自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

2021年09月04日 | ⇒ドキュメント回廊

   能登半島の尖端に位置する珠洲市で「奥能登国際芸術祭2020+」がきょう4日開幕し、さっそく鑑賞に出かけた。3年に一度のトリエンナーレで今回が2回目。当初は昨年の秋開催だったが、新型コロナウイルスの影響で1年間延期となっていた。16の国と地域から53組のアーティストが参加し、46ヵ所で作品が展示されているが、石川県には「まん延防止等重点措置」が適用されていて、屋内の作品を中心に25ヵ所が今月12日まで公開を見合わせとなっている。

       タイムカプセルに触れるような「劇場型民俗博物館」

   最初に足を運んだのは、「スズ・シアター・ミュージアム」。オープン時間が午前9時だと勘違いして並んだところ、実際は午前9時30分だったので、はからずも開会初日の一番乗りとなった。屋内での作品鑑賞ということで、検温など「コロナ検査」があり、さらに行動履歴が追跡できるリストバンドをして中に入る。

   このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだった。当時の文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去れたものが数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館としてオープンした。会場そのものも、日本海を見下ろす高台にある旧小学校の体育館を活用している。

   市内65世帯から1500点の民具を集め、8組のアーティストが「空間芸術」として展示している。会場に入ると、天井から紐が無数に垂れ下がっていた。地域の祭礼でかつて使われていた「奉灯キリコ」に古着を裂いて結びなおした1万本の紐を垂らして、あたかも森のような空間を創っている=写真・上=。その、奥能登の祭りの夜に、「ヨバレ」というおもてなしに使われた朱塗りの御膳などが並ぶ。地域の歴史や食文化を彷彿させる=写真・中=。「唐箕(とうみ)」が並んでいた。脱穀した籾からゴミを取り除く農具で昔の農村では一家に一台はあった。それを並べて陳列することで、農村の風景が蘇る。そのほか、1960年代の白黒テレビや家電製品も並ぶ。

   会場の中央アリーナには珠洲の古代の地層から掘り出された砂を敷き詰めた砂浜がしつらえられ、古びた木造船とピアノ、そして漁具が置かれている。そこに波の映像がかぶさる=写真・下=。シアターの時間が来ると、波が打ち寄せる波や風の音、そしてかつてこの地域に歌われていた民謡が流れて、会場の古い民具と響き合い、記憶の残照が浮き上がる。   

   珠洲は世界農業遺産に認定された美しく豊かな里山里海が広がり、その自然を背景に揚げ浜式製塩法や珠洲焼、ユネスコ無形文化遺産に登録されている農耕儀礼「あえのこと」、そして日本遺産「キリコ祭り」など伝統的な産業や文化が受け継がれている。「スズ・シアター・ミュージアム」では、まるで上質なタイムカプセルに触れるような心癒される風景に出会う。

⇒4日(土)夜・珠洲の天気    くもり


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