月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法(2)
本書は四季報大好きで、文系らしく定性的な評価を中心に銘柄選定をしているところ、終章で株式投資を
趣味にすることをすすめているところなど、私自身の行動や発想(四季報は風呂で通読したりしているし、
合理的なインデックス・ファンド投資よりも個別銘柄投資を好むこと)と似ているところがあり、
そういった点については大いに共感するところがあります。
ただ、下記の点で疑問、あるいは反対の見解、スタンスを持っており、それについては不満、あるいは
不適切であると思いました。
まず、身近な様々な事柄に銘柄選びのヒントがあるという点。「ヒントがある」ということについては、それはそうでしょう。
この視点、発想は以前からあり、例えばピーター・リンチの「株で勝つ」の中でも書かれていることと
共通します。私自身は、投資をはじめた初期の頃にこの本を読んで、素人の個人投資家でもプロの投資家より
も優れたパフォーマンスをあげることができるのだということで、とても励まされたおぼえがあります。
確かにこのような身近な様々な出来事をヒントとして銘柄を選択し、それで成功するということはありえます。
というのは、目の前のリアルタイムの出来事は、確定した数字としての企業業績にはまだ反映されておらず、
それが反映されるにはタイムラグが生じるからということが、一つの理由かと思います。
ただ、個人投資家は目の前の出来事を正確に、あるいは大きく間違うことなく判断する力がいつもあるとは限りません。
目の前で気がついた、「発見」した出来事、状況は、企業業績という意味ではほとんど影響がないことかもしれません。
逆にそんなことは周知のことで、既に株価に織り込まれていることかもしれません。
それはこの場所だけのことで、他のところではそんなことは起こっていないことかもしれません。
つまりは、それでうまくいくこともあれば、うまくいかないこともある、その程度のことだということで、
もしその身近なことをヒントにし株式投資に生かすというのであれば、リスク面も含めてその方法をより深めて示すのが
適当だと思いますが、本書にはうまくいった個別の事例が列挙してあるだけで、一般化できるようなノウハウ、失敗し
ない方法、留意点などは十分には示されていません。
これは本書に限らず、「株で勝つ」でも同様ですが、あまりにこの方法論をうのみにするのは大きく間違う可能性が
あるという意味で危険です。
ここはまだいいのですが、まったく見解が違うのが、暴落時の対応です。
本書では、暴落時にはとりあえず売るということをすすめています。そうすればさらなる下落による損失を回避できるという
わけです。が、当然これは暴落後に売られるわけで、損失は被ります。なにもしないのはだめとも書いています。
さて、暴落時に売ってしまって、さらに下落した時にきちんと買い戻すということができるのでしょうか。
通常、最初からそのような強い決意をしておかないとさらに下落したところで買い戻すことはなかなか難しいでしょう。
多くの場合、大暴落のあと、どれぐらいの期間が必要かは様々ですが、急反騰する場面があります。
そうした時にポジジョンを持ち市場にどどまっていなければ、その恩恵を受けることはできません。
なので、自分の都合でこれ以上の損失にはどうしても耐えられない、資産を保全する必要があるということなら、
それは暴落時に売却せざるをえないでしょうけれど、まあ、暴落があっても、少なくともポジジョンは維持する、
逆に日頃から暴落があれば買いを検討する銘柄というのを整理しておき、暴落時には少しずつ買い向かうぐらいの
スタンスが中長期では報われる可能性が高い、というか、私自身はそのようなスタンスをとります。
逆に言えば、株式投資は暴落時に売らなくてもいい程度、買い向かえる程度のポジジョンで取り組むのがいいとも言えます。
ですから、暴落時に売るというのは、間違いとは言い切れないとしても、少なくとも私自身のスタンス、発想とは相容れない
ものです。
全体として、本書では分散、分割という視点が薄いです。買った、売ったで儲かればいいというような発想が強すぎる印象があります。
銘柄を分散したポートフォリオ運用、また、資金の投入を分割することによるリスクの低下などは、さわりしか書いていないテクニカル
分析とやらよりもずっと重要であると私は思いますが、その記述は薄いです。
本書は、全体として文章が平易でとても読みやすいです。それはとてもよいし、読み物としては楽しいところもあるのですが、
株式投資の経験がない人は、かなり楽観的すぎる本書の記述全体をあまりそのまま信用しない方がよいとも思われます。