玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

大新聞の傲岸

2013年02月06日 | 日記
 日本新聞協会は十五日、新聞や書籍、雑誌に消費税の軽減税率の適用を求める声明を発表した。声明の言うところによると、新聞は「民主主義社会の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与して」いるから、消費税を上げると活字離れが一段と進み、国民のリテラシー(読み書き能力)が低下して、「民主主義と文化の健全な発展」が阻害されるというのである。
 大層なものの言い方である。こういう、いわゆる上から目線というか尊大さは大新聞に特有のもので、決して好きになれるものではない。本当の理由が何なのか誰でも知っている。
 声明はヨーロッパ各国では「一定の要件を備えた新聞、書籍雑誌に、ゼロ税率や軽減税率を適用し」ていることを強調し、日本もそれにならうべきだと言うが、この“一定の条件”というのが問題である。民主主義や文化の発展に寄与する新聞、書籍と、そうではないものを区別しようというのだろうか。差別につながりかねないではないか。
 それにしても、ヨーロッパの消費税率は、ものすごく高い。福祉国家といわれる北欧のデンマーク、スウェーデン、ノルウェーでは二五%、他の国でも二○%以上がざらにある。スイスの八%は例外にしかすぎない。
 もし、新聞協会が、“日本もヨーロッパの例にならえ”と言うのなら、日本もものすごく高い消費税率を導入しなければならないことになる。軽減税率の対象が増えれば、どうしても標準税率を高くしなければならないからだ。
 食料品など生活必需品の税率軽減は“食う”ために必要だと思うが、八%~一○%程度なら、“知識”にも課税するのもやむを得ない。

越後タイムス1月25日「週末点描」より)


よく着陸するもんだ

2013年02月06日 | 日記
 荒れ模様の正月だった。元旦、娘夫婦が札幌から飛行機で来るというので、新潟空港まで迎えに出た。バスと電車乗り継ぎでは、あまりにも時間がかかってしまう。新潟空港は遠い。
 しかし、朝から雪が降り続いていた。千歳空港は問題ないようだが、新潟空港は大丈夫だろうか。電話で「飛んでも、引き返すか、羽田に着陸となる可能性がある」との連絡が入った。どうしようか。まあ、行けるだけ行ってみよう。ダメなら途中で引き返そうと思い車を走らせた。
 長岡から三条間で雪は激しく降っていた。高速道路上ではスリップして立ち往生したり中央分離帯に突っ込んだりしている車がいくつもあった。「下手な運転だな」と思った。ゆっくり走れば問題はない。とにかくゆっくり。
 三条を過ぎると雪は小降りとなり、明るい展望が開けた。「これなら大丈夫」と思ったが、新潟西ICあたりから、また雪が激しくなってくる。空港周辺では雪がボサボサ。
 しかし、大雪の中飛行機は無事着陸して、娘夫婦は到着ロビーに姿を見せた。「よくこんな雪で着陸できるもんだ」と正直思った。

越後タイムス1月10日「週末点描」より)


巳年に期待

2013年02月06日 | 日記
 今年は巳年である。ヘビというと、今号にも寄稿をいただいた中野完二さんの詩を思い出す。中野さんは、しつこいほどに一貫してヘビの詩を書き続けている詩人で、年末に送られてきた同人誌「飛火」にも三編のヘビにまつわる詩が掲載されている。
「ペテン」という作品があって、聖書ではヘブライ語で「ペテン」はエジプトコブラ、ツノクサリヘビなどの毒ヘビを言うのだという。また、聖書では、イヴに禁断の木の実を食べさせたのがヘビで、それ以来、ヘビは悪の象徴として人間に忌み嫌われているのである。“蛇蝎のように嫌う”という言葉さえある。
 中野さんはそんな嫌われ者のヘビを一貫して擁護してきた。「ペテン」という詩でも、「ヒトは都合の悪いことは/へびに悪の役柄を押しつけて/善人を演じているのではないか/ペテン師だ/とへびはヒトのことを思っているのではないか」と書いている。
 ヘビとヒトの役割を逆転させることで、中野さんはヘビ達のことを救い続けてきた。ヘビは中野さんの詩の中で、人間のような邪気や悪意を持たない“自然”そのものの役割を演じている。中野さんはヘビが人間の嫌悪の情から解放されることを夢見ているのである。
 ところで、ヘビは子供の頃から最も嫌いな動物だった。叢に潜んでいたヘビを思いもかけずに掴んでしまったことがあるが、気を失いそうなほど気持ち悪かった。しかし年をとるにつれて、どういうわけか嫌悪の気持ちは薄らいできている。ヘビを見る眼は中野さんのように優しいものに変わりつつある。
 あれほど嫌われているヘビなのに、お金のことにまつわることとなると、一転してありがたがられるのはなぜなのだろう。人間の身勝手さをよく示している。しかし、とりあえず、景気の回復を祈って、巳年に期待することにしよう。

越後タイムス1月1日「週末点描」より)