ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

83歳のやさしいスパイ

2021-07-10 00:49:44 | は行

リアル映像に

スパイ映画の音楽かぶせるのやめてくれ!(爆笑)

 

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「83歳のやさしいスパイ」79点★★★★

 

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いや~最高です。

笑って泣いたドキュメンタリー。

というか、開始10分ほどはフィクション劇だと思って観てた(笑)

それほどにオモシロイ設定なんですよ。

 

舞台はチリ。

ある面接会場に「80歳〜90歳の老人募集」という新聞の求人告知をみて

応募してきた男性たちが集まっている。

 

募集主は、探偵事務所。

彼らは

「うちのおばあちゃん、ちゃんとケアされてる?」という依頼主のため

ホームに潜入し、調査をしてくれる人材を探しているんですね。

 

で、本作の主人公

セルヒオ(83歳)が合格。

 

スマホやペン型カメラの使い方を覚えて、

いざスパイとしてホームに潜入――!?

って、フィクションみたいでしょ?

 

しかしホントにドキュメンタリーで

しかも、監督自身が探偵事務所でバイトしていたときに

こういう調査依頼が実際に多くあったことから、着想したんだそう。

 

 

で、本作の主人公セルヒオは

妻に先立たれ、新たな生きがいを探していたところ

この広告を見て応募してきた。

 

品よく、優しく、

なかなかのジェントルマン。

 

スマホやメールの使用法の特訓を受け、クリアするも

でも、その手つきはやっぱりおぼつかなくて

かなりハラハラさせられる。

 

で、そんな彼が

いよいよターゲットのいるホームに潜入・・・・・・ってところで

スパイ映画の音楽かぶせるのやめてくれ(笑)

 

ツボを心得た演出がたまらん(笑)

 

で、潜入したセルヒオはターゲット女性の様子を探る――はずなのですが

「あの紳士はだれ?」「知的でハンサムよね」と女性陣にモテモテ。

ついには告白されて――?!

なんだか、想定外の方向へ進んでいく。

 

ユーモラス&コミカルな風合いが

実に楽しいのですが

反面、映画には常に悲しみや寂しさが同居してもいる。

 

面会にこない子どもたち。「帰りたい」と言うのに、帰れない老人。

入居者たちは「そんなものよ」と割り切っているけれど

でも、じゃあ

人は何のために子を残すんだろう?――って

考えずにいられない。

 

 

どんな結末が待っているのか?!は

観てのお楽しみですが

 

 

同じ痛みを分かち合い、真に共感できるのは、

やっぱり同じ痛みを知る人なのか、と

笑いながら、真理にたどり着いたりもして。

 

これは、いつか、みな行く道。

まずは親ごさんを大切に!(ワシもね・・・)

 

★7/9(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「83歳のやさしいスパイ」公式サイト

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BILLIE ビリー

2021-07-02 00:42:03 | は行

ビリー・ホリデイの話だけじゃなく

彼女を追い、謎の死を遂げた女性ジャーナリストも主人公にしてる点がツボ。

R.I.P.

 

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「BILLIE ビリー」71点★★★★

 

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伝説のジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイ(1915-1959)の

人生を追うドキュメンタリーです。

 

名前も曲も、知ってはいたけれど

こんなに凄まじい人生とは知らなんだ、と

BLM(Black Lives Matter)の時代につながるドラマに

見応えがあった。

 

 

さらに興味深いのはビリーの話だけじゃなく、

彼女の伝記を書くべく、取材を進めながら

38歳で不可解な死を遂げた

女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュール(1940-1978)を

もう一人の主人公としているところ。

 

なので、「ビリー・ホリデイについては知ってるよ」という方にも

思わぬミステリーあり、サスペンスありで

新たな問いかけをもたらす映画では?と思います。

 

まず

本作はリンダが伝記執筆のために集めていた、

関係者たちへのインタビューが

大きな素材になっている。

 

1915年、フィラデルフィアに生まれたビリー・ホリデイは

相当に過酷な幼少期を過ごしていた。

「10代のころは体も売ってたわ」と

証言する人もいて

 

かつ同性愛者でもあった彼女の人生は

けっこうなドラマ。

Netflixの「マ・レイニーのブラックボトム」の

マ・レイニーを思い出してしまったりもしましたが

 

これらの証言は

リンダが集めていたインタビューで

彼女はビリーを知る人々から、当時の彼女の様子、

歌姫の陰と陽を自然に聞き出し、

そのセックスライフにもすらっと斬り込む。

その手腕が――すげえ。

いち取材者として、ものすごく勉強させられました。

 

で、映画はリンダの存在をしっかり前に出しながら

さらに

ビリーの壮絶な人生に迫っていく。

 

1939年、ビリーは

南部で木に吊るされる黒人の現実を歌った「奇妙な果実」で

人種差別問題に声をあげたんです。

しかし、それが物議を醸し、

彼女は警察にマークされてしまう。

 

声をあげたがゆえに、踏みしだかれる彼女の人生。

わずか44歳で逝ってしまうまでの話は

なんともやりきれない。

 

そして、そんなビリーの人生を追うリンダもまた

取材の過程で、身の危険を感じはじめ

 

そして、1978年に

わずか38歳で亡くなってしまう――。

 

問題に声をあげた女性、それに光を当てて世に出そうとした女性

二人の非業が、時を超えて共鳴した。

彼女たちが伝えるものを、いまこそ

受け取らねばならない、と切に思うのでした。

 

★7/2(金)~7/15(木)角川シネマ有楽町で公開。ほか全国順次公開。

「BILLIE ビリー」公式サイト

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ブラックバード 家族が家族であるうちに

2021-06-12 22:32:56 | は行

ケイト・ウィンスレット、ミア・ワシコウスカはじめ、

俳優力の妙を存分に楽しめます。

 

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」71点★★★★

 

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ある週末。

ポール(サム・ニール)と妻リリー(スーザン・サランドン)が暮らす瀟洒な海辺の家に

娘たちが集まってくる。

 

四角四面な長女(ケイト・ウィンスレット)と

彼女の夫(レイン・ウィルソン)、

そして二人の15歳の息子(アンソン・ブーン)。

 

長女とは正反対で、気ままな次女アナ(ミア・ワシコウスカ)は

恋人クリス(ベックス・テイラー=クラウス)と

久々に顔を見せる。

 

さらに、リリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)も参加して

賑やかな集いがはじまる。

 

だが、これは単なる週末の一家の集いではない。

 

リリーのある決意のもと、彼らは集められたのだ。

 

彼女の決意をどう受け止めるのか、

家族の想いは散り散りに乱れ、

そして家族の秘密が明らかになることに――?!

 

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しょっぱな、

超クールでオシャレな海辺の邸宅とインテリアに

やや鼻白んでしまったんですが

あ、そうね、家主の職業が医者なら仕方ないわね、と納得いたしました(笑)

 

しかも

「ノッティングヒルの恋人」(99年)ロジャー・ミッシェル監督ですから

センスいいのは、仕方あるまい。

 

で、そんな家に暮らすシニア夫妻のもとに集まってきたのは

夫婦の娘たちと、その家族。

 

四角四面で融通が利かなそうな

長女(ケイト・ウィンスレット)とその夫、

姉とはまったく違うタイプで

ちょっと不安定そうな次女(ミア・ワシコウスカ)と、そのガールフレンド。

 

この会合は、単なる週末の集いではなく

母リリー(スーザン・サランドン)がある病に冒され、

自分の最期を自分で決め

「その前に、みんなに会いたい」という

実はシビアな会なんですね。

 

その事情は最初から明かされるし

そのうえで、家族は

王道にラグジュアリーに、週末のひとときを過ごそうとする。

 

昼間からワイン片手にだべり、海岸を散歩し、

リリーの望みで、

クリスマスのごちそうを作り、それを祝ったり。

 

それらはすべて、彼女との「最期のとき」のためだと

全員がわかっているのだけれど

 

しかし、そこで姉妹の考えの違いとか、

夫婦の問題とか

いろいろが勃発していく――という展開。

 

母の病気や決意はそれはそれで重く大きいのですが

全然、別なところで事を起こしそうな

凸凹姉妹にハラハラさせられるという(笑)

 

シビアな状況に

長女夫婦のドタバタが入る加減とか

ややビミョーに感じるところもあれど

 

まあ全員が芸達者な役者たちなので

さすがの演技力で

家族アンサンブルの妙を楽しめるし、

こうした問題を、この感覚で描き、示すことが

目的だったのかな、とも思う。

 

スーザン・サランドンの決意とその方法もけっこうリアルで

「あ、そうやるんだ」と

この手に肯定的なワシは、思わず調べてしまった。

 

――という映画なのですが

それにしても、いま思うのは

「自分の最期を自分で選ぶ」話が、すごく多いな、ってこと。

 

 

公開中の

「やすらぎの森」もそうだし

「海辺の家族たち」にも印象的なそのくだりがあったし、

 

日本の「椿の庭」もそう。

 

公開待たれる

「スーパーノヴァ」(7/1公開)もそうだしね。

 

これまでも、たしかに描かれてはきたけど

いま、多い。

なんでしょうね。考えちゃいますね。

 

★6/11(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」公式サイト

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ベル・エポックでもう一度

2021-06-11 00:45:35 | は行

スマホや動画配信の時代に馴染めない中年主人公――ってとこに

共感できたら、観るしかないす!(ワシじゃ!笑)

 

 

「ベル・エポックでもう一度」72点★★★★

 

 

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主人公ヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)は60代。

かつては売れっ子イラストレーターだったが、

デジタル化についていけず

同年代の妻のマリアンヌ(ファニー・アルダン)にも見放されている。

 

そんな父に息子が友人(ギョーム・カネ)が始めた

〈タイムトラベルサービス〉をプレゼントする。

 

それは映画のセットや役者を使って

客の戻りたい過去を再現してくれる

体験型のエンターテイメントサービスだった。

 

ヴィクトルは

「運命の女性と出会った1974年のリヨンに戻りたい」とリクエスト。

 

当日、指定された場所に赴くと

そこには、あの日、あのときのすべてが再現されていた――!

 

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しょっぱな中世貴族の晩餐シーンからはじまり

「あれ?現代劇じゃなかったっけ?」と

意表をついてくる本作。

 

もろもろを理解し没入するまでに少々、時間はかかりますが、

なかなかにおもしろい後味を残してくれます。

 

主人公のヴィクトルは60代。

かつては売れっ子イラストレーターだったけど

スマホや配信動画など新しいものに馴染めず

いまや

完全に時代から取り残され(うっ・・・共感)

半・隠居生活を送ってる。

 

いっぽう、同世代の妻は

VRまで使いこなすアグレッシブな女性。

 

彼女は時代の変化を受け入れずに思考停止し、

あげく会食中に居眠りをする夫に

ウンザリしている(うわあ、うちのおとんとおかんみたいだ!

 

 

この夫婦描写が実にリアルなんですが

さて、映画は、そんなしょぼしょぼな夫ヴィクトルが

息子の勧めで<タイムトラベルサービス>なるものを

試すことになるところから動き出すんです。

 

<タイムトラベルサービス>とは

映画のセットや役者を使って、

客が望む過去を体験させてくれる、というアトラクション。

 

言うなれば

「昭和を再現したテーマパークで、自分が主人公になって

”忘れられない、あの1日”を過ごす」イメージかなあ。

 

で、その体験にハマったヴィクトルは

けっこうな額の追加料金を払って体験の延長をし、

さらに運命の女性を“演じている”女優に恋をしてしまう――という展開。

 

映画やドラマが作り出す「虚構」が大きなテーマでもあり

そこで

完璧に造られた「嘘」を演出する

スムーズでなめらかなカメラワークが、実に気持ちよい。

 

過去に戻る感覚はSFのようでもあるし、

サービスを提供する舞台裏のドタバタも可笑しい(笑)

 

手の込んだ入れ子構造のようで、

実は周りくどすぎる熟年夫婦のラブストーリーだったりもして

けっこう深いんです。

 

過去を体験することを

「あのころはよかったなぁ」とかの

単なる「ノスタルジー」にせず

 

主人公ヴィクトルが、過去を再体験することで

どう変化していくのか――が

見どころですね。

 

主人公の状況に思い当たるふしある方には

ぜひともオススメしたいし

 

てか、実際にこのサービスないの?

本気で思ってしまうのでありました(笑)

 

★6/12(土)からシネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「ベル・エポックでもう一度」公式サイト

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ファーザー

2021-05-13 23:58:19 | は行

これね、ワシはホラーだと思いましたよw

 

「ファーザー」74点★★★★

 

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英・ロンドン。

アン(オリヴィア・コールマン)は

一人暮らしの父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)の家に急いでいた。

 

父・アンソニーは81歳。

記憶にほころびが出始めた彼を

アンは心配し、介護人を頼んでいるが

父は彼らをことごとくクビにしていた。

 

しかし、アンにはパリに引っ越す計画があった。

そうなると

父の面倒を頻繁に見られなくなる。

 

「なんとか介護人を受け入れてほしい」と父に話すアン。

が、父には

ほかに探るべきことがあった――?!

 

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祝・アカデミー賞主演男優賞&脚色賞、受賞!

これは

アンソニー・ホプキンス氏の最高潮といって

なんら間違いないでしょう!

 

高齢といっても

自分で買い物もでき、食事の支度もできる主人公アンソニー。

一見、普通の暮らしぶりにみえて、

しかし

あれ?いま、話していたのは娘だよな?

え?このいけすかない男、娘のダンナだったよな?――ん、違ったっけ???

 

そんな高齢者の記憶の混乱を

ミステリーに転じさせていくこの展開は

なにより、ホプキンスの醸し出す「凄み」あってこそといえる。

 

ホプキンス自身が

「自分の父親を思い出した」と言っているとおり

誰にでもリアルな状況を、迫真で演じた彼が

スゴイです。

 

 

映画の舞台は、アンソニーの家。

同じ部屋の風景、同じキッチンなのに

写るたびに、

びみょーに物の置き場所が違ったりする。

 

そんななかで

娘と思っていた人物が入れ替わったり

ヘルパーと思っていた人物が入れ替わったり。

 

で観客も

「ん?」「え?」な世界に引きずり込まれていく。

 

これは

認知機能が低下した高齢者の見ている「世界」の描写で

その「え?」の戸惑いは

その本人にとって

ミステリーであり、サスペンスフルな状況なのだと

まず、本作は表しているのだと思うのです。

 

それは本人にとって恐怖なのだけど

 

同時に

どんなに部屋の様子や、彼を取り巻く人が変わっても

彼自身=アンソニー・ホプキンスが

そこに「いる」ことだけは変わらない。

 

そのことが

彼の面倒を見る立場にある娘(オリヴィエ・コールマン)にとってもまた

ホラー以外のなにものでもないのだ――ということが

リアルに伝わってくるところが

痛く哀しく、

絶妙なおもしろさでもあるのでした。

 

とりあえず、老親に電話、電話・・・・・・(苦笑)

 

★5/14(金)から全国で公開。

「ファーザー」公式サイト

※上映情報は公式サイト&各映画館のサイトをご確認ください。

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