、

ここにあるのはまず
「この世のあらゆる物事が研究対象になるのだ」
という面白さ。


「名前と人生の因果関係」なんて
けっこう誰もが思うハテナですが
それを実際にデータ集めて、
分析してる専門の学者がいるんですからねー。



各章を別々の監督が撮ってるのも
飽きさせない工夫で、

それぞれ
アニメでおもしろく見せたり、
ドラマ仕立てにしたり、
シリアスにしてみたり。

つくづくドキュメンタリーって
“魅せる”域に入ったよなあと思います。


ちなみに自分的にはやはり
「名前と人生」と「高校生の成績アップ」が
おもしろかった。


番長がよく思うハテナは
「名前のあいうえお順が、性格形成に関係するか?」と
「兄弟姉妹の有無と社会性の関係」なんですよ。


一番に呼ばれがちな
アサノさんは
責任感が強いリーダー気質になりそうだし、

「呼ばれるまでに余裕がある」
ワタナベさんのほうが
のんびり気質になるような気がしません?


こうした謎を
突き詰めれば学問になるのさ、ということです。


誰か突き詰めて欲しいけど。


学校の授業もこんなふうに
おもしろくしてくれていればなあーと
しみじみと思った次第でした。


どうなっていたとはいいませんが。


★5/28から公開。

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