能登半島地震で休業していた奥能登の山あいのそば屋が4ゕ月ぶりにそばを打つとの知らせをもらったので、ゴールデンウィーク初日のきょう車を走らせた。営業を再開したのは、能登町当目にある「夢一輪館」。元日の地震で山の中の一軒家の屋根瓦や柱、内壁などが損傷して休業を余儀なくされていた。
きょう午前11時の開店時間に店に入ると、店主の高市範幸さんがそばをこねていた=写真・上=。しばらく様子を見学させてもらう。慣れた手つきで薄くのばしたあと、包丁で細く切る。ニ八そば。そば打ちを再開できた充実感なのだろうか、喜びなのだろうか、本人の表情が終始にこやかだった。
「天板盛り蕎麦と天婦羅」を注文する。周囲を見ると、いつの間にか常連客らしき人たちが6人座っていた。「夢一輪館のそば、久しぶりに食べにきました」と店主に手を降っている若いカップルもいた。アテ(能登ヒバ)の葉に乗せたそば、そして山菜など盛り合せの天ぷらが並んだ=写真・下=。自身も久しぶりに高市さんのそばをいただく。そばは硬めの細切りで、つゆは自家製の焼きアゴと薄めの醤油を使っていて、あっさりしている。そばをかみ締めると風味が口の中に広がる。いつもながらのうまいそばだ。
隣の席の若いカップルの前にはこの店の名物でもある「まるごと能登牛丼」が並んでいた。そばと牛鍋がセットになっている。希少価値の高い能登和牛の上級ロース肉を自分の好きな煮加減で味わえる。知る人ぞ知る「ぜいたくメニュー」でもある。
「そば屋がなぜ能登牛を」と思う人もいるだろう。これは夢一輪館だからこそ提供できるメニューかもしれない。高市さんは山中でそばを打ち、能登に根差したネットワークを広げている。能登牛のほかにも、豆腐の燻製を「畑のチーズ」の商品名で通販をするほか、自ら考案したブルーベリーワインや魚しょう油「牡蠣(かき)いしり」などオリジナル商品を開発してきた。高市さんはもともと地域振興を担当する役場の職員だった。地域を元気にしたいと43歳で職を辞してこの世界に飛び込んだ。もう29年になる。
高市さんが震災直後に店舗に入ると冷蔵庫などの設備も壊れていて、「わやくそ(能登の方言:めちゃくちゃ)になった」と一時は店を閉めることを考えた。客からの励ましの声に背中を押され、復旧を手伝ってくれる人も増えた。そして4ゕ月ぶりに営業の再開にこぎつけた。高市さんは「能登のためにあと10年はがんばります。そばを食べにまた来てくだ」と。地域を元気にするその志(こころざし)に自身も励まされた気持ちになった。
⇒27日(土)夜・金沢の天気 くもり
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