北京から帰って一週間。上海の時のように熱に浮かされたような高揚感はない。むしろ、途方もないものを見せられて、人類の歴史の壮大な矛盾に目眩がする思いがしている。万里の長城と紫禁城のことを言っている。
万里の長城は、秦の始皇帝が連結させて完成させた全長六千〓に及ぶ防壁で、とても人間が造ったものとは思えないしろものであった。見渡す限り、山々の尾根を龍のようにのたくって走るそれを見ていて、圧倒されると同時に「どうかしている」と思った。異民族侵入を防ぐという目的はまったく果たされなかったというから、こんなものを何のために造ったのかと言えば、権力の誇示のために他ならない。
紫禁城も同じことだ。入口の天安門から出口の神武門まで一〓も歩いたが、それでもほんの一部を散見したにすぎない。まともに全部を観覧したらまるまる四日間かかるという。これが明から清にかけての五百年間、皇帝が住んだ宮殿なのだ。映画「ラストエンペラー」の舞台となった巨大な「太和殿」を見て、再び「どうかしている」と思ってしまった。
北京は中国の首都である。四日には大量の黄砂が発生して、韓国や日本の東京をひどい目にあわせたらしいが、北京では黄砂など降りはしなかった。黄砂はゴビ砂漠で発生し東へ流れていくが、北京の南側を通るから、首都に影響は与えない。水不足の北京は南部から水を調達していて、黄砂の原因はそこにあるのだが、その要因をつくっている北京には何の影響も与えないのだ。アンバランスな権力構造は今も変わらない。
北京最後の夜、古くからの繁華街「王府井」の「小吃街」に遊んだ。新宿のゴールデン街のようなところが天安門広場のすぐそばに残されている。そこでビールを飲み、点心を味わい、麺を啜った。一人三百円だった。北京を訪れて威圧感を感じないで過ごすことができたのはここだけだった。今、「小吃街」が懐かしくて仕方がない。もし再び北京を訪れることがあるとすれば、まっ先にそこに行くことになるだろう。
万里の長城は、秦の始皇帝が連結させて完成させた全長六千〓に及ぶ防壁で、とても人間が造ったものとは思えないしろものであった。見渡す限り、山々の尾根を龍のようにのたくって走るそれを見ていて、圧倒されると同時に「どうかしている」と思った。異民族侵入を防ぐという目的はまったく果たされなかったというから、こんなものを何のために造ったのかと言えば、権力の誇示のために他ならない。
紫禁城も同じことだ。入口の天安門から出口の神武門まで一〓も歩いたが、それでもほんの一部を散見したにすぎない。まともに全部を観覧したらまるまる四日間かかるという。これが明から清にかけての五百年間、皇帝が住んだ宮殿なのだ。映画「ラストエンペラー」の舞台となった巨大な「太和殿」を見て、再び「どうかしている」と思ってしまった。
北京は中国の首都である。四日には大量の黄砂が発生して、韓国や日本の東京をひどい目にあわせたらしいが、北京では黄砂など降りはしなかった。黄砂はゴビ砂漠で発生し東へ流れていくが、北京の南側を通るから、首都に影響は与えない。水不足の北京は南部から水を調達していて、黄砂の原因はそこにあるのだが、その要因をつくっている北京には何の影響も与えないのだ。アンバランスな権力構造は今も変わらない。
北京最後の夜、古くからの繁華街「王府井」の「小吃街」に遊んだ。新宿のゴールデン街のようなところが天安門広場のすぐそばに残されている。そこでビールを飲み、点心を味わい、麺を啜った。一人三百円だった。北京を訪れて威圧感を感じないで過ごすことができたのはここだけだった。今、「小吃街」が懐かしくて仕方がない。もし再び北京を訪れることがあるとすれば、まっ先にそこに行くことになるだろう。
(越後タイムス3月14日「週末点描」より)