ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

グレタ ひとりぼっちの挑戦

2021-10-24 00:54:27 | か行

冒頭、座り込みをはじめる15歳の背中の

あまりの小ささに、衝撃を受けた。

 

「グレタ ひとりぼっちの挑戦」74点★★★★

 

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ちなみに最初の宣伝ビジュアルのほうが好きなので、そちらを使用いたしましたw

 

18歳にしてノーベル平和賞候補になること3回。

世界で最も有名な環境活動家となった

スウェーデン出身、グレタ・トゥーンベリさんの

ドキュメンタリーです。

 

もちろん彼女のことは応援していて

2018年のCOP24でのスピーチ、2019年の国連気候行動サミットのスピーチにも

スガン!ときた向きですが

 

この映画は

2018年の夏、15歳の彼女の最初の座り込みストライキからを追っていて

なかなか貴重。

知らなかった彼女の素顔を知ることができて

とてもおもしろく、大事だなと感じました。

 

応援しているワシでも

最近の彼女の言動が、よりキツくなっていると感じていて

拒絶する人もいるだろな、心配していたのですが

この映画には、本当に彼女の思いがシンプルに詰まっているので

あらゆる人にみてほしい。

 

 

なによりも

冒頭、おずおずとプラカードを持って座り込みをはじめる

その背中のあまりの小ささに

衝撃を受けたんですよ。

 

本当に、こんな少女にいま我々は

どれだけの責任を背負わせてしまっているのか――と

胸に突き刺さります。

 

そして、たった一人でストックホルムの国会議事堂前に座る彼女の前を

多くの人が通り過ぎていく。

しばらくして

「一緒に座ってもいい?」という最初の一人が現れたとき

開始数分にして、涙腺がグッときてしまいました(笑)

 

いや、ここからの彼女の軌跡、ここからの出来事が

どれだけドラマチックか!って話なんだけど

 

一人の少女が、勇気をもってその一歩を踏み出し、

それが誰かに伝わり、つながっていく。

その瞬間が、ここに捉えられているんですよ(う。泣ける

 

同時にカメラは彼女の家族や、自宅で愛犬と過ごす様子など

彼女の素顔を映し出していく。

 

アスペルガー症候群の症状があり

本来は人と話すのが苦手なこと、

動物好きな彼女が、気候変動にショックを受けたきっかけ(うっ、わかるよ、わかる・・・

 

そこから

興味を持ったことには驚異的な記憶力を発揮し、知識を吸収したのだそうで

なるほど!納得。

 

気候変動に関するあらゆるデータを頭に入れ

どんな質問にも答えられるがゆえに

あの核心をつき、堂々と明快なスピーチができるんだな、と。

抜群の強みだなあと、思うのでした。

 

 

そして同年、COP24に招かれ、堂々かつ率直な言葉で注目を集め

彼女に賛同した若者たちが、各国でデモを行っていく。

(会議の前、着る服に少々悩む様子まで写ってる。笑)

 

エリゼ宮でマクロン大統領と対面し、

各国に招かれ重鎮と会い、どんどん注目されていく――んですが

しかしどれだけみなに賞賛されても

彼女にとっても、そして地球にとっても意味はないんですよね。

 

「賛同するなら、何とかしなさいよ!」と

観ていて、彼女のいら立ちもよくわかる。

 

さらにSNSで批判にさらされ、誹謗中傷され、殺人予告まで受けて

ヒヤヒヤする。

 

「そこまでがんばらないでも・・・」と声をかけたくなるんだけど

でも、そうじゃないのだ。

その姿に、動かないといけないのは誰だ。

「このままでは自然の反撃はくる。それは病気かもしれない」と最初から言ってた彼女の

まさに、コロナ禍こそがその警告の一端でしかないわけだし。

 

彼女が動かした人は多い。

しかしまだまだ入り口にも立っていない、という思いが

映画からも、最近の彼女のスピーチからも感じられるのです。

もどかしさはよくわかるけど、ちょっと心配――と思いながら

 

来週発売の「AERA」で

ネイサン・グロスマン監督(30)にインタビューさせていただきました。

彼女を撮り始めたきっかけ、その渦中にいた経験、そして

最近の彼女に対する筆者の印象にも

答えてくださっています。

 

映画と併せて、ぜひご一読ください!

 

こっちが最新の宣伝ビジュアルです。

 

★10/22(金)から新宿ピカデリーほか全国順次公開。

「グレタ ひとりぼっちの挑戦」公式サイト

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コレクティブ 国家の嘘

2021-10-03 01:21:15 | か行

「トトとふたりの姉」(14年)の監督、やっぱ間違いない!

 

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「コレクティブ 国家の嘘」81点★★★★

 

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マイベストな「トトとふたりの姉」の

アレクサンダー・ナナウ監督によるドキュメンタリーです。

 

この映画、題材もすごいんだけど

やっぱりこの人の「魅せる」ドキュメンタリストとしての才能に感服してしまう。

 

「観察型」のスタイルで、ナレーションも挟まず

起こる出来事を追うのみなのに

本能、と言えそうな、ある種のエンタメ性とサービス精神で

惹きつける。

 

そして

真実を探り、告発するだけでなく

その先に起こることまでも追う視点に、

ちょっとレベルが違う――というか、驚きました。

 

すべてのはじまりは

2015年10月にルーマニア・ブカレストのクラブ「コレクティブ」で起こった火災。

27人が死亡、180人が負傷する大惨事となってしまったのですが

 

映画はまず遺族の会合から始まり、

そこからバンドのライブ映像に転じる。

最初はわからないのですが、

これ、当日のコレクティブで撮影された映像なんですよ!

まさに火災が起こる瞬間が捉えられていて

「え?」と鳥肌が立つほどショックを受けるのですが

同時に観る人をハマらせる絶妙な作りにも驚くというか。

 

さらに、この事件がショッキングなのが

火災を生きのびた負傷者たちが4ヶ月以内に37人も

搬送先の病院で亡くなっているんです。

結果、合計64人もの死者を出してしまった。

 

「いったい、なぜ?」

 

政府は記者会見を開いて説明をするんだけど

どうも釈然としない。

そこからカメラは、記者会見で鋭い質問を投げかける

スポーツ紙のトロンタン記者の取材を追いはじめます。

 

「報道が目を光らせなければ、国家は国民を虐げる」。

そう言い放つトロンタン記者がまぶしく

彼の戦友ともいえる女性記者ミレラもカッコいい。

 

そして

粘り強い調査と、衝撃の内部告発などから

彼らはある驚愕の事実にたどり着くんです。

さすがにやばくなった国が動き、保健相も辞任する。

 

――と、ここまでもかなり劇的なのですが

しかーし映画は、ここでは終わらない。

 

 

カメラはここから新任の若き保健省の大臣へと

視点をスイッチするんです。

 

疑惑を追及する側から、変革する側へ。

医師出身で誠実そうな彼の働きに希望がともるのですが、だが、しかし・・・・・・という

これまた怒濤の展開になっていきます。

 

 

国が、権力者が、自らの利益のために嘘をつき

それに国民が苦しめられる。

この一連の顛末は

あまりに我が国の「沼」に似ていて、やるせない。

 

正直、最近のニュースはもう聞くのもいやになっちゃうところあるのですが

それでもあきらめてはいけない、と鼓舞された気もするのです。

 

来週(10/4)発売の「AERA」で

アレクサンダー・ナナウ監督にインタビューをさせていただいてます。

あの映像はどうやって入手したのか?

現在のルーマニアは変化したのか?

監督はこの「沼」な状況に、果たして光を見い出せているのか?

 

ぜひ、映画とともにご一読くださいませ!

 

★10/2(土)シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「コレクティブ 国家の嘘」公式サイト

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ココ・シャネル 時代と闘った女

2021-07-24 01:53:23 | か行

シャネルの伝記映画は

けっこう観てきた気がするけど

知らなかったことが明らかにされてたなー。

 

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「ココ・シャネル 時代と闘った女」71点★★★★

 

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言わずと知れた、ココ・シャネルの人生を

新たな事実ともに描くドキュメンタリーです。

55分とコンパクトなのですが

これが思った以上に、見応えアリ。

 

いままで3本ほどシャネルの伝記映画を観た気がするのですが

(シャーリー・マクレーンがシャネルを演じた

「ココ・シャネル」(08年)

そして

「ココ・アヴァン・シャネル」(09年)

「シャネル&ストラヴィンスキー」(10年)

かな)

 

しかし、この映画では

知らなかったことがかなり明らかにされていたと思う。

 

というのも、本作は

これまでの伝記映画や物語を一新する

「沈黙の謎が確証をもって、暴かれた」

2011年以後の彼女への研究を経て、描かれたものだそう(プレス資料より)

なるほど、たしかに、これまでのはみんな2011年前の映画だわ・・・。

 

その「知られざる~」な部分もポイントですが

映画のつくりも

ドキュメンタリーの定番たる

関係者の顔出しのインタビューの羅列ではなく

 

様々な過去映像や映画のシーンを

リズミカルに紡いでゆくスタイルで

退屈させず、いい。

 

 

1883年にフランス南西部に生まれた彼女が

孤児→修道院、としていた経歴も「?」だったり

 

シャネルを築き上げた彼女の鋭角的なデザインセンスが

修道院の建物に影響されていたりとか

そして

あのシャネルのロゴマークにも、

修道院にモチーフがあったとかわかり

いろいろびっくりします。

 

それに

気性の激しい人であったことは

これまでの映画でも描かれていたけれど

パーティでライバルのデザイナーをダンスに誘い

彼女のドレスをロウソクの火に近づけて燃やした――とか

どんだけ?!な驚きが(苦笑)

 

そして「戦争」も、今回の大きなテーマ。

1940年、すでにブランドを築き上げていた57歳の彼女が

第二次大戦をどう生き延びたのか。

そこには今まで知られざる10年の沈黙があった――という部分が

本作の目玉ですね。

 

なにより

「過去の人」とされつつあった71歳で

あのシャネルスーツを生み出したのか――!とあらためて知り

恐れ入りました。

 

ココ・シャネルといえば

その強く凜としたキャラで

破天荒ながら「窮屈なドレスから女性を解放した旗手、女性の味方」

というイメージだったのですが

 

実は1930年代、お針子女性たちによる

「労働改善」の要求ストに激怒して

全員を解雇した、とか

 

人種や階級への差別意識を隠そうともしないキャラだった、とかが証言されて

やや複雑な気分に。

 

それでも彼女が紛れもなく

ファッション界の偉人であり

女性の立ち位置に大きな影響を与えた先駆者であることに、かわりない。

 

しかし、どんなに名声や財産を手に入れても

彼女は、満足しなかった、ということも

よくわかった。

 

何かを渇望し、仕事をし続けた。

 

その原動力は、どこにあったのだろう。

 

それはやっぱり「怒り」だったのかなと

思ったりするのでした。

 

★7/23(金・祝日)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「ココ・シャネル 時代と闘った女」公式サイト

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過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

2021-04-30 02:38:14 | か行

写真界のレジェンドは

いまも現役バリバリ!なのです。

 

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「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」78点★★★★

 

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おもしろかった!

 

82歳のいまも現役バリバリの

世界的な写真家・森山大道さんを追うドキュメンタリー。

 

それこそ神保町古書街で、彼の写真集に

「海外でも、ものすごい高値がついている」と聞き及んでおりましたし

あの犬の写真をはじめ、荒々しく強面なイメージを持っていたのですが

映画を見て、正直驚いた。

 

だって、めっちゃ、優しい方なんだもん!

 

映画は

1968年に絶版した写真集を復活させるプロジェクトを軸に、

氏の歴史と、その日常を追いかけていく。

 

荒れた粒子、ブレた被写体、ボケたピント。

1960年代からの活躍、

紹介されるモノクロ世界の強度に、今さらながらビクッとさせられ、

若者たちで大盛況の

サイン会やトークショーの熱気にも驚きます。

 

なにより日々、街に出て

コンパクトカメラを片手に、ひょうひょうとシャッターを切る81歳の

旺盛な「写真欲」に驚嘆なんです。

 

そうやって撮られた写真が、作品になる過程を見ながら

「こういうふうに、世界を切り取っていたのか!」がわかって

とてもおもしろい。

暗室シーンも貴重だしねえ!

 

でも、そんな森山さんも

人生すべてが順調だったわけじゃない。

 

1970年代後半、スランプに陥り

写真が撮れなくなったつらい時代も語られ

さらに2015年に亡くなった

盟友にて写真家・中平卓馬氏への言葉や想いが、強く伝わってくる。

 

どん底の時期から、どう這い上がったのか――

その過程に、勇気を分けてもらえた気もするし

 

さまざまな風雪を乗り越え

いまも

喫煙スペースでタバコを吸いながら、

声をかけてくるファンに、気さくにサインをする

世界的な写真家の優しさに

どうしようもなくホロリとしてしまうのでした。

 

コロナ禍で公開が1年延びた本作、

この1年を森山さんがどう見たのか、どんな写真を撮ったのか――も

すごく気になるところであります。

そして、再びコロナ禍で上映がストップしてしまいましたが

こんなことにくじけない!というパッションが、この映画にはあると感じます。

無事上映のときを願いつつ!

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

 

★4/30(金)から新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」公式サイト

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キング・オブ・シーヴズ

2021-01-17 23:36:50 | か行

よくぞこれだけの

レジェンド俳優たちを集めた!

 

「キング・オブ・シーヴズ」69点★★★☆

 

 

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かつて「泥棒の王」(=キング・オブ・シーヴズ)と呼ばれた

ブライアン(マイケル・ケイン)。

 

いまは裏社会から引退し、

妻と平穏な日々を過ごしている。

 

が、その妻が突然亡くなってしまう。

 

葬儀に集まった“元ワル仲間たち”は

いずれも第一線を退き、ちょっとヨボってきているが

「何かやりたくてうずうず」な感じだ。

 

そんななかブライアンは

ある青年(チャーリー・コックス)から

ロンドン随一の宝飾店街「ハットンガーデン」での

窃盗計画を持ちかけられるが――?!

 

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2015年、ロンドンで実際に起き

世間を大いに騒がせた

平均年齢60歳越えの強盗集団による

金庫破り事件を描いた作品です。

 

60歳越えどころか

マイケル・ケイン87歳、

「さざなみ」のトム・コートネイ83歳、

ハリポタの校長、マイケル・ガンボン80歳と

 

主演みんな、アラ80じゃん!

いや、マジ素敵じゃん!という(笑)

レジェンド名優たちのうまみがたっぷりでございました。

 

 

そのほかのメンバーたちも

名前を知らなくても、おそらく観たことあり

「あれ、この人?!」となることうけあいで

 

って

最近ホントに主演俳優が、高齢でしかも魅力的という

映画ばっかり観てる気がしますが(笑)

 

それだけ世間的な映画需要も、

渋み俳優たちのほうが濃い、ってことなのだろうなあ。

 

で、この

現実事件をもとにしたハラハラの金庫破り劇は

スピード感こそゆるめだけど

おとぼけの笑いも混じる可笑しさ。

 

さらにシニアあるある笑いネタや

“ヨボ芸”に終わらず

本気でヤバい凄みを出すジム・ブロードベントとか

渋みのなかのホンモノ感とか

マジでヤバいです(笑)

 

ただ、全体的にピン!と来るものが薄めでもあるけど

まあ、あんまりアップダウンやドキドキがあっても

心臓に悪いしね、わしら・・・・・・w

 

★1/15からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「キング・オブ・シーヴズ」公式サイト

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