「文楽の会」でドストエフスキーの『罪と罰』を読んだ。文庫本で三巻、総ページ数は千二百ページもあるので、ボリューム的にも読むのが大変である。その上、ロシアの小説の読みづらさには定評がある。登場人物の名前が複雑で、誰が誰だか分からなくなってしまう。『罪と罰』だと、主人公のフルネームは“ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ”で、真ん中の“ロマーヌイチ”というのは父親の名前を示す“父称”だ。
ロジオンの妹の方は、“アヴドーチャ・ロマーノヴナ・ラスコーリニコフ”で、父称も男の子と女の子で変わる。さらに“愛称”というものがあり、ロジオンは“ロージャ”と呼ばれ、妹のアヴドーチャは“ドーニャ”と呼ばれることがある。
かと思うと、かしこまった場面では“ロジオン・ロマーヌイチ”とか呼ばれるし、この小説のもう一人の重要な登場人物・ソーニャは“ソフィヤ・セミョーノヴナ”と呼ばれたり、“ソーネチカ”と呼ばれたりするので、訳が分からなくなる。
それでも亀山郁夫先生訳の『カラマーゾフの兄弟』はベストセラーを続けている。そんな読みづらさを超えた面白さがあるからだ。ドストエフスキーの復権はとてもうれしいことだ。
ところで、十年ほど前に、ロシアのサーカス団団長の息子・アレクサンドル君が我が家にホームステイした時のことを思い出す。アレクサンドル君はとてつもない偏食で、パンと肉とキュウリしか食べないのだ。魚は一切口にしないし、ごはんも食べなかった。ロシア人というのは、いったい普段何を食べているのかと思ってしまった。
そのアレクサンドル君の愛称は“アリョーシャ”というので、『カラマーゾフの兄弟』の主人公・アレクセイ・カラマーゾフと一緒だった。そんなことよりも、一緒に散歩に出た時に、近くにある豪邸を指差して“Is your house like this?”と聞いたら、アリョーシャは“Yes”と屈託もなく答えた。ロシアではサーカス団団長はエリート階級に属しているのだとその時思い、“この野郎”と思って、それ以降、アリョーシャに冷たくあたることにした。
ロジオンの妹の方は、“アヴドーチャ・ロマーノヴナ・ラスコーリニコフ”で、父称も男の子と女の子で変わる。さらに“愛称”というものがあり、ロジオンは“ロージャ”と呼ばれ、妹のアヴドーチャは“ドーニャ”と呼ばれることがある。
かと思うと、かしこまった場面では“ロジオン・ロマーヌイチ”とか呼ばれるし、この小説のもう一人の重要な登場人物・ソーニャは“ソフィヤ・セミョーノヴナ”と呼ばれたり、“ソーネチカ”と呼ばれたりするので、訳が分からなくなる。
それでも亀山郁夫先生訳の『カラマーゾフの兄弟』はベストセラーを続けている。そんな読みづらさを超えた面白さがあるからだ。ドストエフスキーの復権はとてもうれしいことだ。
ところで、十年ほど前に、ロシアのサーカス団団長の息子・アレクサンドル君が我が家にホームステイした時のことを思い出す。アレクサンドル君はとてつもない偏食で、パンと肉とキュウリしか食べないのだ。魚は一切口にしないし、ごはんも食べなかった。ロシア人というのは、いったい普段何を食べているのかと思ってしまった。
そのアレクサンドル君の愛称は“アリョーシャ”というので、『カラマーゾフの兄弟』の主人公・アレクセイ・カラマーゾフと一緒だった。そんなことよりも、一緒に散歩に出た時に、近くにある豪邸を指差して“Is your house like this?”と聞いたら、アリョーシャは“Yes”と屈託もなく答えた。ロシアではサーカス団団長はエリート階級に属しているのだとその時思い、“この野郎”と思って、それ以降、アリョーシャに冷たくあたることにした。
(越後タイムス7月25日「週末点描」より)