ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

東京クルド

2021-07-09 23:52:43 | た行

いま観るべきドキュメンタリー!

 

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「東京クルド」79点★★★★

 

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迫害を逃れて、トルコから幼少期に日本にやってきた

二人のクルド人青年ラマザン(19)とオザン(18)を主人公に

 

彼らの5年間を追いながら

日本における「難民」の状況を描いた秀逸ドキュメンタリーです。

 

「難民」という問題は重く、大きいけれど

なにより多くの方に知ってほしいのは

主人公のラマザンとオザンが、本当に魅力的だってこと。

そしてこの映画が

彼らの青春譚にもなっている、というところなんです。

 

 

日本語も達者で二人とも実に聡明で

ハンサムで、実に健やかなんですよ(これ、大事!w)

 

そんな彼らが、この日本でどうやって生きているのかが

映画を観るうちに、明らかになる。

 

そして

こんなにも健やかなる若者の未来をくじく

日本という国に、怒りが沸き立ち

問題が「よそ事」ではなくなる。

 

それこそが、この映画の意味だと思うのです。

 

ラマザン(19)とオザン(18)は

それぞれ8歳、6歳で家族と日本にやってきた幼なじみ。

迫害を受ける可能性があり、トルコには帰れないのに

両親も彼らも

難民申請が受理されず「仮放免」という厳しい立場にあり続けている。

 

仮放免というのは

学校には通えるけれど、働くことはできず

健康保険もないし、自由に移動することにも制限がある状態で

2カ月に1度くらい「入管」に行って、

その許可を延長してもらわないといけなくて

しかも、いつ、いきなり入管に収容されるかわからない。

 

そして、彼らの一番の苦しみは

やっぱり「働けない」ことなんですね。

 

ラマザンは

日本語、トルコ語、クルド語を話す利発な青年で

かつ英語の勉強をし、

通訳になる夢を持っている。

 

でも

日本で通訳専門学校に入学を希望するも

「仮放免」という立場ゆえ、ことごとく断られてしまうんです。

ホントは学校に通うことは法律上問題ないけれど

専門学校の人、そんなことわからないんですよね。

いや、ワシだって、知らなかったもの、その境遇や状況。

でも、それじゃいけないよね、と思い知らされる。

 

いっぽう

解体現場で働くオザンは、親との関係がギクシャクしている。

自暴自棄になりそうな彼は

それでもラマザンに背中を押され、

夢だったタレント事務所の扉を叩くんです。

ルックスいいし、トルコのネタ話せる?じゃあ、仕事してみる?と

イケるモードになるのに

しかし、やはり「仮放免」の立場がネックになり

将来の道をくじかれてしまう。

 

衝撃的なのが

オザンと入管職員との会話。

 

仕事がしたいだけなのに、と訴えるオザンを

鼻で笑いながら入管職員が

「他の国行ってよ、他の国」とあしらうんですよ。

いったい、お前は何様?!

はらわたが煮えくりかえり、

いや、自分もそんな日本の一員であることに反吐が出そうになる。

 

 

ただ、発売中の「週刊朝日」で日向史有監督に取材をさせていただき

ワシも何度もこの映画を見直しているうちに

たしかに、監督がインタビューで言っていたように

入管職員たちが、さほどの重き意味を持って

この発言をしていないんだな、ともわかる。

結局は、彼らの態度は

私たち日本人を写す鏡だってことなんです。

 

ああ、なんてことだろう。

 

詳細はぜひ

「週刊朝日」をご一読いただければと思いますが

 

 

しかし

日本は一体どうしてこんなヘボ国家になったんだろうと

悔しくてしかたない。

そして

 

そんな状況のなかで

それでも生きていく、彼らに熱い思いを寄せずにいられない。

 

声をあげること、支援団体への援助――

できることはあるけれど

でも、まずは彼らが「いること」を知ることが第一。

そこから、何かが変わるかもしれない。

 

★7/10(土)からシアター・イメージフォーラム(東京)、第七藝術劇場(大阪)で緊急公開、ほか全国順次公開。

「東京クルド」公式サイト

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椿の庭

2021-04-11 00:14:44 | た行

完璧に美しい!

そして物語の意味を、いま、より深く想う。

 

「椿の庭」73点★★★★

 

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葉山の海を見下ろす高台に建つ、

風情ある古民家。

四季折々の草花が咲く庭があるこの家で、

絹子(富司純子)は夫とともに、子どもたちを育ててきた。

 

が、いまは夫に先立たれ、

絹子は若くして亡くなった長女の忘れ形見である

渚(シム・ウンギョン)と暮らしている。

 

そんな二人を

子どものいない絹子の次女・陶子(鈴木京香)が

ときおり訪ねてくる。 

 

しかし、その穏やかな暮らしは

長くは続かなかった。

 

夫の四十九日法要を終えた絹子に、

莫大な相続税がのしかかってきたのだ。

 

「家を売って、一緒に暮らそう」と陶子は誘うが

絹子はある決断をする――。

 

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1990年代のサントリーの烏龍茶のCMをはじめ

その研ぎ澄まされた美で知られる

写真家・上田義彦氏の初監督作です。

 

世代的にも、上田氏の写真の素晴らしさは

重々知っていたワシ。

 

でも、映画はどんなもんだろ?と

正直、かなり斜め姿勢で入ったんです(すんません!苦笑

 

で、はじまりから

その美学は完璧!で

『ミセス』や『家庭画報』的な日本の美だわ!すてき暮らしだわ!

(でも現実的じゃない!)――と

ひねくれ者として鼻むずがゆさも感じた。(再度すんません!苦笑

 

しかし。

観終わってみるとこれが、2度、3度、観直したくなる。

そして、観るたびに

その本気の美しさに触れた静かな満足感が

ふつふつと沸いてくるんです。マジで。

 

本来は2020年公開の予定だった本作。

コロナ禍で延期となり、ようやく公開――となったのですが

逆にその時間を経て、作品の意味が一層に増し、

さらに受け取る自分が変化したのかもしれないと

リアルに感じました。

 

 

主演・富司純子さんの凜とした美しさ、

趣味のいい着物、所作、日々の食事の器――

その「あつらえ」は、究極に美しく

現実離れしているようでもあるけれど

 

いや、あくまでもこれは

「できれば、こうありたい」という日本人誰もの素直な理想であり

かつ「これを忘れないで」という思いと

それを継いでくれる世代への希望に他ならない――と、いま思うんですよね。

 

なにより、この映画には

「美」だけでなく、

うつろいゆくもののはかなさや「死」が描かれている。

 

庭に散らばる、落ちた椿の残骸。

庭の池で動かなくなる金魚。

夏の終わりの縁側で、静かに息を引き取る蜂。

 

絹子さんの決断を含め

 

――かたちあるものは、いつかなくなる。

だからこそ、生は刹那で美しい。

そして世代は次にバトンタッチされ、

まためぐり、移り変わっていく。

 

そんな輪廻を

上田監督は、しかとフィルムに留め置き、伝えているのだと

ワシもようやっと感じとることができました。

 

眼福にして、精神の至福へと導いてくれる

そんな作品だと思います。

ぜひ、しっとりと、じっくりと

味わっていただきたいです。

 

★4/9(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「椿の庭」公式サイト

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ディエゴ・マラドーナ 二つの顔

2021-02-07 03:28:07 | た行

やっぱり伝説な、すごい人。

でも、モヤモヤの正体もわかった。

 

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「ディエゴ・マラドーナ 二つの顔」71点★★★★

 

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秀逸ドキュメンタリー映画

「AMY エイミー」(15年)監督が

サッカーのレジェンド、マラドーナを追った作品。

 

2020年11月に亡くなった彼の近々インタビュー、

そして

彼の元妻などにも粘り強く交渉して取材を取り付けていて

貴重な映像と音声が満載です。

 

 

編集もさすがの手腕で

マラドーナの名前は知っていても

「神の手」がなんだったのか、もよく知らず

晩年の報道からなんとなく黒いイメージのほうが勝っていたワシにも

すごい人だったんだ!というリスペクトを喚起させ

さらに

様々を考えさせてくれました。

 

それに

歴史的な試合でも、知らないと勝ち負けがギリギリまでわからない、という

構成もうまい!(笑)

けっこうハラハラします。

 

 

まずはその生い立ちからスタート。

アルゼンチンの貧困地区に生まれ、

15歳でサッカーの才能を発揮し、

そこからずっと、一家を背負う任を課せられてきたんだ、と知って驚いた。

 

そして映画の中心となるのは

1984年、23歳にしてイタリアのSSCナポリに移籍したときから。

 

そもそもイタリア国内でも

南部のナポリという場所は、いろいろ差別されていたのだ、と初めて知ったし

そこにやってきた異国人マラドーナの

疎外感と期待とプレッシャーたるや、いかばかりだったか、と。

 

しかし、天賦の才と努力で彼は

チームを格上げしていく。

そんな彼の活躍に、ナポリ、そして国中が熱狂していく様子も

記録映像などからリアルに感じることができます。

 

1986年、 FIFAワールドカップでの“神の手”と5人抜きゴールなどの活躍で

「神」とあがめられ、

しかし後年、薬物問題などで転落していく様子も

しっかり描かれている。

 

「ゴモラ」(08年)などで観てきた

イタリアの犯罪組織「カモッラ」の怖さもジワジワと伝わるし。

 

と、総じておもしろい映画なのですが

どこか、ビミョーに複雑な気分になったんですよね。

 

例えば

勝利に沸き、雄叫びを上げながら盛りあがる

イタリア・ナポリのチームメイトたちのロッカールームでの様子。

あるいはワールドカップでの勝利に沸く

アルゼンチンの街や国の熱狂や狂乱ぶり。

 

まるで闘牛のように荒ぶる男衆の波が、正直怖いほどで

なんだか居心地悪く感じられたんです。

 

このモヤモヤはなんだろう?と考えて思い当たったのが

これってすごくわかりやすいマッチョ的世界で

「マチズモ(男性優位主義)」の表出なのだ、ってこと。

プレス資料でも

本作に関わった重職の女性スタッフたちが同じことを言っていて、

よりその思いがクリアになったんですけどね。

 

監督が切り口を「二つの顔」としたのは

家族思いでやさしい青年ディエゴと、

神とあがめられる対外的な“マラドーナ”の顔、ということなのですが

“マラドーナ”の顔は、このマチズモに相当に引っ張られ、

もまれることで生まれたんじゃないかと思うのです。

 

だってそもそもは

幼なじみとの約束を守って、その彼女と結婚したりする人なんですもん(ピュア!

でも、同時に若くして得た名声に溺れて

ほかの女性と関係してしまったりもするわけで。

 

そして次第に

“マラドーナ”の顔にのまれたのだろうか

男らしくあれ、勝者たれ、の弊害として自身の弱みを人に見せることができず

薬物に溺れてしまった、とも言えるのかなと

 

社会における男性の生きにくさ、をも

考えさせるのでありました。

 

ま、2021年のニッポンには

そんな同情の余地などなさそうな人もいますけど。

 

★2/5(金)から全国で公開。

「ディエゴ・マラドーナ 二つの顔」公式サイト

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天国にちがいない

2021-02-01 23:26:07 | た行

うん、ちょっとジャック・タチっぽいなと感じました。

 

「天国にちがいない」71点★★★★

 

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イスラエルのナザレ。

映画監督のエリア・スレイマン(本人)は

自宅で物思いにふけっている。

 

ふと庭を見下ろすと、レモンの木から果実をもぎ取っている男がいる。

「隣人よ。泥棒ではないぞ。ドアはノックしたんだ。誰も出てこなかった」

 

いろいろな出来事に遭遇しながら

それを静かに見つめる監督。

 

やがて監督は、映画の企画を売り込みに

パリへ、そしてニューヨークへと

旅をしていく。

 

そこで、またさまざまな

「ん?」に出会っていく――。

 

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2002年に「D.I.」で

カンヌ国際映画祭審査員賞ほかを受賞した

エリア・スレイマン監督、10年ぶりの新作です。

 

パレスチナ系イスラエル人である監督自身が主人公となり

映画の企画を携えて

故郷ナザレ、そしてパリ、NYを旅する――という展開。

 

監督自身が、行く先々で出会う出来後を

「傍観してる」というシチュエーションで

 

例えば

ナザレのレストランで

隣の席のワルな男たちがウエイターにクレームを出していたり、

パリのカフェでオープンテラスに座っていると

いきなり測量技師に囲まれたり

 

大きな事件はないけれど、

クスッと笑えてときどきトホホ(笑)

ナンセンスで、しかし不思議に見入るシーンが連なっていく。

 

そのなかで、

パナマ帽やメガネをトレードマークに

「きょとん」とすべてを客観的にみている監督は

たしかに、そのたたずまいが、ジャック・タチを思わせる。

 

パレスチナ系イスラエル人という

自身の立場の複雑さ、も内包しているからであろう

どこにいっても所在なげで、異邦人な視線があり

 

それを映すのか

どの風景も、もの哀しさをたたえていて

どこか

アキ・カウリスマキ監督やロイ・アンダーソン監督の作品に通じる気もします。

 

 

そして、どの国、どの都市にも共通する

空港での検問の厳しさや

町中にあるカメラ、監視の状況、統制されたムードに

「世界は、いまはパレスチナになってるんじゃないか?」と

監督は、静かにシニカルに提示しているようです。

 

 

冒頭シーンの意味は?

小鳥のシーンはどうやって撮ったの?!

 

と、

いろいろ聞きたいこともあり

監督にインタビューさせていただいているので

ちょろっと、ここで公開。

 

映画は、自身の「旅路」で

なにかしら、現実にあったこととリンクしているそう。

冒頭の教会でのやりとりは

まるでギャグのようだけど、25年前に実際に起こったことなんだって。

 

あと、パリのシーンでの

すごく印象的な小鳥のシーン。

あれも実際に起きた出来事がベースで

撮影ではあの小鳥、

実物とCGとをうまく組み合わせて描いたそうです。

 

ちなみに

パナマ帽&メガネトレードマーク的扮装も

ジャック・タチを意識してるのかなーと思ったのですが

それは単に「歳を取って必須になったから」だそうです(笑)

 

 

★1/29(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。

「天国にちがいない」公式サイト

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トルーマン・カポーティ 真実のテープ

2020-11-03 19:25:52 | た行

おこがましくもこの小柄な天才を

ギュッ、としたくなってしまった。

 

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「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」73点★★★★

 

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「ティファニーで朝食を」「冷血」などで知られる

20世紀を代表する文豪、トルーマン・カポーティ。

 

フィリップ・シーモア・ホフマンの

「カポーティ」(06年)っていう作品もありましたが

 

背が低く、独特な声、そしてゲイ。

コンプレックスになりそうな要素を多く持ちながらも

そんなことを物ともせず

文壇の寵児となり、社交界を牛耳った。

 

いっぽうで辛辣な物言いで

「一度会ったら二度と会いたくない」――などとも言われた彼が

実際、どんな人物だったのか?――を

追ったドキュメンタリーです。

 

彼の伝記をまとめたジョージ・プリンプトンのテープをもとに

オバマ元大統領の秘書という異色の経歴を持つ監督が、

さらにさまざまな証言者にインタビューし

実に手際よく、うまくまとめられています。

 

 

カポーティの原動力にもなった幼少期の複雑な家庭環境、

そして19歳で美少年キャラとしてデビューしたころ

(ほんとうに可愛らしい!

 

その後、

「ティファニーで朝食を」の成功、そして

CBS会長や鉄道王などホンモノのセレブである夫人たちとの

パーティー三昧のキラキラライフ――

 

このへんの彼は、間違いなく絶頂期にあるんだろうけど

どう見ても空虚に見えて仕方ない。

 

特に1968年、プラザホテルのボールルームで

世界中のセレブ540人を招待して開かれたという

伝説のパーティーシーンを

とてつもなく、むなしく感じてしまったのですが

 

そしたらですね

出席者の一人だったキャンディス・バーゲンが、

その後のインタビューですごくいいことを言ってるんですよ。

「ベトナム戦争中だったし『罪の意識を持つべきだ』という空気はあった」

――ああ、良識ある人は、やっぱりいたのだ!って。

 

で、その後、カポーティは

社交界の内幕を暴露する本を書き始め――

そこからもまあ、いろいろあるので

ぜひ、映画をご覧いただきたいですが

 

波瀾万丈の人生!なのはたしかなのですが

それよりも

その生い立ちや、彼の養女の存在、ふとした優しさを知る証言に

知らなかった文豪の素顔がすごく自然に立ち現れてくるのが

とてもよかったんですよね。

 

最後には不思議なほどに

切なくやさしい気持ちが残るのでありました。

 

そして今回はオバマ元大統領秘書にして

あのバイデン氏の素顔も知る

イーブス・バーノー監督(40)にインタビューをしております。

近々、AERA.dotのオリジナル記事として掲載されると思いますので

こちらもお楽しみに~

 

★11/6(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」公式サイト

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