遅くなりましたが、「北方文学」74号が発行になりましたので、ご紹介したいと思います。12月10日に出来たのですが、13日に入院して27日に退院しましたので、それまで作業が出来ませんでした。お詫び申し上げます。
今号は200頁強。いつもより薄いのですが、内容は充実していると思います。今号は小生も病気入院のためお休みですが、他にもお休みの人が多くてこういう結果になりました。
巻頭を飾っているのはジェフリー・アングルスさんの「あやふやな雲梯」という詩作品です。カントの美学(もとはエドマンド・バークの美学)に触発されて書いたもので、核兵器をテーマとしています。平和主義的な観点からではなく、美学の観点から核兵器の崇高について思考をめぐらし、自らを「あやふやな雲梯」と呼んでいます。恐ろしい作品です。
ジェフリーさんは65号の「現代詩特集」に登場願いましたが、これからもご寄稿下さると思います。ジェフリーさんについては以下のHPでお調べ下さい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Angles
詩作品が続いて次は館路子の「洪水の記憶に、私はまたも」。このところ災害詩人と呼ばれて、天災をテーマに書き続けている館さんですが、この作品も台風による水害をテーマにしています。「またも」というのは、平成16年の三条市7・13水害をテーマに書いたことがあるからです。
霜田文子さんは今年8月に訪れたスペインについて、ガウディを中心にまとめました。ガウディといえば、我々はサグラダ・ファミリア教会くらいしか知りませんが、他にもたくさんあって貴重な観光資源となっているらしい。サグラダ・ファミリアの良さはその未完の美学にこそあるというのですが……。
北園克衛の戦中の作品について論じた、「「郷土詩」は北園克衛にとって何であったか」は、相模原市で詩誌「回游」を主宰する南川隆雄さんの寄稿です。詩人としての長い実績を積み重ねてきた南川さんは、戦後詩史の探求者でもあります。
大井邦雄の「優秀な劇作家から偉大な劇作家へ(3)」は、ハーリー・グランヴィル=バーカーが1925年に英国学術院で行った講演「『ヘンリー五世』から『ハムレット』へ」のうち、四つの項目を取り上げ、膨大な注を施して訳述したものです。今号では初めて〝訳述〟という行為についての自注を付して、大井さんが何を追究しているのかが理解出来ます。
小説2編。対照的な2編といえます。一方は熟練の境地を示し、もう一方は若々しい感性を伝えているからです。新村苑子さんの「蜜の味」は主人公キクエの夢を効果的に使って、読むものを唸らせます。小説のつくりのうまさをこのところ見せてきた新村さんですが、まだまだ引き出しがいっぱいあることを窺わせます。恐るべき80歳です。
新しい同人となった魚家明子さんの「眠りの森の子供たち」は大長編で、4回の連載となる予定です。全体的にはファンタジーと言えるかも。幻想的な要素がたくさんありますが、すべては子供たちの心の内部に関わっています。
以下に目次を掲げさせて頂きます。
あやふやな雲梯◆ジェフリー・アングルス
洪水の記憶に、私はまたも◆館 路子
未完の夢、あるいは欠損の美
――アントニ・ガウディに寄せて――◆霜田文子
「郷土詩」は北園克衛にとって何であったか◆南川隆雄
優秀な劇作家から偉大な劇作家へ(3)
――シェイクスピアの一大転換点のありかはどこか――
◆ハーリー・グランヴィル=バーカー、大井邦雄訳述
新潟県戦後50年詩史(8)
――隣人としての詩人たち――◆鈴木良一
蜜の味◆新村苑子
眠りの森の子供たち(1)◆魚家明子
一部送料込みで1,500円です。ご注文は玄文社までメールでお申し付けください。
genbun@tulip.ocn.ne.jp