『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  120

2013-10-09 07:34:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、作業の一段落を見てホット一息というところである。彼は小島に目をやり、目線をゆっくりと東の方角へと移していく、この季節に吹く西風がやや強い、陽は輝き、海は落ち着いていた。
 小島の海賊を強襲してから今日が三日目である、興奮が収まり、気持ちが落ち着いてきていた。
 『冴えた猛々しさ、そして、一歩前への沈着な意志力、これが俺に、いい仕事をさせる』
 パリヌルスは、独り言ちて、あの時の仕事の遂行と結果を振り返った。
 ゆっくりと目線を東のほうへと移していく、彼の視野の中に中型の漁船2隻が飛び込んできた。漁船はまだ遠くにいる、そのほかにも魚を漁っている漁船が数隻いるが、波を割ってこちらに向かってくる漁船は、この2隻だけである。彼は、目を凝らしてこれを見つめた。
 今、この近辺にパリヌルスたちに抗する者たちの存在は考えられない。『奴らは何者ぞ?』と目を見張った。彼はいぶかる目線で船に目をやっていた。
 パリヌルスのこの一週間は多忙の極みであったのだ。
 船は指呼の距離までに近づいていた。見たことのある風体の男が舳先にいる。何かをわめいている、声は風に飛んで聞き取れない。彼は、やっとのことで気づき思い出した。浜頭のスダヌスたちのことを思い出した。
 『ああっ!奴は、スダヌス!』
 風に吹きちぎられる、あのダミ声がやっと届いてきた。彼は手を振っている、パリヌルスも諸手を振って答えた。間もおかず、彼の船が眼前に迫った。浜に乗り上げる、スダヌスが飛び降りる、パリヌルスに駆け寄る、二人は、ヒッシと抱き合った。
 二人は同時に声をあげ呼び合った。
 『おうっ、パリヌルス!』
 『おうっ、スダヌス!』
 二人は顔を見合わせる、目線が合う、再びしっかりと互いを抱きしめた。