このブログでもよく使う「里山」という言葉はすでに国際用語になっていると周囲で話すと、驚く人が多い。「なんで里山が」「どういうこと」と。その事例として出すのが、国連大学サステイナビリティ高等研究所が事務局となっている、「SATOYAMA イニシアティブ国際パートナーシップ」(IPSI)という国際組織だ。2010年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD/COP10)で採択された「Satoyama Initiative」の推進母体となっている。
SATOYAMAイニシアティブは生態系を守りながら農林業や漁業の営みを続ける「持続可能な利用」という概念であり、生物多様性の戦略目標とする国際的な取り組み。SATOYAMAイニシアティブがCOP10で採択されたのには伏線があった。2008年5月にCOP9がドイツのボンで開催され、日本の環境省と国連大学が主催したサイドイベント「日本の里山・里海における生物多様性」で、当時の黒田大三郎環境省審議官が「SATOYAMAイニシアティブ」を提唱した。
これに、CBD事務局長のアフメド・ジョグラフ氏が共感し、「成長を続け現代的な社会を形成した日本は文化や伝統、そして自然との関係を保ってきた。そのコンセプトは世界で有効であり、日本の経験に大きな期待が集まっている」と支援を表明した。そのジョグラフ氏は4ヵ月後、名古屋市で開催された第16回アジア太平洋環境会議(エコアジア)出席の後、能登半島を訪れ、輪島市の千枚田や地域の人たちの森林保全の取り組み、休耕田を活用したビオトープでの環境教育など日本のSATOYAMAの現場をつぶさに見学した=写真・上=。
じつはそれ以前にもSATOYAMAは海外で紹介されていた。イギリスBBCがNHKのドキュメンタリー番組『映像詩 里山』を動物学者で番組プロデューサーのD・アッテンボロー氏のナレーションで吹き替えて、番組『SATOYAMA』として放送し、これが欧米で反響を呼んだ。1999年のことだ。こうしたいくつかの伏線があって、COP10で「SATOYAMAイニシアティブ」が採択された。COP10の参加者は「SATOYAMAエクスカーション」公認コースとなった能登半島を訪れている。
このSATOYAMAをさらに国際用語へと押し上げたのは能登と佐渡だった。国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)が認定する世界農業遺産(GIAHS)への2011年申請に、能登の8市町は共同して「Noto's Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」を、そして、佐渡市は「SADO's Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis(トキと共生する佐渡の里山)」を提出した。双方とも申請タイトルに「Satoyama」を冠した。2011年6月、北京でGIAHS国際フォーラムが開催され、日本で初めてこの2件がGIAHSに認定された=写真・下=。「Satoyama Initiative」の採択と連動する相乗効果でもある。
自身はCOP9、そしてCOP10、北京でのGIAHS国際フォーラムに実際に参加して、「Satoyama」「SATOYAMA」の言葉が持つ深みや重み、可能性というものを感じてきた。生物多様性や世界農業遺産の国際評価のキーワードでもある。そして、SDGsとの親和性も高い。COP10から11年、GIAHS国際フォーラムから10年、「里山」の言葉の価値をふと振り返ってみた。
⇒4日(月)午後・金沢の天気 はれ
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