歴程日誌 ー創造的無と統合的経験ー

Process Diary
Creative Nothingness & Integrative Experience

「小さき声」復刻版の校正

2005-11-04 |  文学 Literature
「小さき声」復刻版の校正作業を、志を同じくする方々と続けている。この作業は、誤植の訂正だけでなく、聖書の引用などについては本文批判も必要なので、時間をかけて行わねばならない。幸い、多くの方からメールで誤植や、編集ミス、口述筆記故の誤記の可能性についてのご指摘を戴き、それを参考にしながら、テキスト批判の作業を続けている。
 ところで、第8号の聖書引用について、無教会信徒の「旅人」さんから貴重なご指摘を戴いたので、それを報告したい。(「旅人」さんは晴読雨読で内村鑑三の研究をされている方である)「旅人」さんによると、「小さき声」第8号のヨブ記の引用
「ヨブが鎖を父と言い、蛆を母姉妹と呼んだ」
では、「くさり」という言葉が漢字で「鎖」となっているが、これは聞き間違えではないかとの事であった。松本さんの言葉は、次の文語訳聖書(ヨブ記17章14節)を引用したもの。
「われ朽腐(くさり)に向ひては汝はわが父なりと言ひ、蛆に向ひては汝は我母わが姉妹なりと言ふ」
つまり、「くさり」という言葉は、上の「朽腐(くさり)」を意味していたのであるが、筆記された方がそれを、「鎖」と誤記したものであったことが判明した。こういう箇所は、原本のテキストそのものを訂正しなければならない。

「旅人」さんの指摘を受けて、私も幾つかの聖書の翻訳と注釈にあたって上記の箇所を確認してみた。該当するヨブ記の箇所は、翻訳が訳者によって異なる。口語訳聖書では、「墓の穴を父と呼び」と訳す事が多い。参考までに、C.F.Keil and Delitzch の旧約聖書注解(これはその霊的な深さによって内村鑑三が傾倒した旧約聖書の注解シリーズ)のヨブ記の箇所を見ると

14 I cry to corruption: Thou art my father!---
To the woom: Thou art my mother and sister!

とあり、「朽腐」と同趣旨の語(corruption)で訳されている。おそらく、これが伝統的な訳語のようで、カトリック教会の注解付き英訳Catholic Study Bible でも corruption となっていた。これに対して、TEV(英語口語訳)では grave(墓)となっており、関根正雄も「墓の穴」と訳しているので、現代の聖書學では、「墓穴」という訳を選択する人のほうが多いのかも知れない。
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