自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登半島地震 焦土と化した「能登のトト楽」朝市通り

2024年02月06日 | ⇒ドキュメント回廊

   「能登のトト楽」という言葉がある。妻がよく働くので夫が楽をするという意味で使われる。NHKの連続テレビ小説『まれ』(2015年)では、主人公の希(土屋太鳳)が輪島塗店の女将とケーキ店のパティシエの二つの仕事をこなしながら、双子の子育てもこなしていくという、頑張るお母さんの物語で、「能登のトト楽」をイメージした番組だった。実際には、輪島の朝市のおばさんたちや海女さんたちが頑張る能登の女性たちではないだろうか。メディア各社の報道によると、今回の地震で朝市通りの周辺の200棟が焼損し、10人の遺体が見つかっている。

   その火災の様子をNHK中継番組で視聴していた=写真・上=。なぜこんなに燃える広がるか少々疑問に思った。元旦だったので、消防士の人数が不足していて消火活動が十分にできないのかといぶかった。その後、消火栓が断水で使用できず火災が広がったと報じられていた。そのときも、それなら朝市通りは海岸に近いので海の水をポンプでくみ上げて消火に使えばよかったのではと、またいぶかった。ところが、津波警報が出ていて、海に近づくことすらできなかったとことも後で理解した。さらに、朝市通りの近くを流れる河原田川も地震による地盤の隆起で当時は干し上がった状態になっていたようだ(2月1日付・NHKWeb特集)。

   いろいろな悪条件が重なって焦土と化した朝市通り周辺に行った(今月5日)=写真・下=。1ヵ月以上経ってはいるものの、焼けごげた臭いがした。トラロープの結界を超えて、朝市通りに入ると懐かしさもこみ上げてきた。おばさんたちの「買うてくだぁー」「買うてくだぁー」の呼び声があちらこちらから響いてくるようだ。海の幸と山の幸の物々交換がルーツとされ、千年の歴史を有する輪島朝市。確かここには蒸しアワビを売るおばさんのテントの店があった。1個1万2千円の「蒸しアワビ」(120㌘)を思い切って買った、6年前のことを思い出した。

   朝市通りの露店の場所は母親から嫁、娘へと代々受け継がれている。なかなか商売上手だ。別の店で1個700円のカラスミ(ボラの卵巣の塩漬け)を「2個ください」と言うと、おばあさんが「3個でおまけ」と差し出したので手に取ると、すかさず「100円おまけで2000円」と請求された。2個買ったので1個はおまけだと受け取ったのに、「100円まけるから3個買って」という意味だった。かなり高齢に見えたが、言葉の手練手管には舌を巻いて買ってしまった。

   朝市のおばさんたちから「亭主の一人や二人養えないようでは、一人前の女ではない」や「亭主の一人や二人養えない女は甲斐性なし」と聞いたことがある。冒頭の「能登のトト楽」を地で行く女たちではある。その活躍の場が消失したと思うと胸が痛む。

⇒6日(火)午後・金沢の天気   くもり時々あめ


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