
浅田次郎の3部作。蒼穹の昴、珍妃の井戸、とこの作品によって構成される。
中国清朝末期の宮廷を描いた、これらの作品はそれぞれ趣が違う。地方の貧しい
家の男が、科挙の試験を通りぬけ、或いは宦官の道からトップに上り詰め、西太
后の傍まで行く物語。西太后と光緒帝の確執、李鴻章、袁世凱など、私達が中国
史で少しは耳にした人物も登場する。珍妃の井戸は光緒帝の后が政変で井戸に投
ぜられたがその犯人は誰だ、ということを、関係者の口述という形で、様々な可
能性を追求する。
この中原の虹は張作霖、張学良を中心に、満州族(女真族)と漢民族との争いを
描く。このころから台頭し始めた日本も登場してくる。
蒼穹の昴でも書いたが、浅田次郎の筆使いは、司馬遼太郎のように全体を俯瞰し、
歴史の流れを十分把握した上で、そこからの必然として登場人物の行動を描くも
のではない。個人の心情、駆け引き、立場から生まれる行動、民族の特性、など
からかなりの創作が行われるが、ストーリーテラーの才能は抜群で、読むものを
飽かせない。
歴史上の人物が躍動してくる。
お陰で当分は退屈をしない。