「霧の果て」神谷玄次郎捕物控 文春文庫 藤沢周平著
藤沢周平にしては珍しく、捕物帳仕立てである。
下級武士や、市塵のように儒学者の矜持を描かせれば天下一品の著者が、エンターテイメントに徹した、こういう物語を手がけるのは意外である。
さりながら、やはり格調は低くない。主人公の北町同心・神谷玄次郎は、自堕落な勤務を続けているものだが、一旦これと目を付けた事件には、見違えるように探査に打ち込み、解決に導く。
他によく読む池波正太郎や佐伯泰英もこういう仕立ての物語を書いているが、やはりこの著者の語り口には、格調や哲学を感じさせる。
雪のふる中で、読んだ楽しめる一冊だった。