『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  130

2013-10-23 07:06:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 つるべ落としの初冬の夕陽は、その身を沈め、西の空にかすかに茜の残映を残している。空からは十六夜の月が澄んだ光を落とし始めていた。 
 賑わいの宴の場は、宵闇のとばりがつつみ始めていた。
 アヱネアスの周りでは、浜頭連と土豪の頭ガリダも加わって、話に花が咲いている。スダヌスは、何かを待っている『おそい、おそい』と舌打ちをしながら待ちかねているものがあるらしい。彼は、オロンテスに声をかけようと思い、辺りを見回すが目当てのオロンテスの姿が目に入ってこない。イラついた風情ではない。酒に酔った目で見まわしながらオロンテスを探した。
 彼はたまりかねてイリオネスに声をかけた。
 『軍団長!オロンテスどのの姿が見えませんな。あれはまだですかいな。アレですよ、アレです』
 イリオネスは、スダヌスの『アレです』を耳にして思案した。
 『アレとは何かいな』彼もけっこう酒に酔っている、酔った頭で考えたが思い浮かばない。
 『スダヌス浜頭、アレとは何ですかいな』
 話し合う二人の言葉ずかいも危なっかしい。
 『軍団長、アレですよ。じれったいなあれがわかりませんかいな。アレで酒を飲むのが、めちゃくちゃにうまいのですよ。判らんかな、アレですよ』
 スダヌスもアレとしか言わない。
 オロンテスが姿を現した。
 『ややっ!皆さん、お待たせ、お待たせ、お待たせしましたな』
 スダヌスは、この声を聞いて『待った!待った!』と声をかけながら、オロンテスに歩み寄った。
 『ややっ!オロンテスどの、待っていましたぞ、待っていましたぞ』
 スダヌスもしたたか酔っぱらって、舌をもつれさせて話しかけている。イリオネスも彼が口にした『アレ』について判っていたが、酔いに任せてとぼけていた。
 スダヌスが大声をあげた。
 『おおっ!これは感動!大感動だ。焼きあがったばかりじゃないか。パンが温くといのう、熱い!』
 彼は言いながら、オロンテスから焼きあがったばかりのパンを受け取った。彼はそのでっかいパンを両手で高く差し上げた。
 『おい!スダヌス!お前の待っていたのは、その『パン』か。どれ、どれ』
 ダルトン浜頭がスダヌスに寄ってきて、合点したように声をかけた。