日向で雪遊び

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読参~「機動戦士ガンダム 一年戦争史」~ 第7回 ジャブローへの道のり

2008年04月28日 | 読参小説(ガンダム 一年戦争史)
●少女、戦場に

 格納庫へと続く廊下。その途中、ユキは腕に巻かれた包帯を強引に破り捨てると、必要な分だけを残し、残りは手近のダストへとぶちこんだ。
 そんな彼女に対し、友人のラサ曹長は必死に止めようと食いさがる。

「無茶ですよ!? アジアでの怪我だってまだ治ってないんですよ!?」
「それが何? 今は一人でも兵士が必要なの。それに、このくらい大したことないんだから!!」

 だが、ユキは引かない。それが自分の責務だと。為すべきことだと譲らない。
 しかし、それは曹長も同じだ。彼女にとって、友人をみすみす死にに行かせるのは耐え難いことだ。

「正気ですか!? そんな怪我ではやられるだけです!!」
「・・・私は、必ず帰るつもりでいつも出ているわ。
 それに・・・それに、怪我を理由に肝心の時に役に立てない、もうそんなのは嫌なのよ!!」

 ぞくり、あまりの剣幕に空気と共に背筋が凍る。
 目の前にいる少女は、自分の知っているユキではない。普段の明るい彼女とはかけ離れ過ぎている。
 
 もう格納庫はすぐだ。淡々と腕と脚のテーピングを更に固く締める。
 そして一転して抑揚のない声と共に〝どいて〟とラサ曹長を見つめる。それは、邪魔すれば容赦しないという意思表示に他ならない。

 完全に動けなくなったラサ曹長を除けると、素早く機体に乗り込むユキ。
 乗るや手早く機体を始動させると、それをガウ攻撃空母へと積みこませた。

―――MS‐07B-3 グフカスタム―――
 量産型グフの上位機。
 従来のものよりも、装甲・機動性などあらゆる面で性能の底上げがされた地上専用機。
 また、マニュピレーターを元に戻し、ヒートロッドもアンカーワイヤーへと改良が施されている。

 ジャブロー攻略ということで、使えるものを強引に回してもらった。これには、機体はあれど、扱えるパイロットの不足という点が後押しした結果でもあった。

「搭載の準備はこれでよし・・・いいわよ」
「おいおい、いいのかい、少尉? あんた、身体が・・・」

 ガウの搭乗員からの通信。ユキの包帯を見とっての弁。だが、返答などは決まっている。
 彼女はそれを、躊躇なく言い切った。

「人には役割がある。貴方が自分の役割を果たすように、私はパイロットとしてのそれを果たすだけよ」

 もうあんな思いは嫌。もし自分が万全だったら、あんな風にならなかったかもしれない。だから、出来るだけのことはする。
 後悔だけは、したくない!!

 胸に去来するはルナツーでのあの出来事。
大尉が死に、トウヤが変わらざるを得ないキッカケとなった戦場。
 その戦場では、彼女は負傷が原因で途中に身を引いた。そして、悲劇はその後に起きてしまった。
 
(あの時のことは忘れない。だから今度は違う。変えてみせる! 私は、もうあの時の私じゃない!!)


●密林の死闘

 鬱蒼と茂る雑多な木々。それは完全に密林というものであり、統制されたスペースコロニーでは絶対にお目にかかれない光景である。
 そしてその天然の要塞に、幾重もの炎が奔る。砲撃音が止むことなく響き渡り、空を覆う黒雲からは鋼鉄の兵隊たちが次々と吐き出されていった。

 バズによってガンペリーを叩き落としつつ、トウヤはガウの搭乗員達へと礼を口にする。そして、すぐさま進撃を開始させた。
 目的は連邦軍本拠地、ジャブローの攻略。
 だが、はたしてそれが可能なのか・・・。
 アジアでの経験により、既にこのような地形は知っていた。知っていたからこそ、尚更それが分かる。
 アジア以上に遮蔽物の多いこの地形。加えて、そこかしこに満ち満ちた水の流れ。それは守りには易く、攻めるには難しという世界だ。
 更に、ミノフスキー粒子による大規模な相互不通が畳み掛ける。
 粒子はこちら側が仕掛けたものだが、それでも圧迫的な感覚は残る。個々の兵士それぞれは、改めて何と闘っているのかを思い知らされた。

(オデッサの際、敵の大物をこちら側につけたというのもあっての立案との噂だが・・・それだけでは・・・)

 所詮は噂、取るに足らない都市伝説。首を振って切り替えようとするトウヤ。だが、相も変わらず圧迫感は消えはしない。
 一つの気安い声が響くまでは・・・。

「中尉。折角昇進したんですし、楽に行きましょう。なぁに、きっと上手く行きますよ。それに、俺のグフがいるんですからね!!」
「・・・だな。しかし、少々頼りないのが困りものだ」
「ひっで!? 俺だってちゃんと戦力になるんですからね!!」

 陰った気を吹き消すようにトーマの声が流れてくる。
 トウヤへと続くその声は、仲間のシズネ少尉にも伝わっており、心なしか空気が軽くなった。

「ふふっ、ダメじゃない、中尉。部下は可愛がってあげないと」
「…シズネ少尉、少し待て」

 軽口を無視し、先頭を行くドム。それが後続へ止まれの合図を促す。
 それに仲間は即応じると、臨戦態勢へと移行する。

(センサーに感あり・・・。強化チューニングが功を奏したか)

 今回のジャブロー戦に備え、トウヤは愛機にセンサー強化と、あるマーキングを施していた。これらは、少尉以上の特権である。
 そして、センサーのそれに対してある判断を下した。

「藪撃ちをする。相手が顔を出し次第、そこを撃て。いいな」

 いうや、バズが数発叩き込まれる。
 燃え上がる木々の中、銃を打ち鳴らしながらジム達が慌てたように顔を出す。そして、それで終わりだ。
 哀れな彼らは、構えたグフとドムによって鴨撃ちをされる羽目となった。

「撃墜スコアは貰いです!! いい感じですね」
「ハシャギ過ぎね、全く。でも、悪い気はしないわ。このまま行きましょう」


●青の銃士

 一機、二機、三機・・・青の上空を飛び交うトリアーエズが次々に撃ち落とされていく。
 近くにいたのか、援護にとコアブースターがメガ粒子を捲き放つも、勤勉なそれは、同じ運命へと向けさせられることとなった。
 
 両腕に装備された異形の盾。盾でありながら、束ねて延びた砲身が禍々しくも鈍く輝き、辺りには役目を終えた無骨な筒が熱気を帯びたまま横たわる。
 それが飛び交う鳥達を穿った犯人である。

「・・・ガトリングシールド、意外と使えるみたいね」

 ユキは軽く深呼吸をすると、ジャブローの大地を進んでいく。
 彼女にも仲間がいたが、彼らは不運であった。降下途中に撃たれたり、降下前にガウごと撃破されてしまった。
 故に仲間はもういない。生き残るのなら、どこかの部隊と合流するのが一番だろう。
 だが、ユキはそれよりもまず敵を求めた。自分の倒すべき敵。それがここに在る。
 敵地の中で単機。それがどれほどの危険かは彼女も理解している。
 だが、それでも。

「弱音は…吐かない! やってみせる!!」

 唇がを強く閉じられる。同時、一機のグフが繁茂した密林の奥へと雄々しい青を進ませていく。
 蛮勇の火を灯し、ただ前だけを見つめる瞳。それ全て、為すべき事のために。
 

●生き延びるために

 既に陽光は陰り始め、天然の緑に埋め尽くされた大地も少しづつ帯びた熱を払ってゆく。
 その中に蠢く無数の鉄の塊。それらが或いは砲火を交え、或いは切り結ぶ様相も、時と共に次第に変わらざるをえなくなっていた。

「・・・撤退命令。ここまでだな」
「ていうことはつまり・・・」
「曹長、そこから先は口にしないの。あとは合流予定地点へと行くしかないわね」

 ジャブロー強襲。オデッサを取られたジオンにとって、乾坤一擲であったこの作戦だが、既に開始よりかなりの時間が経過している。
 成功なのか、失敗なのか・・・個々の兵士達にそれを知る術などあるはずもなく、ただ終わるまでに戦い続けているしかない。
 しかし、明確に分かったそれに対し、やるべきことは一つ。
 生き残ることである。

「引くぞ。まだ弾はあるな?」
「はい、中尉。味方の残してくれた武器とかもありますから、そこは大丈夫です。尤も、残してくれなかった方がよかったのですが・・・」

 要は、撃墜された機体から〝借りていくぜ〟と拾ったものだ。それに愚痴とも哀悼とも取れる言をこぼすトーマ。
 だが、トウヤはそれを話半分に打ち切った。

「・・・ならばいい。敵だ。正面から3機。一度散開、合図と同時に一斉射撃。いいな?」
「…っ!? りょ、了解!!」

 2機のドムに1機のグフ。それが散らばり、弾幕が一点へと注がれる。それにより一機が崩れ、残りの2体からの斬り込みがくる。
 接触。そして相見える敵。それに若干の汗が浮かぶ。敵の機種、それが問題であった。
 アジア戦線で現れた新式、陸戦型ガンダムである。

「エース機、か。俺は敵の隊長機に当たる。少尉と曹長は残りを!!」

 通信途中の最中、両肩を黒く染めた敵機が斬り込みをかけてきた。
 抜かれるヒートサーベル。赤熱化した刃と、重金属粒子で形成されたビームサーベルの鍔競り合い。それより何合かが打ち放たれ、そして距離をとる両者。

(決断が早いな。手練れのエース機、そしてこの地形では・・・)

 強敵への対処へ思考を巡らす中、当然の如く銃弾が襲いくる。
 さながら、頼まれもせずに届けられるダイレクトメールにも似た、不快なそれ。回避行動に火器での応戦と牽制を織り交ぜるも、この戦闘は不利と言わざるを得ない。
 重MSながらも圧倒的な高機動性を誇るドムだが、ここではその利が完全には発揮出来ないのだ。入り組んだこの地形では機動性が殺され、その自重も小回りの足枷となる。
 では、どうするか? トウヤは一つの決断を下した。
 銃器を棄て、急激に正面から機体への負荷を無視して一直線に進ませる。敵機からの弾幕がくるが、それはどうでもいい。ダメージは装甲の厚さに補ってもらう。

「お互い命賭けだろう! さあ、どうする! ガンダム!!」



 この無茶な特攻に、陸戦型ガンダムの乗り手であるロバート大尉はわずかな焦りと恐怖を覚えるも、これはチャンスであるとも思った。
 見たところ、銃器はない。正面からの近接武器だけ。ならば後はガンダムの能力でかわし、小回りが利かないところを撃ち続ければそれで済む。

「焦りか自棄か? まるで牛だな。いずれにせよ、愚直なジオンらしい」

 口元が三日月に歪む。吠えていた銃を止め、サーベルを構えさせる。相手に迎え撃つと誤認させるために。
 後はタイミングよく逃げればいい。まだ、まだだ・・・よし、今だ!!

 彼の行動は決して悪いものではなかった。避けて美味しく調理すればいい。
 しかし、それは悪くはなくも、最善ではなかった。
 最初に閃光が走る。ほんの僅かな目くらまし。予想外の一撃。しかし、既に機体は回避のための跳躍に動いている。まず安心のはずだ。

「目潰しだと!? だが、かわしたぞ! 俺の勝ち・・・ぐわぁーーっ!!?」

 そう、普通ならば当たるわけがない。普通ならば・・・。
 唐突に遮るもののない空中で衝撃が走り、そのままガンダムは大地へと振動を響かせる。
 色彩を変化させ、鮮やかな弧を描いた灼熱の棒。投げつけられたそれが、空で直撃したのだ。
 警告音がビービーと鳴り響く。機体が深刻な、そして自身が危機的状況である証拠。

「ぐぅ・・・・・・こ、こんなところでぇーーーっ!!」

 しかし、まだ動ける。衝撃で出血と共に意識が流れ行く中、ロバート大尉は意地で緊急信号弾を発信させた。
 朦朧とし、やがて霞から0へと消える。彼が覚えているのは、そこまでであった。



「少尉! 曹長!! 二人とも無事か!!?」
「ええ、何とか無事よ。右腕やられちゃったけどね。でも、トーマ曹長がいなければ危なかったわ。助かっちゃった」
「は、ははは! 敵機撃破! いやぁ・・・でも怖かったぁ」

 相変わらずの軽口に若干苦笑するも、直ちに次の判断を下す。
 
「(先程の妙な信号、増援の可能性も十分有りうる・・・)二人とも、引くぞ。生き延びるのが最優先だ。此処にもう用はない」
「了解! ちゃんと帰りませんとね!!」



――――――信号弾、発信よりおよそ十数分後――

「生きているか、ロバート」
「・・・何・・・ぐぅ!? あ、ああ。怪我しちゃいるがまだ無事みたいだ」
「まさか貴様がやられるとはな。だが、生きていてくれて何よりだ」
「僚機は、やられちまったか・・・」
「・・・ああ」
「くそっ!! あのジオン野郎! あんな手で、よくも!!」
「落ち着け。傷に障る。しかしそのジオンだが、どんな奴だったんだ?」
「スカート付きだ。変わったマーキングをしていたから、よく覚えている」
「ふむ?」
「交差させた二本の斧・・・それも、ザクの斧だ」
「二本のヒートホーク、か。わかった。上に入れておこう。ん? どうかしたか」
「いや・・・お前に限ってまず無いだろうが、気をつけろ。ジオンは、強いぞ。舐めてかかると俺みたいになる。
 ・・・やられんなよ? 俺達の夢、易々と終わらせたくはないからな」
「ふん、当然だ。泡沫などにはさせんよ。救護班、面倒をしっかり見てやってくれ。私の大事な友人だ」
「了解しました、少佐!」
「しかし、2本のヒートホークか・・・まさかな」
「どうかなされましたか?」
「いや、少々思い当たる節があってな。尤も、馬鹿馬鹿しい話だが。さて、私もいくとするか」
「そうですか。では、お気を付けて。ジョンソン少佐」




――――次回、ソロモン攻略戦――――


●今回の大雑把な結果
・ジオン
ジャブロー攻略に失敗。
が、ジャブロー内部にて、それなりの破壊工作に成功。

・連邦
防衛に成功。
しかし、艦船ドッグや居住区で破壊工作が行われる。
戦艦等の8隻に損害があり、内4隻が緊急修理。このため、星一号作戦が7~10日延長されることに。
(残りの4隻は作戦参加を断念)

これにより、天秤はジオン有利のまま。



今回の選択機体:MS-09ドム MS‐07B-3 グフカスタム
当時の選択可能なジオンの機体(ただし、物によって、階級、記章などの制限あり)

・MS‐06J
・MS‐06S
・MS‐07B グフ
・MS‐07B-3 グフカスタム
・MS‐07H-8 グフ飛行試験型
・MS‐09  ドム
・アッガイ
・ズゴック
・ドップ
・ガウ攻撃空母


え~・・・はい、かなり久々と相成りました。ジャブロー攻略戦です。
結局、ジャブローは落ちませんでした。う~む、さすがに堅い堅い。

今回のジャブロー攻略は史実のものと同じ、無謀かつ投機的なものです。
シャアのマッドアングラー隊なども動いていますが、攻撃地点がもっとはっきりしていれば結果も変わったんじゃないかな、と。

・・・・・・・・・・・・しかし、どっかの裏切り者は、データをジオンに渡さなかったのか、それとも単に持ってなかったのか・・・。
ゲームぎゃざでは触れられていませんので、エルランのことはどうにも判断がつきません。

そうそう、今回トウヤが施していたチューニングですが、書いたとおり、少尉以上の特権です。
参加者、各々がそれぞれ好きなものを選択し、機体の強化を楽しんでおりました。

で、次回はソロモン戦となります。
ニューヤークとかはー? ってのは禁句です。はい。
史実とは明らかに変わってきた一年戦争史。次回は面白いのが色々と出ますので、お楽しみに。


※尚、この回の結果は「ゲームギャザ 2000:11月号 vol.15(HOBBY JAPAN)」に収録されたものとなります。