『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  134

2013-10-29 08:13:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽が昇る、闇が払拭され、朝となる。夕陽はつるべ落とし、朝陽の昇り方が速い、曙光が射してくる、太陽の全姿の昇りきる時間が短い、あっという間である。長さの単位 スタジオン を決めた季節は、春、夏、秋、冬、どの季節であったのだろうか、それは定かではない。
 アヱネアスは、陽の出がたまらなく好きなのである。玲瓏の朝の気を裂く曙光、身を浸す海、昇る朝陽に祈る、沸きあがる意志力の高まりを感じる。明日につなげる今日を考える朝行事の時を過ごす。また、朝行事の行き帰りにすれ違う、行き交う、その時に交わす『おはよう』、この一言が限りなく好きであった。交わす『おはよう』の短い語彙の中に、互いの今日と明日が凝縮されて、詰まっている。共有している運命、彼らと共にしている一体感をも感じていた。『おはよう』は、彼の祈りでもあった。彼が過ごしたトロイ、エノスに比べて浜までの道のりが長い、その間に、すれ違い、行き交う人の数も多い。それだけ彼の祈りの量が増えたといっていい。『おはよう』は、彼らの情感を感じ取る一瞬である。彼は『おはよう』の短い言葉かけを大切にした。
 彼は、今日もユールスを連れての朝行事である。パリヌルスと彼の取り巻き数人の一群が来る。
 『あっ!統領、おはようございます』
 『おう、おはよう』
 『昨夕はありがとうございました』
 『おう、パリッ、昨日の酒はうまかった、実にうまかった。お前と酌み交わしたのは久しぶりであった。あれしきの事は、礼には及ばん、当然のことだ。俺の為すべきことなのだ』
 あいさつを交わして、パリヌルスは浜へと向かう。顔見知りとすれ違う、自分は知っていない、しかし、相手が俺を知っている、『おはよう』に心を込めて挨拶を交わす。
 スダヌスも息子たち、浜衆たちを連れて朝行事にやってくる。今朝も朝行事で浜はにぎわった。