NHKのテレビ番組が放送と同時にネットでも常時見られるようになる改正放送法が参院本会議で可決成立した(今月29日)。同時配信の時代が日本にも遅ればせながらやってくる。遅ればせというのは、同時配信はイギリスの公共放送BBCは2008年から、そのほかアメリカやフランスなど欧米では当たり前のように行われているからだ。
~ 放送はマスでも、ネットは個、視聴者行動にもSIPSがある ~
NHKは同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」への脱皮を計っているのだろう。NHKは同時配信には前向きで、災害報道などネットと同時配信を行っている。個人的に同時配信を実感したことがある。2018年11月7日のアメリカ議会の中間選挙の結果をNHKのネット中継で見ていた。放送と同時送信だ。正午すぎに、NHKはアメリカABCテレビの速報として、トランプ大統領の与党・共和党が上院で半数の議席を獲得することが確実となり、共和党が多数派を維持する見通しになったと日本のメディアとして最初に伝えた。放送より数十秒の遅れタイムラグだったが、ネット動画の画面や音声の質での問題はまったくなかった。12時35分ごろには、中間選挙以外の番組に切り替わったため、ネット配信も終了した。同時配信はPCかスマホさえあればリアルアイムで世界のニュースを視聴できる時代だとこのとき実感したものだ。
しかし、NHKが同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」を目指すのであれば、放送する番組をネットで流せるようになったというだけは物足りない。上記のアメリカ議会の中間選挙結果のネット配信も、放送と同時に終了ではなく、ネットはそのまま番組を続行してほしかった、というのが本音だ。視聴者の映像への欲望はもっとどん欲だ。2020年夏の東京オリンピックを想定してみる。体操の決勝が番組が流れていても、同時刻で水泳をやっていれば水泳を見たい人もいる、卓球を見たいという人もいる、多様な視聴ニーズ「視聴欲望」がある。
現状では、NHKも民放も「見逃し配信サービス」を行っていて、水泳も卓球も後ほど録画でネット配信します、となるだろう。今の視聴者は見逃したので後で見るという発想は薄い。視聴者は欲求は見たい番組を今見たいという欲求だ。これまでテレビの番組はマス(視聴者全体)へのアピールだけで事足りてきた。個人のニーズや欲求を満たすという発想はなかった。ところが、AIなどのイノベーションにより、インターネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング」がもはや普通になってきた。その消費者行動はシップス(SIPS)と称される。視聴者行動もまったく同じだ。Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)である。
NHKが本気で公共メディアを目指すのであれば、この視聴者のSIPSにどう応えていくかが問われるだろう。放送と同じ番組を同時配信だけならば、単なるネットでのタレ流しである。放送はマスであっても、ネットは個である。時代に対応した同時配信を期待したい。
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