『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  126

2013-10-17 07:32:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭、今日はようこそ、足を運んでいただいてありがとうございます。私が案内いたします。ちょっとお待ちください』
 パリヌルスは、浜で采配をしているリナウスと小島のアレテスへの手配指示等を含めて打ち合わせを終えた。
 『浜頭、まいりましょう』
 『え~え、行きましょう』
 『今日はですね。スダヌス浜頭、ハニタス浜頭、それに土豪のガリダ頭もこちらに来ています』
 『ほう、そうですか。ガリダの頭とはめずらしい、皆さんと顔を合わせる、それはうれしいことですな。ハニタス、ガリダにも遠~く離れてもいないのに、日頃、顔を合わせることがない。そのようなものです。ここでそれらの方々に会うとは、、、、、』
 『ダルトン浜頭が来られて、統領も軍団長も喜びます。なかでも、オロンテスがいちばん喜びますよ。私どももこの地で、このように皆さんと縁つながりができたことをとても喜んでいます』
 『ハッハ、それはスダヌスの肝いり縁つなぎですな。彼には、独特な人徳があります。奴は、人と人との結び屋ですな』
 一行は広場についた。ダルトンの姿を見て、いちばんに駆け寄ってきたのは、誰あろうスダヌスであった。
 『ヤッヤヤヤ、ダルトン!よう来た。俺がここに来てダルトンお前の姿が見えない、気にかかることこのうえなしだった。元気だったのか』
 スダヌスは、ダルトンの肩をしっかり抱きしめた。続いて、統領、軍団長、ハニタス、ガリダが彼を迎えた。ガリダにいたってはダルトンとの邂逅は久しぶりであった。
 ダルトンは、広場を見まわした。
 『これはこれは、何事です?』と目を見張った。
 その頃には、もうすでに場を整えていた者たちの手で広場の焚き火のシマに火入れが終わっていた。焚き火の炎は広場をにぎにぎしくしていた。
 ダルトンは、統領と軍団長に対して改めて挨拶を交わした。。
 『このたびの小島における壮挙、このクレタ島の西部地区で知らぬ者がいないと思われるくらいに、津々浦々に喧伝されています。もう誰も知らぬ者はいません』
 小島の海賊掃討をやったことが、彼らを招かずとも彼らに足を運ばせた。
 広場には、全員が集まって来はじめていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  125

2013-10-16 08:04:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、オロンテス、ご苦労ご苦労。急づくりにしては、上出来の祭壇ではないか、なかなかいい。これで儀式はいける、ありがとう。ところで儀式催行の事もある、開宴は何時にするか、打ち合わせをやろう』
 『私としては、太陽があの木のてっぺんに来たら、開宴しよう。その算段で作業を進めています。儀式をやるとすれば少々早めなければなりませんな』
 『よしっ、判った。あと少々、時間がある、全員召集の手配、指示をそれに合わせる』
 『判りました。私のほうもそれで段取りをしていきます。焚き火のシマ、酒樽の配置はすでに終わっています。頃合いをみて、焚き火に火付けをやります。それに合わせて全員を場につけてください』
 『判った。その手配は俺がやる。オロンテス、頼むぞ!』
 『判りました』
 統領たちのいるところにパリヌルスもオキテスもいる、イリオネスは戻ってきた。
 『おう、パリヌルスにオキテス、開宴は太陽があの木のてっぺんに差し掛かった時とした。いいな、全員召集だ。手配を頼む』
 『判りました』
 二人は、直ちに召集手配に取り掛かった。オキテスは従卒を呼び寄せ手配を終えて、燃料の集積場へと歩を運んだ。
 パリヌルスは浜へと向かう。数人の男たちが一艘の小船から浜に降り立つ風景を目にとめ、彼は歩を速めた。
 男たちは総勢6人であり、うち4人は小船の漕ぎかたである。一人の男とパリヌルスの目があった。パリヌルスはその男に駆け寄った。
 『おう、ダルトン浜頭、ようこそ!』
 『お~お、パリヌルス隊長。このたびは、快挙でしたな。私どももこのうえなく喜んでいます。それにしても大変だったでしょう。お味方の損傷はいかほどでしたかな?私どもとても気にかけています』
 『それはそれは、ありがとう。戦死は4人、負傷者は三十人余りというところだ』
 『そうですか。なくなられた方のご冥福を祈ります』
 ダルトンは丁重に受け答えをした。二人は挨拶を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  124

2013-10-15 07:21:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスの担当の今日の役務は、燃料の事、小宴の事などで多忙を極めていた。オロンテスは、スダヌス浜頭からのいただきき物の食材に目を通した。思ったより量も多く、今が旬の魚介類が豊富であるのに目を見張った。また、野菜類もあるではないか。
 『お~お、これはこれは、ありがたい!大層ないただき物だ。今日は、皆が喜ぶ。お~い、皆、ここへ来てくれ、作業について説明する』彼は、一同を見渡して、指示を出した。
 『一同、よ~く見ろ!今日の食材はすごく多い、量も多い、品数も多い。シマひとつに30人足らずが集まる、大ざるに盛って各シマに配ってくれ。また、客人も結構な人数だ。今日は小宴というが、この土地の安泰の祈願、パリヌルスの祝勝の事もある。中身の濃い宴だ。しっかりと心して場を整えてくれ。判ったな』
 『おうっ!』掛け声があがる。
 『セレストス、気を引き締めて、監督して場を整えるのだ。いいな。ところで、焚き火のシマをいくつくらい作ったのだ?』
 『はい、30余りです。薪も配り終えました』
 『酒樽はいくつくらい配置した?』
 『これは、30足らずです』
 『調味の塩も各シマにおいたな、いいだろう。軍団長から指示が来た。場を見ながら、ひとつ骨を折ってくれ。適切な場所を選んで祭壇を造ってほしい、陽の沈む方角に向けてだ。急いでくれ。陽が沈む前、陽の高さがあの木のてっぺんくらいに来たら開宴する。儀式から始まる。判ったな』
 『判りました』
 セレストスは、作業を手伝ってくれるもの数人を引き連れて場へと急いだ。彼は、場の真ん中に立って場を見渡し、祭壇の場所を決めた。小宴の場は整っている、太陽の位置を確かめて開演までの時間を計った。彼は声をあげた。手伝い人たち一同に声をかけた。
 『急ごう、時間が少ない。燃料の集積場に行って材料の調達から始める。行くぞ、ついてこい!』
 彼は、歩きながら、祭壇のカタチを考えた。祭壇づくりの材料は適当な生木でくみ上げることにした。彼らは用材をその場で腰の剣をふるって調製した。場に戻り、縄で縛り、結わえて祭壇を作りげた。そして、祭壇の前には、いけにえの羊を裁く場も整えた。オロンテスが供物を整えて姿を見せた。
 『おう、セレストス、なかなかいい!生木を使ってくみあげたか。いい出来ではないか。そして、いけにえの裁く場も作ってくれたのか。ありがとう』
 彼らの作業風景を統領や客たちが場の遠くから眺めていた。
 イリオネスが黒白2頭の羊を引いて、急ごしらえの祭壇のところに来てオロンテスに引き渡した。オロンテスは、羊を傍らの樹の幹につないだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  123

2013-10-14 07:01:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、話しながら歩んでいる、立ち止まり、小島とその周辺の海を眺めた。連れ立っている者たちも二人の会話を小耳にはさみながら、小島のある風景に目をとめた。
 軍団長の許へ従卒が駆け寄ってくる、伝言を受ける。
 『ハニタス浜頭と土豪の頭が、判った。俺たちは、広場に戻る。皆さんに少々待ってもらってくれ。あ~あ、それからだな、今日、予定している小宴の事だが、場を整えるように伝えてくれ』
 『はい、そのこと、小宴の場づくりはもう始まっています』
 『ほうっ!そうか。それなら、それでいい』
 間をおかずに彼ら一行は広場に戻ってきた。軍団長が進み出て、ハニタス浜頭、ガリダ頭、その一行を迎えた。
 『お~お、軍団長殿、このたびの快挙よろしかったですな。私どもまさかと思いました。まさに寝耳に水ではないですか、驚きの一語です。話の真偽を確かめるのに少々手間取りました。それが事実であると判り、心からの驚きと感激です。謹んでおめでとうを言わせてもらいます』
 土豪の親分に似せない丁寧な口上であった。
 アヱネアスとガリダが顔を合わせる、言葉を交わすことなくしっかと手を握り合った。
 『ガリダ殿、今日の来訪ありがとう。心から礼を言います』
 『このたびの快挙、おめでとうございます』
 ハニタスも言葉をかけて来た。
 『アヱネアス統領、海賊一掃の快挙おめでとうございます。これだけでは言葉が足りませんが、謹んで心からお祝い申し上げます。そして、この地に移られたこと私ども大歓迎です。これはお互いの喜び事だと思っています』
 ハニタスの言葉は、トロイの民に対する歓迎の言葉と受け取った。
 『いろいろとありがとう。ご両人、今日は、ささやかですが小宴をと思っています。どうぞご一緒ください』
 『そうですか、それはそれは、喜んで馳走になります』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  122

2013-10-11 08:48:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 統領と軍団長が姿を見せた。
 『やあ~、スダヌス浜頭!ようこそ、ようこそ、達者でしたかな。貴方の肝いりで、いいところに砦を築くことができる。感謝の気持ちでいっぱいです』
 『統領!そのように言われると私は恐縮いたします。いい城市を築き営まれますよう祈ってやみません。それに、今回の海賊掃討作戦の快挙、よろしゅうございましたな。おめでとうございます。心からお喜びを申し上げます。あのような者どもは目の上のたん瘤ですな、そのたん瘤が無い、まったく喜ばしいことです。無いにこしたことがありません』
 『どうも、どうも、浜頭の言われる通りです。これを聞いている私、そして、耳にしている一同、感動しています。ありがとう、浜頭』
 『ここに持参しました物、私どもの気持ちです、どうぞおおさめください。魚は新鮮ですぞ!朝採れのキトキトピチピチです。何かと目出度い行事です。羊は白と黒で整えました。どうぞ、お受け取りください』
 スダヌスは、ここで姿勢を整え、周りの者たちにも姿勢を正すよう促し、改まった。
 『今回の事、全ておめでとうございます』控えている浜衆たち一同もスダヌスの言葉に和して合唱した。
 『浜頭、ありがとう。この品々、喜んで頂戴する。本当にありがとう』
 アヱネアスは、深く礼を述べた。訪問歓迎の言葉のやり取りが終わった。互いに満面に笑みをたたえての交歓風景であった。
 『スダヌス浜頭、どうです。少し歩きましょうや』
 『いいでしょう。歩きましょう』
 『浜頭、今日はですな。ハニタス、それに土豪のガリダ頭がこちらに来ることになっている。もうそろそろだと思うが』
 『そうですか、申し合せたように会えるというわけですな。あの小島の海賊どもを一掃された。もう、キドニアの街をはじめ、岬半島、知らぬ者はいません。砂と火山灰のあの小島。こうして眺めてみれば、あのような奴ら、居てもらっては百害あって一利なしです。消えてなくなって当然ですな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  121

2013-10-10 08:03:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一歩、歩を引いて身を離したスダヌスは、パリヌルスをしげしげと見つめた。額を見つめる、目を合わせる、右肩に目を止める、左肩に目をやる、目線を下げていく、足を見つめて、つま先を見て目線をあげて、目と目を合わせ、身を寄せてパリヌルスの肩を再び力を込めて抱き寄せた。
 『大丈夫だ!パリヌルス、お前の五体は満足だ、大変だったろう、ご苦労であった』
 『おう、仕事は確かにやり遂げたが、俺は何もしていない。この身より大事な部下を四名失った。それが悔やまれる』
 『そうか、その心痛はよくわかる。耐えるのはすこぶる苦しい。俺にも呉れて少しは楽になれ』
 『ありがとう。そのように言ってくれるのは、スダヌスお前だけだ』
 会話を交わして二人は、互いの五体の満足を喜び合った。パリヌルスは、スダヌス浜頭の用件は聞かずともわかっている。彼はそれを聞くような野暮はしなかった。
 船から降りてきたクリテスの兄弟たちにも身を寄せて、肩を抱き、互いの達者を確かめて歓迎の意を伝えた。
 末弟のイデオスが声をかけてきた。
 『ソリタンはどうしていますか?俺も大義を背にして闘ってみたい。そんな気概を心の中に持っています』
 『イデオス、それはだな。お前が男であるという証拠だ』
 パリヌルスは、リナウスを呼んで、アレテスへの伝言の件を質したあと作業の段取りを言渡し、スダヌス一行を案内するべく浜を離れた。
 一行は、ほどなく集落地の高みに着く、スダヌスは振り返って小島のある海を眺めた。スダヌスは彼なりの感想を口にした。
 『そうだな。あのようなところに海賊が居ては話にならん。やったことは、大いに正しい』パリヌルスを見つめて目くばせをくれた。
 パリヌルスは、傍らの従卒に統領と軍団長を呼びにむかわせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  120

2013-10-09 07:34:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、作業の一段落を見てホット一息というところである。彼は小島に目をやり、目線をゆっくりと東の方角へと移していく、この季節に吹く西風がやや強い、陽は輝き、海は落ち着いていた。
 小島の海賊を強襲してから今日が三日目である、興奮が収まり、気持ちが落ち着いてきていた。
 『冴えた猛々しさ、そして、一歩前への沈着な意志力、これが俺に、いい仕事をさせる』
 パリヌルスは、独り言ちて、あの時の仕事の遂行と結果を振り返った。
 ゆっくりと目線を東のほうへと移していく、彼の視野の中に中型の漁船2隻が飛び込んできた。漁船はまだ遠くにいる、そのほかにも魚を漁っている漁船が数隻いるが、波を割ってこちらに向かってくる漁船は、この2隻だけである。彼は、目を凝らしてこれを見つめた。
 今、この近辺にパリヌルスたちに抗する者たちの存在は考えられない。『奴らは何者ぞ?』と目を見張った。彼はいぶかる目線で船に目をやっていた。
 パリヌルスのこの一週間は多忙の極みであったのだ。
 船は指呼の距離までに近づいていた。見たことのある風体の男が舳先にいる。何かをわめいている、声は風に飛んで聞き取れない。彼は、やっとのことで気づき思い出した。浜頭のスダヌスたちのことを思い出した。
 『ああっ!奴は、スダヌス!』
 風に吹きちぎられる、あのダミ声がやっと届いてきた。彼は手を振っている、パリヌルスも諸手を振って答えた。間もおかず、彼の船が眼前に迫った。浜に乗り上げる、スダヌスが飛び降りる、パリヌルスに駆け寄る、二人は、ヒッシと抱き合った。
 二人は同時に声をあげ呼び合った。
 『おうっ、パリヌルス!』
 『おうっ、スダヌス!』
 二人は顔を見合わせる、目線が合う、再びしっかりと互いを抱きしめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  119

2013-10-08 08:00:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ソリタン、お前は明日、薪を切り出す森の探索だ。今朝一緒だった二人とともに出かけてくれ。今日手がけたくらいの森を三つくらい目星をつけてくれ』
 『判りました。あまり遠く離れないほうがよろしいですね』
 『そうだ、その線で行ってくれ』オキテスは体の向きを変えて、『お~い、皆、さあ~さ、作業に取り掛かれよ』
 彼ら一同、『おうっ!』と声を上げて作業に取り掛かっていった。
 オキテスとオロンテスは打ち合わせた。
 『オロンテス、明日の事だ。集落の廃屋の事だが、動員する別働隊には、4番船の者たちを動員する。手が足りないと思ったら、1番船隊の者たちの手を借りる、それでいいと考えている。お前、これから忙しいだろうが、よろしく頼む。作業の者たちには、作業切りあげの頃合いを申し渡してある、心配はいらん』
 『判りました。隊長にはいろいろ手数をかけましたな』
 『何を言う、そのような気遣いはよせ。俺はパリヌルスのところへ行く。用事があったらそちらのほうへ連絡をくれ。頃合いを見て集積場のほうへ来る。それから、小宴はどこでやる予定にしている?』
 『あ~あ、その場所でしたら、昨日の荼毘をしたあの辺りにと考えています』
 『おおっ!そうか。人手が足りないようであったら、4番船の者たちに手伝わせたらいい』
 『ありがとうございます。判りました』
 オロンテスは持ち場へ、オキテスはパリヌルスのところへと足を向けた。。
 そのころ、パリヌルスは、1番船の者たちを引き連れて浜の整備にあたっていた。小島の浜の整備はアレテスが担当して2番船の者たちが作業にあたっている。彼は、今日、明日の二日間で浜を使いよく整備する予定で作業を進めていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  118

2013-10-07 07:53:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『燃料集めの件ですが、集落を巡って集めましたが古材の量が少ないのです。そのようなわけで、いっそのこと使わない建物なら、それらを壊して燃料にしてはどうかと思いまして』
 『どれくらいある?』
 『6棟です』
 『修復はできないのか』
 『それは無理です』
 『そうか、判った。お前の思うようにやれ』
 『ありがとうございます。明日、朝から別働隊にその仕事をやらせます』
 『判った。それがいい』
 話を終えたオキテスは、急いでその場を立ち去った。
 オキテスの後姿を見送るイリオネスの内心は、『う~ん、これでひと手間が省ける。廃屋の件はこれでよしとしよう』
 燃料集積の場に戻ったオキテスは、オロンテスと二言三言打ち合わせて、場を見渡し、作業に携わっている者たち一同を呼び寄せた。
 『諸君、ご苦労!昼めしは終わったか。今日、これからの作業について説明する。今、手を付けている森の状況はどんなだ。お前の持ち場の森はどうだ。今日はいけそうか?』と問いかけた。
 小隊長格の者が答える。
 『今日はいけます。明日はというと、これは、、、、』彼はここで首を傾げた。
 『次は、こっちの森を手掛けているお前のところだ。どんな具合だ』
 『私らがやっているところは、明日も行けます。思ったより森の奥が深いようです』
 『よしっ、判った。今日の午後の作業予定だが』と言って、西南の方角の空を眺めた。
 『陽が、あの森の樹のてっぺんに来たら、作業を切り上げてくれ。そのあと小宴が予定されている。海で汗を流し、シャンとして宴の場へだ。判ったな。それから、明日は、もう一日、この作業を続行する。いいな』
 彼らは、気勢で声をあげてオキテスに答えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  117

2013-10-04 08:18:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは、ひとりになって考えた。彼の心の中には、意志力が強くなってきているのを感じていた。
 『我々が形成するベクトル空間をまごうことなく建国へ導いていく』 彼はその自信を自覚した。
 簡易にしつらえられた昼食とともに、耳にするとうれしい伝言が添えられて配られた。昼の馳走はその伝言であった。
 オキテスもオロンテスも薪が集積されていく現場にいる。緑の葉をつけたままの原木が積まれていく、森を起点にして集積の場まで薪木を運ぶ列が適当な間隔を保って続いた。
 『なあ~、オロンテス、明日もこの作業を続けるわけだが、古材が考えていた量より少ない。集落を見まわったのだが使用することのできない朽ちかけた建物がある。いっそのこと壊して燃料にしてしまえ。お前どう思う。一応、軍団長に話を通す』
 『うん、それはいいですね。そうしましょう。私はその考えに賛成です』
 『判った。仕事は、別働隊を組織して事にあたらせる』
 『それで決まりです。オキテス隊長、昼めしにしましょう』
 彼は、『判った』 と短く答え、パンを手にして口に運んだ。彼は、パンを食べながら、二、三の者から森の事情を聞き取った。
 『そうか、今日はこのままいけるな』
 彼は、彼らの意見を聞いて状況を把握して、午後の作業の事を考えた。
 『オロンテス、俺はちょっとの間、場をはずすが、ここに戻るまで作業隊をここにとどまらせておいてくれ、すぐ戻る』
 オキテスは、イリオネスのところへ足を運んだ。
 『軍団長、ほ~ばっていますね。ちょっと話したいことがあります』
 『お~っ、なんだ。忙しそうにしているな』
 『え~え、そうです。チョッピリ忙しいといったところです。実は燃料の件で軍団長に話しておきたいことがあります』
 『何を話しておきたい?』
 『むつかしい用件ではありません。集落の中に点々とある使用に耐えない朽ちかけた建物があります。今も使用していません』
 『うん、そうだが、それで?』