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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

湘南の風光 葉山加地邸

2014年10月06日 | 建築
 6日午前中、昨日からの台風18号は東海地方に上陸したあと神奈川を吹き抜けて北関東に向かっていった。ここまほろ近隣はお昼前からみるみるうちに青空が覗きだし、風も止んできてまぶしい陽光が差し出してきている。


 台風通過前の3日の秋空、イワシ雲?ウロコ雲が拡がる。学校の校庭のクヌギとヒマラヤスギの剪定がすんだばかり


 台風がやってくる直前の4日に早起きして、小田急江ノ島線藤沢からJR横須賀線と乗り継ぎ、逗子からバスで葉山町一色町の加地別邸へ向かう。その日が一般公開の初日、バスは市街地をぬけて134号線の山間を走り、旧役場前停留所で降りて、反対側の南向き斜面の住宅地の狭い間を上っていく。やがて佐島石らしき石積垣の先に擦り減った年代を感じさせる大谷石階段と門柱があって、思いのほか茂った木々の間のその奥に別邸(設計:遠藤新、1928年=昭和三年竣工)は佇んでいた。リュウゼツランの植え込みや南洋植物のシュロが三本アプローチ沿いに伸びていて、保養地湘南の歴史と風光明媚で温暖な気候を感じさせる。
 玄関の左手に突きだした展望室と特徴ある庇に、同じ遠藤新が設計した自由学園明日館講堂との共通した意匠をみる。玄関口は大谷石の階段を数段あがるが、その手前脇右手の大谷石柱の間をくぐり抜けると、あかるさが溢れた南向きの庭園に出てる。ここからは別邸のほぼ全景を見渡すことができる。庭から建物の反対側を振り返ると、木立の向こうに葉山と横須賀境の山並が連なり、右手方向に視線を流していくと相模湾が拡がっている。これ以上申し分のないロケーションと豊かな風光のもとに、別荘は庭に沿って暖炉のあるリビング、三角に突き出た日光浴室が連なり水平に伸びている。銅版屋根の緑色と大谷石の淡い翡翠色、建物のくすんだベージュ壁が軽やかに調和している。その配色を装った外観は海に近いこのあたりの風土に似合ってやさしく、同時に奥ゆかしくもあり、またなんとも美しい。
それぞれの部屋の軒先の外側部分には、部屋の両端を区切るアクセントにもなっている大谷石を組み合わせた列柱が立つ。これって、どこかで見たことがあると思っていると、さきに記した明日館自由学園講堂舞台のプロセニアムと同じモチーフであることに思い当たる。同じ大谷石の列柱は、講堂では室内舞台上、別邸では屋外の湘南風景を演出する一部として存在するのだろう。

 

 ゆっくりと室内をめぐる。タペストリが壁に架けられた高天上のリビングと吹き抜け回廊の造りは、明治村に移設された旧帝国ホテル正面玄関ホールを入った時のつくりを思い起こさせる。遠藤新が別荘の団欒に欠かせないと重視していた暖炉はリビング、ビリヤード室、展望室の三か所に設けられてゐる贅沢さ。リビングの照明、机、椅子などはすべてがトータルにデザインされている。二階の書斎は低めの机にやや高めで住宅などの世間が気にならないよう目線を限って周囲の緑と山並みだけを臨めるようにした測られた書斎窓の高さが絶妙で、これなら集中しての読書や書き物ができそうだ。その隣の西北隅にひらけた主寝室は天井高があり、ゆったりとしていてよく休めそうな開放感が漂っていた。
 しばらくして遠藤現さんがやってきた。今回のご案内をいただいたのは、遠藤新のお孫さんにあたる建築家の現さんからのメールであって、久しぶりの挨拶を交わす。ここは時間の流れがおだやかである。

 お昼前、別邸を出て裏手に回り、葉山三ケ岡山緑地ハイキングコースを真名瀬(しんなせ)に抜けるコースを歩く。途中の山頂付近から木々の間に曇り空のもと一色海岸、御用邸、長者ガ崎さらには遠く荒崎の海に突き出した姿が望めて、湘南の潮騒のさざめきがかすかに聴こえてくる。
 真名瀬に降りて昼食を地元の料理屋でいただき、少し歩いての森戸神社に立ち寄ったら、本殿裏手から江の島の遠望を眺めた。ふたたび海岸通りに戻ってバスを待つ間に、トヨタの高級車レクサスが二台続けて通り過ぎていった。

 
  あいにくの曇り空だけど・・・、下方の白い箱型建物は、旧高松宮別邸後にできた神奈川県立近代美術館葉山。