居間に座って話を聞いていると、何やら下の方から「ゴロゴロ、ゴロゴロ」と音がする。お腹の調子が悪いわけでもないのに、ちょうど腹が鳴る時の音のようで、“これは具合が悪いな。あとでトイレに行ってみよう”と思っていた。
しかし、木下晋さんの話があんまり面白いので、とても席を立つどころではないのだった。そのうちまたしても「ゴロゴロ」、しまいには「グーッ」と腸の中でガスが上がるような音までする。“変だなあ”と思っていたら、いきなりテーブルの下から巨大なネコが出現した。
お腹の音ではなかったのだ。このネコ、「トラ吉」といって、木下さんの愛猫なのだ。木下さんの絵のモデルにもなっている。木下さんはこのところ「短詩形文学」という短歌の月刊誌の表紙に毎号、「トラ吉」の鉛筆画を寄せている。
「トラ吉」のヒゲはもちろん、毛の一本一本までが実に丹念に鉛筆で描かれていて、まるで生きているようだ。木下さんらしく、絵の方の「トラ吉」は本物の「トラ吉」よりちょっと“怖い”。特に、眼と牙が“怖い”。木下さんの絵は、何を描いても“怖い”が、それでも「トラ吉」の絵は“ちょっと怖い”くらいで、他の作品とは違う。
「トラ吉」を描く時、木下さんは少し息を抜いているのだろうと思う。老人の皺や、癩病者の眼に見られる途方もない緊張感はそこにはない。見る方も、少し息を抜ける“ちょっと怖い”が素敵な絵だ。
来年の前半に、越後タイムス社主催で、柏崎初の「木下晋展」を開催することが内定した。十一月一日には、木下さんが柏崎に来られるので、その時会場を見ていただいたりして、正式に決定することになる。「トラ吉」の絵も紹介できるといいなと思っている。
しかし、木下晋さんの話があんまり面白いので、とても席を立つどころではないのだった。そのうちまたしても「ゴロゴロ」、しまいには「グーッ」と腸の中でガスが上がるような音までする。“変だなあ”と思っていたら、いきなりテーブルの下から巨大なネコが出現した。
お腹の音ではなかったのだ。このネコ、「トラ吉」といって、木下さんの愛猫なのだ。木下さんの絵のモデルにもなっている。木下さんはこのところ「短詩形文学」という短歌の月刊誌の表紙に毎号、「トラ吉」の鉛筆画を寄せている。
「トラ吉」のヒゲはもちろん、毛の一本一本までが実に丹念に鉛筆で描かれていて、まるで生きているようだ。木下さんらしく、絵の方の「トラ吉」は本物の「トラ吉」よりちょっと“怖い”。特に、眼と牙が“怖い”。木下さんの絵は、何を描いても“怖い”が、それでも「トラ吉」の絵は“ちょっと怖い”くらいで、他の作品とは違う。
「トラ吉」を描く時、木下さんは少し息を抜いているのだろうと思う。老人の皺や、癩病者の眼に見られる途方もない緊張感はそこにはない。見る方も、少し息を抜ける“ちょっと怖い”が素敵な絵だ。
来年の前半に、越後タイムス社主催で、柏崎初の「木下晋展」を開催することが内定した。十一月一日には、木下さんが柏崎に来られるので、その時会場を見ていただいたりして、正式に決定することになる。「トラ吉」の絵も紹介できるといいなと思っている。
(越後タイムス10月26日「週末点描」より)