ディプロマ・ミルという言葉をご存知だろうか。Diploma Mill、直訳すれば証書工場となるが、ディグリー・ミル(Degree Mill)、学位工場の方が分かりやすいかもしれない。その国で大学と認定されていない機関から「学位」取得することである。学位商法とも呼ばれる。この問題がメディアを巻き込んだ「ある事件」へと展開した。以下、まとめる。
記事の裏づけ
ディプロマ・ミル問題が明らかになったのは、私が勤める金沢大学。文科省は昨年末に公表した全大学・短大を対象にした調査で、44大学の教員49人の非認定学位が、採用・昇進の際に経歴に記載されていたと公表した。それを詳細に取材フォローした1月26日付の朝日新聞によると、金沢大学医学部保健学科で理学療法を教える男性教授は、2002年にニューポート大学の博士号を取得した。03年にこの学位も記載した書類で選考に臨み、助教授から教授に昇進した。教授選考では、業績、博士の学位、教育の経験など3つの条件が総合的に判断される。選考過程で「ニューポート大とは何だ」と話題になったが、業績が優れているため昇進が認められたという。また、同じく医学部保健学科の女性准教授(看護学)は1997年にこれも同じくニューポート大の修士号を取得して経歴に載せ、99年に講師から昇進した、との記事内容だった。
今度は、これを報ずるメディア側に問題が起きた。この朝日新聞の記事を後追いしたかたちで、1月27日付の読売新聞石川県版では、金沢大学の男性教授と女性准教授がアメリカで学位と認められていない学位を取得し、経歴として使っていたこと、それに対する大学の見解についての記事が掲載された。ところが、大学側の見解は実際に取材しておらず、ネット上の「アサヒ・コム」などを見て執筆してたことが、大学側から読売新聞に対する問い合わせで判明した。ことの顛末は2月1日付の朝日新聞で「読売記者、取材せず記事」という3段抜きの見出しの記事となった。
そのときの状況を推察すると、朝日の掲載日は1月26日、土曜日である。読売の掲載日は27日、つまり日曜日。とうことは、読売の男性記者が執筆したのは26日の土曜日である。大学の業務は休み。記者はおそらく広報に問い合わせたのだろうが、確認できなかった。そこで、やむなく他紙の記事を参考に書いてしまった、というパターンなのだろう。本来、広報が休みならば、学長に確認するというくらい気構えがないと記事は書けない。が、記者は「簡単、お手軽」なネットの記事を漁ったということなのだろう。記者はその後、休職1ヵ月の懲戒処分となった。
取材の裏付けなしの記事は、新聞メディアの世界では「あるまじき行為」とされる。捏造とは次元が異なるが、いわば記者として「信頼を損なう行為」である。もちろん、メディア側の不祥事をあげつらって、ネタ元となった大学側の問題に煙幕を張るというつもりでブログを書いたわけではない。
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