学生時代、帰省のために、特急トキ号(まだ新幹線のない時代)に乗り、電車の揺れに身を任せていた時、突然車内放送が流れ「皆さん、初雪が降り出しました。窓の外をごらんください」と興奮気味に言うのだった。
なぜ車掌が興奮したのかというと、たしかトンネルを越え、越後湯沢を過ぎた頃だったと思うが、紅葉真っ盛りの山々に、白砂糖のような初雪が降ってきたからだった。あまりに、絵に描いたような美しさだったので、車掌も興奮したのだったらしい。電車はその間、サービスでわざとスピードを落としてくれたので、じっくりと“紅葉に初雪”の美しさを堪能した。新幹線の時代ではあり得ないことで、今でもその時のことを忘れない。
のっぴきならない用事で、連休に前橋まで車で行かなければならないことになった。秋の長雨が続いたあとの快晴の朝だった。高速道路で塩沢に近づくと、山の麓から水蒸気が上がっている。幽玄の美しさである。田んぼが見えてくる。すると、田んぼの一枚一枚から、湯気が立っているのが見えるのだった。初めて見る光景だった。大地が“息をしている”ようだった。
車は塩沢を過ぎ、越後湯沢に近づいていく。手前に低い山、その奥にやや高い山、そのまた奥に谷川連峰が三層をなして視界に入る。手前の低い山では、まだ赤や黄色の紅葉が残っている。特にカラマツの金色の黄葉が美しい。しかし、その奥の山では、すっかり葉を落としたブナの木の枝々を樹氷のような白い雪が覆っていて、言葉にならないほど美しい。
そして、その視界の向こうには、雪を戴いた峻厳たる谷川連峰が拡がっている。三つの違った美しさを一望にすることができて、大満足だった。一般道を走れば、もっとゆっくり楽しめるのにと思ったが、急用がある。トンネルを抜けると、そこには“現実”が待っていた。
なぜ車掌が興奮したのかというと、たしかトンネルを越え、越後湯沢を過ぎた頃だったと思うが、紅葉真っ盛りの山々に、白砂糖のような初雪が降ってきたからだった。あまりに、絵に描いたような美しさだったので、車掌も興奮したのだったらしい。電車はその間、サービスでわざとスピードを落としてくれたので、じっくりと“紅葉に初雪”の美しさを堪能した。新幹線の時代ではあり得ないことで、今でもその時のことを忘れない。
のっぴきならない用事で、連休に前橋まで車で行かなければならないことになった。秋の長雨が続いたあとの快晴の朝だった。高速道路で塩沢に近づくと、山の麓から水蒸気が上がっている。幽玄の美しさである。田んぼが見えてくる。すると、田んぼの一枚一枚から、湯気が立っているのが見えるのだった。初めて見る光景だった。大地が“息をしている”ようだった。
車は塩沢を過ぎ、越後湯沢に近づいていく。手前に低い山、その奥にやや高い山、そのまた奥に谷川連峰が三層をなして視界に入る。手前の低い山では、まだ赤や黄色の紅葉が残っている。特にカラマツの金色の黄葉が美しい。しかし、その奥の山では、すっかり葉を落としたブナの木の枝々を樹氷のような白い雪が覆っていて、言葉にならないほど美しい。
そして、その視界の向こうには、雪を戴いた峻厳たる谷川連峰が拡がっている。三つの違った美しさを一望にすることができて、大満足だった。一般道を走れば、もっとゆっくり楽しめるのにと思ったが、急用がある。トンネルを抜けると、そこには“現実”が待っていた。
(越後タイムス11月27日「週末点描」より)