第88回全国高校野球大会
第15日 第1試合
駒大苫小牧(南北海道)-早稲田実(西東京)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 計
駒大苫小牧 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
早稲田実 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
第88回全国高校野球選手権大会(日本高校野球連盟、朝日新聞社主催)の決勝が20日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われ、73年ぶりの3連覇を狙う駒大苫小牧(南北海道)と初優勝を目指す早稲田実(西東京)が延長15回の熱戦の末、1-1の同点で、引き分け再試合になった。夏の甲子園決勝の引き分け再試合は、69年の松山商(愛媛)-三沢(青森)以来37年ぶり2度目。当時は延長18回制で、2000年に15回制になってからは初めて。再試合は21日午後1時開始。
△駒大苫小牧(南北海道)1-1早稲田実(西東京)△(延長15回引き分け再試合)
打撃戦が多かった今大会だが、決勝は駒大苫小牧・田中将大投手(3年)、早稲田実・斎藤佑樹投手(同)の両エースによる息詰まる投手戦となった。八回表、駒大苫小牧が本塁打で先制したが、早稲田実はその裏、犠飛で同点に。延長に入り、両チームとも満塁の好機をつくったが、両エースが要所を締めた。【野村和史】
▽早稲田実OBのソフトバンク・王監督 両チームとも死力を尽くした、夏の決勝にふさわしい球史に残るいい試合でした。両校ともお見事。明日の再試合では疲れを乗り越えて、ここまで来たら勝ち負けを考えず、全力を挙げて戦って下さい。
▽早稲田実・和泉実監督 向こうは強い。でもうちも強いことを再確認した。(斎藤の完投は)あの雰囲気の中で投げられる投手はほかにいないから。再試合は総力戦でやる。
▽駒大苫小牧・香田誉士史監督 4、5点勝負とみていたが、初回の斎藤君の投球でそんなに取れないと早めに継投した。これだけお互いやれたことをうれしく思う。
◇息詰まる投手戦
早稲田実・斎藤、三回途中から救援の駒大苫小牧・田中の両右腕がさえ、息詰まる投手戦は1-1のまま延長戦となり、十五回両者譲らず、引き分け再試合となった。
序盤から両チームとも走者を出したが、斎藤はスライダー、フォークが切れ、田中は先発・菊地を三回1死一、二塁で救援すると武器のスライダーを駆使し、ともに要所を締めた。
試合が動いたのは八回。駒大苫小牧は1死後、三木が斎藤の初球の直球をバックスクリーンへソロ本塁打。しかし、その裏、早稲田実も粘り、1死後、檜垣が左中間二塁打。打球を処理した左翼手の返球が乱れ、檜垣は三塁に。後藤が中犠飛を放って追い付いた。
その後も斎藤、田中の投げ合いが続いた。
駒大苫小牧は十一回、安打と死球などで1死満塁としたが、スクイズを空振りして逸機。早稲田実も十三回、安打と連続敬遠四球の2死満塁を逸したのが惜しまれた。【相川光康】
○…決勝までの5試合で11安打を放ち打率5割、10打点と大暴れしていた早稲田実の5番・船橋は、完全に駒大苫小牧の田中らに抑え込まれ、6打数無安打2三振。「タイミングが全然合わなくて……。それだけ田中君の球がいいということ」と脱帽した。「スライダーを待ってると直球が来る。そうなると絶対打てない。直球を待ってスライダーがきたら何とか手を出せるかな」。再試合に向け、田中対策を明かした。
○…延長十五回の表、駒大苫小牧の攻撃。田中は最後の守りに備えてキャッチボールを始めた。2死。4番の本間篤が早稲田実の斎藤に対している。そこでスタンドが沸いた。147キロ、146キロと斎藤の球速が表示されたからだ。田中は自分に言い聞かせた。
「いらない感情を出して自分の投球を乱してはいけない」
ライバル心を燃やして力む必要はない。本間篤が空振り三振に倒れてこの日の勝利がなくなると、田中は冷静に最後のマウンドへ向かった。その心境こそが田中の復調を示していた。
最大のピンチは十三回だった。2死二塁で3番の檜垣。八回に左中間二塁打を浴びた打者だ。「厳しい球を」と投げたカーブが暴投となって走者は三塁に。しかし、田中は決して勝負を急がず、満塁策をとって2人を敬遠で歩かせた。再び暴投すれば、サヨナラ負けとなる場面だが、慎重なカーブで5番・船橋を二ゴロに打ち取り、勝利への希望をつないだ。
調子が悪いと言われながらも勝ち上がった決勝。その陰で田中はフォームを微調整していた。大会前半は左足を上げた時に右足かかとに体重がかかっていた。これを重心をつま先に残して体の開きを防いだ。その結果が準決勝の智弁和歌山戦、そして、この日の投球だ。田中は「剛速球投手」の肩書きを外し、変化球中心のコントロール重視で勝負に徹した。
「なかなか点が取れないのでペース配分を考えた。延長に入った段階で再試合を意識した」という。余分な力は使わず、速球は140キロ前後。随所で右腕を上げて振る動作を繰り返したのは「血がたまって感覚が鈍くなるからです」。自分の右腕を知っていた。
香田監督は「田中が疲れている」と2試合連続で2年生の菊地を先発で使った理由を説明した。「あすは先発で行くのか」と聞かれた田中も「投手全員でつなげばいい」と言葉を濁す。投手の疲労と先発起用の駆け引き。再試合を左右する勝負の妙だ。【滝口隆司】
毎日新聞 2006年8月20日 16時45分 (最終更新時間 8月20日 19時33分)
第15日 第1試合
駒大苫小牧(南北海道)-早稲田実(西東京)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 計
駒大苫小牧 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
早稲田実 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
第88回全国高校野球選手権大会(日本高校野球連盟、朝日新聞社主催)の決勝が20日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われ、73年ぶりの3連覇を狙う駒大苫小牧(南北海道)と初優勝を目指す早稲田実(西東京)が延長15回の熱戦の末、1-1の同点で、引き分け再試合になった。夏の甲子園決勝の引き分け再試合は、69年の松山商(愛媛)-三沢(青森)以来37年ぶり2度目。当時は延長18回制で、2000年に15回制になってからは初めて。再試合は21日午後1時開始。
△駒大苫小牧(南北海道)1-1早稲田実(西東京)△(延長15回引き分け再試合)
打撃戦が多かった今大会だが、決勝は駒大苫小牧・田中将大投手(3年)、早稲田実・斎藤佑樹投手(同)の両エースによる息詰まる投手戦となった。八回表、駒大苫小牧が本塁打で先制したが、早稲田実はその裏、犠飛で同点に。延長に入り、両チームとも満塁の好機をつくったが、両エースが要所を締めた。【野村和史】
▽早稲田実OBのソフトバンク・王監督 両チームとも死力を尽くした、夏の決勝にふさわしい球史に残るいい試合でした。両校ともお見事。明日の再試合では疲れを乗り越えて、ここまで来たら勝ち負けを考えず、全力を挙げて戦って下さい。
▽早稲田実・和泉実監督 向こうは強い。でもうちも強いことを再確認した。(斎藤の完投は)あの雰囲気の中で投げられる投手はほかにいないから。再試合は総力戦でやる。
▽駒大苫小牧・香田誉士史監督 4、5点勝負とみていたが、初回の斎藤君の投球でそんなに取れないと早めに継投した。これだけお互いやれたことをうれしく思う。
◇息詰まる投手戦
早稲田実・斎藤、三回途中から救援の駒大苫小牧・田中の両右腕がさえ、息詰まる投手戦は1-1のまま延長戦となり、十五回両者譲らず、引き分け再試合となった。
序盤から両チームとも走者を出したが、斎藤はスライダー、フォークが切れ、田中は先発・菊地を三回1死一、二塁で救援すると武器のスライダーを駆使し、ともに要所を締めた。
試合が動いたのは八回。駒大苫小牧は1死後、三木が斎藤の初球の直球をバックスクリーンへソロ本塁打。しかし、その裏、早稲田実も粘り、1死後、檜垣が左中間二塁打。打球を処理した左翼手の返球が乱れ、檜垣は三塁に。後藤が中犠飛を放って追い付いた。
その後も斎藤、田中の投げ合いが続いた。
駒大苫小牧は十一回、安打と死球などで1死満塁としたが、スクイズを空振りして逸機。早稲田実も十三回、安打と連続敬遠四球の2死満塁を逸したのが惜しまれた。【相川光康】
○…決勝までの5試合で11安打を放ち打率5割、10打点と大暴れしていた早稲田実の5番・船橋は、完全に駒大苫小牧の田中らに抑え込まれ、6打数無安打2三振。「タイミングが全然合わなくて……。それだけ田中君の球がいいということ」と脱帽した。「スライダーを待ってると直球が来る。そうなると絶対打てない。直球を待ってスライダーがきたら何とか手を出せるかな」。再試合に向け、田中対策を明かした。
○…延長十五回の表、駒大苫小牧の攻撃。田中は最後の守りに備えてキャッチボールを始めた。2死。4番の本間篤が早稲田実の斎藤に対している。そこでスタンドが沸いた。147キロ、146キロと斎藤の球速が表示されたからだ。田中は自分に言い聞かせた。
「いらない感情を出して自分の投球を乱してはいけない」
ライバル心を燃やして力む必要はない。本間篤が空振り三振に倒れてこの日の勝利がなくなると、田中は冷静に最後のマウンドへ向かった。その心境こそが田中の復調を示していた。
最大のピンチは十三回だった。2死二塁で3番の檜垣。八回に左中間二塁打を浴びた打者だ。「厳しい球を」と投げたカーブが暴投となって走者は三塁に。しかし、田中は決して勝負を急がず、満塁策をとって2人を敬遠で歩かせた。再び暴投すれば、サヨナラ負けとなる場面だが、慎重なカーブで5番・船橋を二ゴロに打ち取り、勝利への希望をつないだ。
調子が悪いと言われながらも勝ち上がった決勝。その陰で田中はフォームを微調整していた。大会前半は左足を上げた時に右足かかとに体重がかかっていた。これを重心をつま先に残して体の開きを防いだ。その結果が準決勝の智弁和歌山戦、そして、この日の投球だ。田中は「剛速球投手」の肩書きを外し、変化球中心のコントロール重視で勝負に徹した。
「なかなか点が取れないのでペース配分を考えた。延長に入った段階で再試合を意識した」という。余分な力は使わず、速球は140キロ前後。随所で右腕を上げて振る動作を繰り返したのは「血がたまって感覚が鈍くなるからです」。自分の右腕を知っていた。
香田監督は「田中が疲れている」と2試合連続で2年生の菊地を先発で使った理由を説明した。「あすは先発で行くのか」と聞かれた田中も「投手全員でつなげばいい」と言葉を濁す。投手の疲労と先発起用の駆け引き。再試合を左右する勝負の妙だ。【滝口隆司】
毎日新聞 2006年8月20日 16時45分 (最終更新時間 8月20日 19時33分)