日向で雪遊び

WTRPGやFGOなどのゲーム。
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とある兵卒の一刃

2008年05月26日 | AFO小説

雪切・刀也
 まだ日は落ちず、陽光は遮る物がない大地を照らし続けている。
 ふと、京都の方に目をやる。
 そこにあるのは嵐の如き喧噪。延暦寺からの攻撃部隊。そして、それと手を組んだ酒呑童子率いる鉄の御所の鬼たちだ。

 動くか・・・。しかし、防衛戦ではなく侵攻とはな。
 鬼と結託したようだがそれは別に構わない。彼らとて生きているのだし、そういう意味ではそれも一つ。
 まあ、人食いの問題点が残るがな。

 しかし、ヒューマンスレイヤーを嫌うくせに、民草はいくらやられても構わないらしい。
 中々素敵な教義の様だ。

 軽く溜息をつき、そして視線を山の方へと向ける。
 かつてそこにいて、今は攻めるべき場所。
 そう、当初の俺は、延暦寺側にいた。
 理由? 単純に平織が強引だと思ったからだ。それに、その時は無関係の人が多過ぎた。
 前線に出ず、上層部の守りに入っていたのも、交渉役が襲われれば困る、それだけだ。
 「どっちも手前勝手なことだ」と皮肉も言ったがね。

 その上で、当初の目的と思われた防衛は果たした。
 が、逆に攻め込むとは俺にとっても予想外だった。

 そして今、俺は平織側にいる。
 理由はいくつかある。第一に京都侵攻、第二にクリエイトアンデッドさえ容認する延暦寺への不信。
 最後の第三に、ヒューマンスレイヤーのことだ。対人戦闘前提で、何故それを忌み嫌う?
 しかも、冒険者の中にもそれを嫌うのがいるらしい。
 勿論、それが人情だろうとは理解できる。同胞殺しの技術に嫌悪感が沸くのも万人の道理だ。

 だが、断る。
 俺には納得出来ない。そもそも、散々スレイヤーを振り回していたのは冒険者ではなかったのか? 
 他種族に対しての有利はよく、自分たちは特別だとでも? 
 そして、通常兵器での殺生なら許容する?

 そんな思案の中、刀也の中でとある場所が浮かび上がった。
 日々、命懸けの戦いが繰り広げられるオーストラリアの大地。
 そこは、人を食らう鬼さえ容易く平らげるような恐竜達が跋扈する、野生の王国。
 他所では絶対にあり得ない圧倒的な世界を目の当たりにし、肌で感じ、その旅路で得たもの・・・。
 あの場所の掟に比べれば、なんと醜さ極まりないことか。

 偽善でもなく、詭弁ですらない。これは、完全な傲慢だ。
 だから・・・。


ミリート・アーティア
「難しい顔で、何を考えてるの?」

 何時の間にやら考え込んで思案にふけっていたらしい。目の前の古い幼馴染にすら気付かなかったとは…。
 愛らしいポニーテールの少女。それが天然の無邪気さと合わさり、一層子供らしさを醸し出している。
 ミリート・アーティア。それが彼女の名前である。

「くだらないことだ。一兵卒の愚痴に近い」

 だ~う~? と首をかしげるミリート。「?」マークが見えるようだ。
 苦笑しながら俺はそんな彼女の頭を撫でた。それをくすぐったそうに受け入れるミリート。

「でも、おっかない顔してたよ? トウヤくんも深呼吸した方がいいのかも。
 みんな、どこもかしこもそんな感じ。おっかなくて好きじゃないや」
「そっか・・・。そうだな、少し気を抜いたほうがいいのかもしれない」

 相変わらず感性が吹っ飛んでるなぁ、と感心しつつも、言われたとおり、素直に深呼吸を行う。
 心なしか何かのとっかかりじみたものが失せ、少し軽くなったかもしれない。

「ミリートはどうするつもりだ? お前の性格から延暦寺はないし、人間相手も柄じゃないだろう。
 平織か、或いは対鬼といったところか・・・」
「・・・当たりだよ。私は対鬼で動くつもり。
 自分の出来ることを私なりに考えたけど、尾張の方に出向く気はないの。その前に、もう決着はついてる筈だから。 ・・・だから、戦うよ」

 それに俺は「そうか」と答え、彼女の顔を見た。
 迷いのない強い眼に、子供特有のまっすぐな意思が感じられる。
 そしてその肩には、愛らしい華奢な身体には不釣り合いとしか言えない長弓が、今か今かと出番を待つかのように雄々しさを称えて掛けられていた。

 -強弓「十人張」-
 放てば穿ち、射れば撃ち落とす。
 現在、出回っている弓の中でも、紛れもなく最大級の威力を誇る弓だ。

「いやはや、敵も可哀想に・・・。第一級アーチャー様が御相手では、どうしようも」

 もし今の自分の顔を鏡で見れば、苦笑いが見えるのだろう。
 ぱっと見、ミリートは其処らにいる少女にしか見えない。が、その紡ぎ出す歌声は極上の酒の様に甘く、弓の腕も桁外れというとんでも少女だ。
 仮に俺が相手をしても、勝てるかどうか甚だ疑問である。てか、無理。確実に負ける。
 この恐るべきスナイパーの標的に、心の底から同情しよう。

「・・・俺は平織だ。が、対冒険者に回る。元々個別主義の強い冒険者だ。誰がどう思い、どう動くのかは個々の赴くまま。
 今回俺は、納得のいくように動く。それだけだ」
「ん、そっか。 ・・・ちゃんと戻ってきてよ? 新作の歌、聞いてもらう人がいなくなると困るんだから」
「そちらこそな。ミリートの歌は、嫌いじゃない」

 言葉を発し、両者共にしばしの沈黙。
 そして、同時に笑い声が響いた。

「あはははははっ! ホぉ~ント、つんけんしてて相変わらずなんだから。
 OKぇ、ミリート特製の歌で魂も魄も全部あっためてあげるよ! 覚悟しときなよ?」
「ははは! 自分も危険なのに、こんな時でさえも人の心配とはな! 
 諒解だ。意地でも聞かせてもらう! それが何よりの報酬だ」
「ふふ~、過剰報酬かもね、それじゃあさ♪」
「なぁに、見合う分だけ動いてみせるよ。それじゃあ、そろそろ・・・」

 ビャァァァァン、軽く弦が鳴らされる。
 多分、笑っているのだろう。俺も、納刀術で剣を軽く弾かせた。

「行くよ!」
「諒解だ」

 俺もミリートも、互いに有るべき場所へと動き出す。
 この先の結果がどうなるかはわからない。所詮、ただの一兵卒であり、権力者ではない。大勢に影響など与えようはずもない。
 だが、今出来ること、そして自分の思うことは大事にしたい。そう思う・・・。
コメント
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