梶山三郎「トヨトミの野望」講談社 2016年刊
筆者は経済記者、覆面作家を名乗り、トヨトミを名乗りながらトヨタの社長交代劇を綴る。概ね我々が耳にしてきた風評を一歩踏み込んで書いているところは経済記者を名乗るところだけはある。
だが小説家としては、池井戸潤、有川浩、原宏一などのストーリーテラーには及ばず、事実関係を整理して書いているという感じで、人間心理の葛藤などに踏み込んではいない。「野望」と言う割には、豊田家の欲望が描かれてていないし、むしろ奥田社長中心にトヨタが回っている様子がみえる。現実に彼が脱豊田家を目指したかどうかは知らないが、その後の顛末を見ると、さもありなんと思えてくる。
とは言え、百田尚樹の「海賊と呼ばれた男」のような露骨なヨイショ小説ではない。そこは記者出身だけあって極力客観的な描写を心がけているようである。私が見聞きした範囲の生身の豊田家の哲学は。もう少し長期スパンで物を考え、滅私奉公、大家族主義が支配していたようなきがする。
やはり登場する新聞記者が活躍する場面は別として、経営トップ層の場面はややエグいように感ぜられるが、実際にはどんなだったろうという興味は湧く。