ある意味、トランプという人物は歴史に名を残すかもしれない。弾道ミサイルを再び発射する北朝鮮の崖っぷち外交には「Deal will happen!(取引交渉が始まるよ)」と余裕を見せ、アメリカと中国の貿易交渉でも関税を25%に引き上げるとして「but too slowly, as they attempt to renegotiate. No!(中国は再交渉を試みているが遅すぎる。ノーだ)」と切り捨てるようにツイッターで言い放っている。
中国への脅しとも取れる今回の関税25%引き上げの発表は、うがった見方をすると根深いものがあるかもしれない。ホワイトハウスのホームページ(4月24日付)で掲載されている見出しがそのことを想起させる。「President Trump is Fighting to End America’s Opioid Crisis(トランプ大統領はアメリカのオピオイド危機を終わらせるために戦っている)」=写真=。ページを読む込むとオピオイド危機は中国が持ち込んでいると読める一文がある。「President Trump secured a commitment from President Xi that China would take measures to prevent trafficking of Chinese fentanyl.(トランプ大統領は、中国からのフェンタニルの密売を防ぐ措置を講じるとの習主席の確約を取りつけている)」と間接的な表現ながら中国を名指ししている。
オピオイド危機とは何か。ケシの実から生成される麻薬系鎮痛剤の総称。オピオイドの過剰摂取による死者は年間7万237人(2017年、アメリカ疾病対策局)にも上り、中でも強い鎮痛効果があるフェンタニルによる死者は2万8466人と急増している。このフェンタニルを大量生産しているのが中国で、本来アメリカ国内の病院でしか扱えないものが、他の薬物として偽装され普通郵便でアメリカに送り込まれたり、中国からメキシコやカナダに渡り、国境を越えてアメリカに持ち込まれたりしている。ホワイトハウスのHPによると、2016年と18年を比較すると、郵便検査官による摘発は国際便が10倍、国内便で7.5倍に。2018年に国土安全保障局が国境で押収したフェンタニルは5千ポンド(2250㌔㌘)になったと記載している。
ホワイトハウスHPによると、トランプ大統領はオピオイド危機の撲滅のため、この2年間で60億㌦を新たに注ぎ込んでいる。医療専門チームによる患者の治療(2017年に25万5千人が治療)、青少年薬物使用防止キャンペーン、インターネットによる売買の監視、依存症に罹患した人々の労働復帰のために53百万㌦援助など実施していると掲載している。その成果として、オピオイドの過剰摂取による死亡は2018年9月で前年同期比で全米では5%減、中でもオハイオ州で22%、ペンシルベニア州で20%、それぞれ減少したと強調している。まるで「アヘン戦争」が起きているかの如くの書きぶりだ。
トランプ大統領のオピオイド危機との戦いの記事はホワイトハウスHPの一面に掲載されている。そのポジションから見れば最重要課題なのだ。「習主席の確約」は昨年12月1日に行われた米中首脳会談で取り付けている。オピオイド危機はアメリカの大いなる経済的な損失でもあると考えれば、首脳会談で直談判した意義はある。今回の貿易交渉のテーブルでもフェンタニルの密売問題が議論になったのではないだろうか。「大統領と国家主席が約束したフェンタニルの密売を中国が根絶できないのは、なぜだ。これでは通商の約束も履行できないだろう」とアメリカ側が迫ったかもしれない。
オピオイド問題は治まる兆しはあるものの戦いは終わってはいない。オピオイド危機と貿易戦争をあえてセットで想像してみれば、トランプ氏が「but too slowly,・・・ No!」とツイッターで叫ぶ理由が理解できなくもない。
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