竹林に生えている植物主を学術的に言い表すなら,カタカナでタケ。生活や文化の目でなら,漢字表示で竹。したがって,わたしがタケ紙という場合は素材になった植物を分類学の目から意識して使っていることになります。これに対して一般的には竹紙と書いて,“ちくし”と読んでいます。
つい先日,この竹紙,つまりタケ紙を漉きました。
タケ紙は非木材紙の代表例です。中国ではよく知られた紙ですが,我が国ではごく限られた人しか漉いていません。それで,馴染みが薄いのでしょう,実物を見た人からは「タケから繊維をどうやって取り出すのですか」という疑問がよく出されます。取り出す方法はともかくとして,のっぽダケのからだを支えているおおもとが繊維だということは,たぶん,誰もが想像できるでしょう。その繊維がじつにしなやかで,強靭な性質をもっていることも納得できるでしょう。
たとえば,雪が降り積もって大きく弧を描いて曲がっている風景を思い浮かべてください。強風にあおられて,大きく,激しく揺れる風景を考えてみてください。そうした悪条件のもとで環境に適応して生きていけるのは,繊維ともうひとつ,茎の中空を区切っている節のお蔭なのです。
悪条件にも限度があり,耐えられる限度を越した場合は,からだ,つまり茎が縦に裂けます。縦に裂けるのは,その方向に繊維が走っているからです。茎が激しく裂けると,繊維が剥き出しになりますから,「これが繊維なんだ」「これでからだを支えているのだな」と一目で理解できます。
そんなわけで,ふつう,タケのからだから人手で繊維を取り出すのは相当に厄介です。硬いからだから,どうやって繊維を取り出すのか,まったくむずかしい話になります。中国の例では,20年も水に漬けて腐らせるという話もあるくらいです。
タケ紙を漉く人は,それなりに工夫してじぶんに合った繊維の取り出し方を採用しています。わたしは,タケノコがすこし伸びた頃の若竹を途中から切断して立ち枯れさせたものを使う,横倒しになって腐朽菌や小動物,水分などに分解され繊維だけが残った状態の竹を利用する(下写真),などの手を使っています。
それで取り出せても,繊維を煮る時間の長さは植物中でも横綱級。6時間たっぷりかけます。それだけ,繊維質が丈夫だということなのです。丈夫だから,出来上がる紙も丈夫です。コピー紙から厚手の紙まで,様々なタイプのものができます。色も,じつに多様です。タケの古さ,腐り具合,それらが微妙に関係しているからです。 (つづく)