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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

齢を重ねることで気づく旅  京都篇

2015年04月09日 | 旅行
 旅の二日目午後。山科から地下鉄乗り入れで京阪本線へ、そのまま乗車していくと大阪につながっていて淀屋橋が終点だ。七条駅で下車して、右手に七条大橋と鴨川の流れを眺めながら通りを左折、京都国立博物館へと歩み出す。途中、うなぎ雑炊の老舗「わらじや」の変わらないしもた屋風たたずまいにほっとした。和菓子の七條甘春堂の前を通り過ぎ、七条通と大和大路との交差点までくると、威風堂々とした博物館が見えてくる。

 赤レンガ造りの本館は、明治30年開館のネオ・バロック様式の重要文化財建築物。昨年開館の平成知新館入口は七条通りに面していて、正面ゲートは蓮花王院三十三間堂の大門方向と対峙して設けられている。敷地内はかつての方広寺境内だそうで、新館前人工池やエントランス部分に金堂柱跡が痕跡として記されることで、歴史的記憶が継承されている。谷口吉生設計の長形横長のモダンでスマートな建物、コンクリート打ち放しにステンレスの列柱と薄い庇、ベージュの石版を張ったファサードが、赤レンガに石造りの本館と鮮やかな対照をなしていて、すべてが端正で美しい。人工池とその庇のむこうに和蝋燭のような京都タワーが望める。薄曇り空からほんの少しうっすらと日差しが街中に注いで、建物前の人工池水面に映り込んだ曇り空が波紋状に揺れる。ああ、京都にいるんだ、という実感がふつふつと沸いてくる。



 広い前庭正面には噴水があって、その脇にはロダン「考える人」像がたたずむ。ひとしきり入口前を歩き回って建物を眺めてから館内へと進む。完成したばかりのすがすがしい空間に、「春も京博、名品ギャラリー」と題した展覧会のための収蔵名品がゆったりと並ぶ。途中、疲れてベンチに座ったまま、気が付くと眠ってしまっていた。しばらくして目覚めてあたりを見回し、手元の本に貼られた付箋に書き残してくれたメモに気がつき、先に見学を終えてミュージアムショップ前で待っていてくれたMと合流してふたりで博物館を出る。

 先ほどの七條甘春堂に立ち寄って麩饅頭を買ってもらい、八坂神社へと向かうバス中で頬張るのも旅道中の醍醐味かもしれない。祇園でバスを降りて八坂神社脇を通り抜け、京郷土料理いもぼうの平野屋本店へ。ここも変わらぬ佇まいで、ゆっくりと夕食をいただき、店を出るともうあたりは夕暮れ時となっていた。そのまま誘われるように円山公園方向へ歩むと、ゆるやかな傾斜のある回遊式庭園に点々と灯籠が広がる風景がひらけてきて、人通りがにぎやかになる。ここの庭園は、七代目小川治兵衛が明治時代に作庭した市内最古の公立公園で、桜の季節には早かったけれど、冷え込みのなかの灯りが暖かった。暮れかかった西方の空は今宵最後の澄んだ光りを放って、周りの木々のシルエットがくっきりと浮かんでいた。


  円山公園枝垂れ桜のシルエットの先に、宵の明星が輝く。忘れられない夜景。


 浄土宗総本山の知恩院へと進む。宿坊和順会館は新装なって華やかな感じで、そのすぐ隣の山門前では人だかりである。何かと思ったら、京都国際芸術祭2015“PARASOPHIA”関連のアートイベントが開催中で、和太鼓と津軽三味線にベース、シンセなどの和洋楽器が奏でる音楽を背景にして、琳派400年俵屋宗達へのオマージュらしく、雷神風神図をサンドアート影絵で描いていた。しばらく楽しんだ後、すっかり綺麗に整備された参道を下り、東大路を三条大橋に向かって歩く。

 三条駅前には、現代枯山水のZEN禅庭園を囲んだショッピングモールがあった。春物のショールを買い求めたいと言ってたMと、その中の和装店に立ち寄り、しばらくして春物を軽やかに装って店を出た先の鴨川の対岸には、暗がりの中に先斗町歌舞練場が見えている。三条大橋を渡ると西詰たもとが旧東海道の終点にあたる。到達の記念に、弥次さん喜多さん像を探して対面をはたすが、その前ではストリートミュージシャンがにぎやかな人だかりを集めていた。通りの向こう側に渡って、手ほうき専門の内藤利喜松商店の職人技が光る品々のディスプレイに魅せられてしばらく覗き込む。すぐ隣が豆菓子の船はしやで、ここで“古都五色豆”やせんべいを買い求めてから、鴨川べりを望むカフェで一服すると、ガラス窓の向こうには、沈んだ流れの川面に両岸の建物外灯とネオンが映ってゆらゆらと煌めく。
 その情景を横に並んで眺めながら過ごす時間の重さ、これからさきの深く、長い夜。 Kyoto 週末 弥生 2015。

  (2015.04.09初校、04.10校正、04.12修正)