新天皇が即位し、新元号になったということを新聞社はどのように伝えているのか。4月30日付と5月1日付の各紙の一面の見出しを比較してみた=写真=。すると各社の編集の在り様が見えてくる。
一面の見出しで目立つのが「天皇」と「天皇陛下」の表記だ。共同通信『記者ハンドブック(第13版)新聞用字用語集』(2017年版)によると、「見出しでは敬語、敬称を省略してよい」としている。見出しなので字数を減らす必要があるので当然と考える。「新天皇即位」(北陸中日新聞)や「新天皇即位 令和元年」(朝日新聞)、「新天皇ご即位」(産経新聞)などは「陛下」を省略している。ところが、「新天皇陛下 即位」(日経新聞)、「新天皇陛下即位」(読売新聞)などは「陛下」の敬称を入れている。もちろん、共同通信の記者ハンドブックなので各社はそれに従う必要もない。ただ、読者サイドからは主見出しに「天皇陛下」の4文字は重くないだろうか。丁寧と言えば丁寧なのだが、あえて見出しで「陛下」を入れる意義はどこにあるのだろうか。
読売の横の主見出しはいわゆる「ぶち抜き」といわれる、紙面左端から右端まで通すかたちで、新聞社としては最大級の扱いという意味だ。しかし、「新天皇即位」の5文字ではよほど文字を大きくしないと、ぶち抜きスペースは埋まらない。そこで、「陛下」の2文字をあえて入れたのではないだろうか。日経はぶち抜きではないが同じ理由ではないか。あくまでも推察だ。
記者ハンドブックでは、「『御』は固有名詞以外はなるべく『お』『ご』と平仮名書きにするが、基本的には不要」としている。必要最小限での字数で表現する見出しの場合はなおさらだろう。ところが産経は「新天皇ご即位」としている。「ご即位」としているのは産経だけだ。これはおそらく、「新天皇即位」とすると漢字のみが5字並び、読者サイドの見出しの印象が強く重いので、あえて「ご」を入れたのではないかと編集サイドの気持ちを推し測ってみた。うがった見方をすれば、産経も読売と同様にぶち抜きであり、「新天皇即位」の5文字では埋まらない。そこで、あえて「ご」を入れて6文字にし、さらに文字を拡大することでスペースを埋めたということだろうか。文字の大きさは産経が一番大きい。
見出し文字はいわゆる「黒字のみ」なのだが、読売は「白抜きベタ」を使っている。白抜きベタの見出しは異常事態を読者に印象づけるためによく使われ、慶事の記事では余り見たことがない。今回も主見出しの白抜きベタは読売のみだ。しかも、「新天皇陛下即位」の漢字7文字の連続は、読者としは正直読みにくい。同じ漢字7文字の日経は「新天皇陛下 即位」と「新天皇陛下」と「即位」の間に文字の空きを入れている。漢字9文字の朝日は「新天皇即位」と「令和元年」の間に空きを入れ、さらに字体を明朝体にすることで連続漢字の強さの印象を和らげる工夫をしている。ちなみに漢字だけを並べた見出しを「戒名見出し」と称したりする。
石川県の地元紙の北國新聞は主見出しで「令和 幕開け」と新たな時代の始まりを強調している。脇見出しで「新天皇陛下 即位」と白抜きベタを使っている。サイドの見出しだが、主見出しと同等に目立つようにとの工夫だろう。主見出しで「令和」の文字を入れたのは朝日の「新天皇即位 令和元年」と合わせ2紙だ。
では読者サイドとして読みやすい印象の見出しはどの新聞かとなると、産経かもしれない。あえて「ご」を入れることで「新天皇」と「ご即位」の字数バランスをうまく取っている。見出しについては特に決められたルールがあるわけでもない。読みやすく目立つようにすればよい。その編集者の意図と工夫が見出しから読めてくる。
⇒2日(木)朝・金沢の天気 あめ後はれ