☆第7話『陽のあたる家』
(1975.5.21.OA/脚本=桃井 章/監督=山本迪夫)
横浜・相模警察本部捜査一係の若手コンビ=中野(松田優作)&五十嵐(中村雅俊)は、スリの常習犯=順子(浅茅陽子)をマークします。
犯行を未然に食い止めたい人情派の五十嵐と、現行犯で捕まえて懲らしめるべきと考えるシビアな中野は対立しますが、まだ若い順子に犯罪から足を洗わせたい気持ちは二人とも同じ。
順子は線路沿いのボロアパート住まいで、坂の上にある陽当たり良好なマンションを1日でも早く購入したくて、何とか手っ取り早く金を稼ごうとしてる。
確かにボロアパートの騒音は酷く、早く引っ越したい順子の気持ちは理解しつつも、犯罪で得た金でマンションに住んで、果たして幸せになれるのか?と、五十嵐は彼女に説きます。
「うるさいわね、アンタなんかに何が解るのよ! 毎日毎日5分おきにガタガタ揺れる家に住んだ事ある!?」
実は順子にはトラウマがあるのでした。母子家庭で、自分を育てる為に必死で働いた母親が、過労による病をこじらせて死んじゃった。
「母さんが死ぬ時、私になんて言ったか分かる? 分かんないでしょ? ……私にも分かんない」
アパートで息を引き取る際、そばにいた順子に何か伝えようとした母親の、最期の言葉が電車の騒音でかき消されてしまったのです。
「なんて言ったんだろうな、母さん……一生懸命喋ってたのに……。私だって、結婚して子供産むかも知れないでしょ? 私が死ぬとき、その子に何か言ってやりたいもんね」
昭和50年、バブル景気もまだ遠い時代だからこそ成立した話で、現在だとシリアスには受け取れないかも知れません。
坂の上にある高級マンションを、ボロアパートから眩しそうに見上げる順子の姿には、映画『天国と地獄』の誘拐犯と重なるものがあります。
そしていよいよ、順子は無謀な賭けに出ます。電車でスッた財布の中に麻薬を見つけて、彼女はその持ち主に1千万円、すなわちマンションの購入費用と麻薬との交換を持ち掛けるのでした。
当然ながら麻薬の持ち主はヤバい連中=暴力団と繋がっており、順子はあえなく刺されてしまう。
大量の血を流しながら順子が向かった先は、病院ではなく坂の上のマンション。五十嵐が駆けつけた時にはもう、彼女はエレベーターの入口で倒れたまま、息絶えていたのでした。
このシーンは後に、本作と同じ岡田晋吉プロデューサーによる刑事ドラマ『太陽にほえろ!』の第658話=ラガー(渡辺 徹)殉職編で再現されてます。監督も同じ山本迪夫さんでした。
エレベーターのドアが自動で開閉を繰り返し、その度に遺体が挟まれるというもの哀しい描写が、太り過ぎた渡辺徹さんの場合「まるでボンレスハムの精製工場みたい」と笑いのネタにされちゃったというw、これまたもの哀しい後日談があったりします。
ラガー刑事も最期に自分の一番居心地の良い場所=七曲署へ帰ろうとしてたワケで、最期に陽のあたるマンションへ向かった本作の順子と、山本監督はイメージを重ねられたんだろうと思います。(が、演者の体型までは計算されてなかったw)
本作はとても『俺たちの勲章』らしい、いかにもメインライターの残酷大将=鎌田敏夫さんが書きそうな切ないストーリーだけど、この回の脚本家は桃井章さん。女優=桃井かおりさんのお兄さんであり『太陽にほえろ!』でも数多くの作品を手掛けてらっしゃいます。
第1話における中野と五十嵐の対立(犯罪を未然に防ぐべきか、現行犯逮捕して懲らしめるべきか)が再現され、惚れっぽい五十嵐が例によって女性ゲストと心を通わせ、中野が暴力団相手に大暴れするハードアクション(格闘&銃撃戦)の見せ場もあって、『俺たちの勲章』の魅力がフルコースで味わえる名エピソードでした。
そして順子役の浅茅陽子さんは、当時23歳。まだキャリアは浅く、NHKの朝ドラ『雲のじゅうたん』のヒロインに抜擢される前年のゲスト出演でした。
暗い生い立ちを背負った役柄ですが、天真爛漫な浅茅さんの演技によって辛気臭さが払拭され、爽やかな後味さえ残る作品になりました。
同年に平 幹二朗&沖 雅也の『はぐれ刑事』にもゲスト出演されてますが、朝ドラ主演以降はホームドラマや時代劇、2時間サスペンスへの登板が多く、刑事ドラマのゲスト出演は'85年の『特捜最前線』ぐらいしか見当たりません。
我々世代には「エバラ焼肉のたれ」のCMが何より印象深く、映画『エバラ家の人々』(ドック=神田正輝さんと夫婦役)まで製作・公開されたにも関わらず、トーク番組でうっかりベジタリアンであることを公表しw、CMを降ろされちゃったエピソードも忘れ難い女優さんです。
マンション購入資金調達方法の是非は置いといて(笑)、健気な夢を叶えようとしたけど絶命してしまう・・・可哀想でしたね。