菅総理の印象について地味で忠実というイメージを持っている人が周囲に多い。かつてテレビ局に在籍した自身の目線で言えば、「テレビメディアに厳しい」というイメージがある。印象に残る事件がある。
2007年1月7日放送の関西テレビ番組『発掘!あるある大事典Ⅱ』の「納豆でヤセる黄金法則」について、週刊朝日が11項目のデータについて関西テレビに質問状を送ったのがきっかけで、捏造事件が発覚した。緊急記者会見を行った関テレの社長は当初、「納豆のダイエット効果の有無は学説で裏付けられている」として、「番組全体は捏造ではない」と主張したが、捏造データの多さを記者から追及されて「捏造」と認めた。高視聴率を誇った番組は中止となった。
その後、2月7日に関テレ社長は総務省近畿総合通信局を訪れ、捏造についてまとめた報告書を提出した。ところが、近畿総合通信局側は納得しなかった。疑惑が次々と出て、520回すべてを調査し報告するよう近畿総合通信局側は求めた。電波法では「総務相は無線局の適正な運用を確保するため必要があると認めるときには、免許人などに対し、無線局に関し報告を求めることができる」(81条)と記されている。そして、3月30日、総務省は総務大臣名の行政指導としては最も重い「警告」を行った。そのときの総務大臣が菅氏だった。テレビ業界を驚かせた言葉が、「今後、放送法違反が繰り返さた場合は電波停止もありうる」だった。
伏線があった。菅総務大臣は2月9日の国会審議で、再発防止に向けて放送法の改正が必要だと発言していた。テレビ局に捏造事件があり、テレビ局側が認めた場合、総務大臣はテレビ局に対して再発防止計画を要求する。再び繰り返された場合は停波・免許取り消しの行政処分を行うという内容だった。このとき、テレビ業界は戦々恐々としていた。日本民間放送連盟は(民放連)は自浄的な措置として4月19日付で関西テレビを除名処分にした。
この年の12月21日、放送法の改正案が参院本会議で可決・成立した。ただ、このときの改正案では菅氏が述べていた「再発防止計画の提出義務化」は削除されていた。その前の7月29日の参院選で与野党の勢力が逆転。今国会では番組等の不祥事については、あくまでも世論の批判とテレビ業界の自浄努力に委ねるべきであって、国家権力が安易に介入すべきではないとする野党の主張を与党がくみ入れ、この「再発防止計画の提出義務化」の改正案は見送っていた。菅氏も8月27日に総務大臣を退任していた。
NHKと民放の両者が共同でつくる「放送倫理・番組向上機構」(略称=BPO、放送倫理機構)に放送倫理検証委員会を設け、やらせや捏造が発覚した番組を外部委員にチェックしてもらい、問題があった局に再発防止策を提出させるという自主的な解決システムをつくっている。しかし、やらせや捏造は後を絶たない。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。
BPO人権委員会が、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けたことが自死の原因として、人格権の侵害を認定。さらに、それが裁判にも持ち込まれた場合、菅内閣はどう反応するだろうか。「再発防止計画の提出義務化」の法改正を改めて持ち出してくるのではないか。13年経ってもテレビが変らなければ、これしかない、と。
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