オリンパス・ペンE-P1のデザインについて考える

 オリンパス「ペン」シリーズはご存知の通り1コマの撮影に35mmフィルムの縦半分を使う「ハーフサイズ」。36枚撮りフィルムなら72コマ撮影出来る便利なカメラである。最初の「ペン」が登場した1959年当時はまだフィルムが高価であったために同じフィルムで倍の枚数が撮れる「ペン」は、そのコンパクトなボディとリーズナブルな価格もあって大成功を収めた。

注:1959年当時は白黒が主流であったが、1960年後半以降カラーが一般的になると共に、ハーフサイズによる画質低下がクローズアップされ、やがてハーフサイズカメラは姿を消すことになる。

 オリンパスはペンE-P1の発売に際し、古くはあるが、オリンパスにとっての最大の遺産である「ペン」を全面に押し出し、そのフィロソフィーをE-P1のコンセプトにまで昇華させている。ただ、そのコンセプトモデルが1959年に登場したオリジナル「ペン」なのか、その4年後に登場した世界でただ一台のハーフサイズ一眼レフかめらである「F」なのかと云う疑問が生じることにもなるわけだが、ボディサイズの点から云ってもレンズ交換が可能なことから云っても、それは勿論「F」である。

 確かにE-P1とペンFを比較するとボディサイズも近く、双方ともペンタプリズムを持たないことから軍艦部(カメラ本体の上面のこと)がフラットなこと、ボディサイズに比しレンズマウント開口部が大きく見えることなど、確かに類似点が多い。ただし、郷秋<Gauche>としてはオリンパスが「伝統のブランド“OLYMPUS PEN”の名にふさわしい『上質な外観デザイン』」としていることに対しては異議を申し立てたい。

 オリジナル「ペン」のデザインはシンプルでオリジナリティに溢れているとは云えても、もともと廉価なカメラであり決して「上質」ではない。とは云え、ペンFが一眼レフであるにも関わらずフラットな軍艦部を持ちながら単純な形状にはせず、あえて立体的なラインを入れて豊かな表情を持たせたことがデザイン上の特長の一つともなっていることも事実。E-P1においても軍艦部にわずかな「段差」を作ることでペンFのイメージを巧みに織り込んでいるのである。

 ペンFのデザインモチーフを現代的に解釈し、そのアイデンティティをE-P1に持ち込んだオリンパスのデザイン陣の作戦は実に見事に成功していると云えよう。古くて新しいペンのデザインコンセプトをさり気なく、そして破綻無くE-P1上で再現できている。

 郷秋<Gauche>はこれを見てキリンビールのラベルにある麒麟の絵を思いだした。郷秋<Gauche>は常々キリンビールの最も偉大な財産はあの麒麟の絵であると思っていた。時代と共に微妙に変化させながらもその時代相応しい麒麟が必ず登場するキリンビールのパッケージは常に古くて新しい、他のメーカーには真似のできないキリンの財産である。

 オリンパスにおけるペンFのデザインコンセプトは、脈々と受け継がれてきたとは云えないところもあるが、それでも50年近い歳月を経てなおそのコンセプトを現代に蘇らせたオリンパスの手腕は大いに評価されるべきである。

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 今日の一枚は、郷秋<Gauche>の手元にある唯一のペン、FTである。FTはFにTTL露出計を組み込んだモデルである。露出計と共にセルフタイマーが導入されたのは実践的で当時は大いに歓迎されたことと思うが、同時にお洒落な「F」のレタリングが消えてしまったのは残念である。
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