西可奈子「ふくわらい」朝日文庫 2015年刊
テヘラン生まれで関西大学法学部卒業、直木賞受賞作家の作品はかなりエンターテイメント色の強いものかと、期待していたのだが良い意味で期待を外された。主人公の鳴木戸定(マル・キド・サドをもじったもの)は風変わりな父親と愛情一杯だが病弱な母親に育てられる。
この父親の設定がかなりユニークで、異質である。この主人公の感覚が無機質でストレートである。何か発展途上の人工知能のようなもので、人間の情愛や恥じらいを拒否する異次元の世界を構築する。
なんというか、そんな世界の人間を描きながら、何故か引っ張られる自分が居り、今までの常識は何だったのだろうかと問い直させる。異次元の人間になんとなく理解を覚える自分が不思議である。
登場人物もかなり極端な人間が多いのだが、それらがカオスとなって「生きる」ことについて問いかけてくる小説である。問題提起の一冊。