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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

いのち短し、恋せよ乙女~「生きる」 黒澤明(1952年)

2013年11月21日 | 日記
 東丹沢の七沢温泉のあとは、午後相模原に戻っての黒澤映画である。会場は、淵野辺のJAXSA研究所向かいの「東京国立近代美術館フイルムセンター相模原分館」講堂。相模原に国立近代美術館?と思われるでしょうが、ここは京橋にあるフイルムセンターの関連施設で、貴重な映画フィルムの保存施設(アーカイヴス)として、1986年に開設された世界有数の施設なんだそうだ(設計は芦原義信)。

 相模原市民でもこの施設の存在を知っている人は、そう多くないはずだ。国立の映画アーカイブ、積極的に公開を前提とした運営を迫られてこなったからで、わたしは前市長時代の市民モニターとして、所蔵する映画フイルムの活用を要望したことがある。せっかくのアーカイヴスも活用公開されなければ、宝の持ち腐れなのだが、なかなか貴重なフイルムの保存を盾にした組織の壁は厚かったようで、ここの上映施設を利用した名画上映の機会は実現しないままま、時が過ぎていった。

 そして、ようやく!積年の夢が「文化庁優秀映画鑑賞推進事業」といういささかお堅い名目で実現したわけである。はじめて分館の敷地内に入って、水平に横長の分館外観をじっくりと眺めることができた。建物正面に二本の御影石のモニュメントが平行して垂直に立っている。二本の石柱間隔は、ようやく大人一人が通り抜けられる間隔だ。作者名はわからない。中央の入り口の右側の部分が200席の講堂(試写室)で、25年以上たつのにまだ新しい感じで、リニューアルしてないとすればやはりもっと活用してしかるべき空間だろう。左側の二階建て部分は、事務室と研究スペースだろうか。
 上映まで時間があったので外に出て、左側建物の間の通路か裏手の収蔵庫スペースのある建物のほうに回ってみる。こちらの外壁は「2001年宇宙の旅」に登場するモノリスのような印象のシックな黒煉瓦壁で、横長の窓が中央に四か所あいているだけのいかにもアーカイブス、といった雰囲気の建物。前列の白色の講堂、事務研究棟とは平行に並んで配置され、間には芝生スペースが広がる。敷地外からは想像できなかったシャープな空間だ。

 さて、黒澤映画である。「生きる」(1952年、東宝)、14時半上映開始。主演は志村喬、小田切みき。終盤に市役所課長役の志村が公園のブランコに揺られながらひとりつぶやくように歌う「ゴンドラの唄」が印象的。「いのち短し、恋せよ乙女」とはその一節で、吉井勇作詞、中山晋平作曲の大正時代の唄。主人公の渡辺が、余命いくばくもないと知った時に自分の生き方を変えてくれたかつての部下、若い女事務員に捧げた思いなのだろうか? ちょっとものがしくもつつましく身の程に生きた市井の庶民の姿がいとおしくなる。ともすると甘くセンチメンタルな感情に流れがちな題材なのに、黒澤は周辺の組織人間の生き方に対し、皮肉というか冷めた目を利かせている。

 上映が終わって外に出るともう、17時近く冬の夕暮れ。冷えないうちに家に帰ろうっと。